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異世界渡航ビジネスDOIT〜幾千万と存在する異世界なんて管理しきれません〜  作者: あ
〜奴隷蔓延るエルフの森林世界〜ウィズロス編
20/33

#19 Star Pinnacle

「ん……」



 朝──円依は白い部屋で目覚める。眠い目を擦り、ベッドからゆっくりと起き上がる。

 そして部屋で電子音が響くと、ホログラムが自動で起動し、合成音声が流れる。



『おはようございます円依様。経過観察から160時間経過いたしました。本日で検査入院期間は満了となります。お疲れ様でした』


「あ、そっか……今日で終わりだ」


『後ほど担当の者がお迎え上がります。準備の程をよろしくお願いいたします。それでは、いってらっしゃいませ』



 円依の観察期間──その短いようで長い7日間が終わりを迎える。

 朝の支度を済ませ、用意された朝食を食べ終わった時瞬間、まるで見計らっていたようにその扉は開かれた。



「円依さん。お迎えに来たんご」



 部屋にやってきたのはスーツを着た女。

 銀と漆黒が交差する髪が特徴的であり、顎のラインを覆う特殊なインカムを装着していた。



「……!」



 円依はその女を視認した瞬間、言葉を失った。

 その風貌にはとても見覚えがあったからだ。

 イルマが画面越しに幾度も眺めた存在が、目の前に現れたのだ。



「うっそ。シンアイ……さん?」


「はじめまして。私をご存知でしたか」


「も、勿論! DOITのイメージキャラクターであり、最高天と評されるS(Star )P( Pinnacle)の1人……会社の広告塔として女優や歌手の顔も持ち、様々な分野で活躍する日本を代表するスター! 日本人で知らない人いないと思います……!」


「あざます。改めまして、私の名はシンアイ。親身に寄り添うAIというコンセプト掲げ、日々人類の皆様のお手伝いをしております。以後お見知り置きを」



 アンドロイドの女シンアイは、円依に軽くお辞儀をする。

 シンアイ──日本を代表する企業DOITのイメージキャラクターであり、社員の頂点であるSPの1人。

 このシンギュラリティ社会では、彼女を見ない日はないと言っても過言ではない。

 インターネットから文字を取得しており、柔軟な思考回路を持つが故に珍妙な略語を使う。

 口調や言葉遣いが不安定なのは御愛嬌だ。



「あ、あの……不躾なお願いなのは承知してるんですが……さ、サインいただけませんか?」


「どぞ」


「え、はやぁっ!? てか字めっちゃ綺麗!」


「精密機械ですから。ちなみにこれでサインは記念すべき10000枚目です。きり番です」



 彼女はれっきとしたAI搭載のアンドロイドであるが、見た目は勿論、思考も人間と変わらない最新鋭のAI。

 他の追随を許さない人工知能の極致と言える彼女の中身は、社長である獅堂しか知らないブラックボックスである。



「お話がございますので、こちらへどぞ」


「はっ、はい」



 緊張した面持ちでシンアイの後にする続く円依。

 やがて大きな円卓が中央に置かれた会議室へと案内された。

 会議室では先客がいた。

 その人影は、円依を見るやいなや、一目散に駆け込んでくる。



「おぉイルマ! 会いたかったぞ!」


「え、ウルさん!?」



 駆け寄って円依に抱きつこうとするウルセラ。

 本人は両手で押しやってそれを阻止する。



「ちょ、なんでここに!?」


「彼はすぐに送還すべき保護対象なのですが、イルマを出せよときぼんぬするので……」


「ハッハッハ! 王の名はシドウと言ったか。中々に話のできる貴品溢れる王であったよ。斯くもああなりたいものだ」


「え? 社長と話したんですかウルさん……て、もう顔近いってば」



 円依の髪に必死に頬擦りするウルセラに代わり、シンアイが補足する。



「社長は本人のきぼんぬを尊重したいと……一定期間の監視を条件に、我が社で保護せよとの社長命令です。本人の希望通り、円依さんの下につかせます」


「え……それってまさか、彼を雇うって事ですか!?」


「せやな」


「ええええええぇぇぇーっ!!」



 まさかの命令に仰天する円依。

 シンアイは目を閉じ、半ば諦めるように首を横に振る。



「いやいやあり得ないでしょ!? 意味わからん! 社長何考えてるんすか!?」


「はげどーです。あのお方は慎重派に見えて、とても大胆な人です。この処遇も好奇心故にでしょう……しかし社長命令は法の下に絶対ですから」


「り、理解が追いつきません……」


「ハッハッハ! これから宜しくなイルマ。帝国の王子から身を落とし、一民として立身出世するも悪くない」


「ウルセラさん。貴方には覚えてもらうべき事が山程ございます。こちらへ来てくれめんす」


「おぉ勉学か、任せよ。シルフィリア帝国の王子として立派に──」



 自動ドアが閉まり、そこで声はかき消される。

 ウルセラはシンアイに何処かへと連れ去られた。

 円依はただ唖然と、会議室に1人残された。



「まさか彼がDOITに……前例があると言ってたけど、こうやって匿ってたんだ……社員にも隠れ異世界人がいるのかな? て、あれ? 私は一体どうしたら?」



 ウロウロと無聊を託つ円依が、自動ドアを通ろうとした瞬間、その2人はやってくる。



「お、いたいた」


「イルマちゃんみーっけ♡」



 金色のシャツが見え隠れしている白い派手なスーツを着た色黒の男と、胸を大きく露出している赤いスーツを着た大柄な女。

 円依はこれまた見覚えのある2人に、驚嘆の声を漏らす。



「は、はぅわ〜……網田寿司郎(あみだすしろう)さんに、恋淵(えろぶち)紫江(しえ)さん! ま、また有名人と出会ってしまった……!」


「あらあら。私達の事知ってるんだねえ。ますます可愛がりたくなるわ」


「いいねいいねえ! 俺の名声が轟いてるって事だ。女に知られてこその益荒男ってもんだぜ」



 派手な身なりをした2人。

 そのスーツの襟には、SPを冠する輝くバッジが飾られていた。



「はじめましてだな円依。俺は綱田だ。咲かせるは燦然と輝く金の華、泣かせるは三千の女の涙。DOIT一の快男児とは俺の事だぜ」



 親指で自らを指す男──綱田寿司郎。

 DOITの営業部に属するSPの1人。

 型に嵌まらない企画力と、人を惹き付けるプレゼン力を活かして、SNSや動画投稿サイトにて手腕を振るう遊撃隊長である。



「近くで見ると更に愛おしいわねえイルマちゃん。あーヤバい……むしゃぶり吸いつきたくなるわ」


「えっ」



 サングラスを外して円依を見下ろす女──恋淵紫江。

 同じくDOIT営業部に所属するSPの1人。

 180を越える身長にグラマラスな体型が美しい女性だが、口開けば猥談飛び交う歩くわいせつ物。

 男性からは非常に人気だが、子を持つ親や教育機関からは敵視されている。



「あ、あの……すみません。サインとかって──」


「「いいよ」」



 まるで用意してたかのように、同時にペンを取り出す綱田と恋淵。

 慣れた手付きでサインを書き上げ、円依に手渡す。



「はわぁ、ありがとうございます! SPの方に会えるなんて……しかも3名も。サインコンプする日も近いのかな」


「ウハハハ! そう幸運の元に出会えた訳じゃねえぞ。これは必然だ。それに、俺等とシンアイ以外は会っても分からんだろうよ」


「そうねえ。私達以外の他のSP4人は情報公開してないし、社員でも知ってる人少ないと思うわよ」



 SPの素性は半分以上が不明である。

 単純にメディア露出を嫌う者が殆どであると言われているが、実は存在しないのではないかとも囁かれている。

 所謂、裏から会社を支えている縁の下の力持ちなのだ。



「あれ? そういえば私は、話があるって呼ばれたんですけど……」


「おお、そうだ。俺等が呼び出したんだよ。話題のイルマって奴を、この目で見ておきたくてな」


「話題?」


「1週間も機械に身体をぐちょぐちょにされてたから、イルマちゃんは知らないんだねえ。今、会社はあなたの話題でもちきりよ」


「ぐちょぐちょにはされてませんけど……そうなんですか? もしかして、世界をめちゃくちゃにして異世界人も連れてきたから……」


「お前の固有スキルだよ」



 綱田は円依をビシッと指差し、大きく手を広げて天仰ぐ。



「固有スキルは謂わば人の夢だ! そいつがどうしたいっていう大望そのもの。スキルに嘘はつけん……本人も知り得ねえ深層心理から欲を引っ張り出す。だからこそ固有スキルには、本人の強欲さが滲み出るんだ」


「でもあなたは慈愛という回復スキルを授かった。人を助けたいっていう想いが、そのまま形になっている。偽善ではなく本心で人を助けたいと、ね」


「俺も含めて、どいつもこいつも我欲を全開にしてるのに、お前は他者を助けるという欲を出した。それが異常ですげーってんだよ」


「そ、そうなんですか……」



 円依は自らの手を眺める。

 授かった慈愛(レジリエンス)という回復スキル。

 しかし本人の円依は、異世界では大して意味を成していなかったと、唇を噛み締めて悔いるばかり。



「そもそも回復スキル自体が稀有だ。傷付くのが嫌で自らだけを癒すみてえな、独りよがりな回復スキルはたまに現れるが、ここまで他人にも影響がある回復スキルは、今のところDOITでお前だけだ」


「しかも(ボンディ)でこれだからねえ……ムクムク成長して、ランクが(ゴス)になったらどうなっちゃうのかしら。楽しみねえ♡」


「固有スキルは本人の器と欲の強さによって、その威力や影響力も左右される。お前のスキル……相当な器と欲深さと見た。己の深欲を見つめ、その欲を認めて開放した時、自然とランクも上がる。お前が民から始まったのは、自信がなく自らを弱いと思ってる証拠だ」


「うっ……」


 ズバリと指差す綱田。

 円依は思い当たる節があるように、シュンっと肩を落とす。

 その頭を優しく撫でるのは、恋淵の手のひらだった。



「ランクなんて後からいくらでもついてくるけど、固有スキルは生まれ持った才能よ。自信を持ちなさいイルマちゃん」


「う、あ、はい……」


「浮かない顔ねえ。でも不安なのは分かるわ。だからこそ私はここに来た。忠告と顔合わせの他に、もう一つ提案あるの」


「え?」


「ここから本題なんだけど、イルマちゃん。私と一緒に異世界デートしましょ? 彼……ウルセラちゃんの研修も兼ねて、私がスキルや戦闘に色々と教えてアゲル。強くなりたいと願っているんでしょう? 私なら手取り足取り教えてやれるわ」


「え、えぇ? な、なんでその事を──」



 円依の口に、恋淵の人差し指が充てがわれる。

 その妖艶な瞳を円依に近付け、ニッコリと笑ってみせる。



「どう? 強くなりたくないの?」


「……なりたいです! 支店でお客様を支えるのも大事ですけど、もっとスキルについて知って強くなって、堂々といれる自分になりたいです!」


「いい返事ね。いいわあその若さ……あ、異世界調査手当の休日なくなっちゃうけどいい?」


「勿論! むしろ都合がいいくらいです」


「はーい、じゃあ決まりね♡」



 恋淵は円依の額に優しくキスをすると、長い胡桃色の髪を翻してドアへと向かう。

 円依は頬を赤らめてぽけーっとしていたが、すぐに我に返る。



「ついて行ってやりてえが、俺は多忙なんでね。頑張ってこいよ」


「はい、ありがとうございます。会えて嬉しかったです」


「さ、ついてらっしゃい。早速彼を迎えに行くわよ」


「はいっ!」



 恋淵の後に続く円依。

 明日の成長を願って、決意を固める彼女であった。

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