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異世界渡航ビジネスDOIT〜幾千万と存在する異世界なんて管理しきれません〜  作者: あ
〜奴隷蔓延るエルフの森林世界〜ウィズロス編
13/33

#12 顕現せし者

「やれやれ……結局こうなるのね」


「奴隷の身である我々を、ここに連れてくるのおかしいですもんねー……よく考えれば」



 取り囲むように槍あるいは剣を、イルマとマージフに向けて躙り寄る騎士団。

 冷静に対処する団員に対し、長であるウルセラは──動揺を隠しきれなかった。



「父上、何を……!? イルマは大切な客人ですよ! 刃を向けるなど……!」


「あれ、俺は?」


「お前達も武器を下ろせ! 一体どういう事なんだ!」


「……申し訳ございません。命令は聞けません」


「お前達……!」



 父の乱心、そして部下の裏切り。

 突然の出来事に、ウルセラの頬に汗がつたる。

 皇帝は感ける事なく言葉を続ける。



「案ずるな。傷付けたりはせん。神樹を崩すのに、此奴らが必要だというだけ──そう予言にあったのだ」


「妖精魔環の予言……という訳ですか」



 皇帝は懐から、懐中時計のような小さな円盤を取り出す。



「……これは世界に7つ存在する、シルフィードが造りし遺物の一つ。名を『妖精魔器』という。膨大な魔力を放出し、神樹をも滅する力を持つ破壊兵器なのだが……単体ではどうにもならぬ代物。この器に、神樹を崩すだけの魔力が必要なのだ」


「それで私達が必要だと? 解せませんね。私達は魔力なんてないはずですよ。皇帝陛下なら分かってると思いますが」


「ああ、分かっているとも……主等の中に絶大なエネルギーがあるのをな。それを借りるだけよ。そして神樹を破壊し、中に眠るし災厄を滅する!」


「エネルギー……?」



 妖精魔器を手に口角を歪める皇帝の言葉に、イルマは片眉を吊り上げる。

 自分の中に魔力があるのかと小首を傾げるが、それと同時に果たしてこのまま、そのエネルギーとやらを捧げても良いのかと按じていた。



「あの、マージフさ──」



 どうしようかとマージフの方へ振り向いた時だった。

 イルマは後方より現れたものに、自らの目を疑う。

 騎士団も異常を察知したのか、すぐに武器を構え直す。



「誰だ!」


「どうやら間に合ったようですね」



 木陰より現れ、妖精魔環の上に乗り立つ人影──ロアンであった。

 新緑のローブで全身を包むロアンは、巨大な書物を抱えていた。



「ロアンさん!?」


「この時をずっと待っていましたよ……皇帝ローゼル」


「誰だ貴様は? 邪魔をしおって……妖精魔環から降りるがよい! 触れる事すら許されざる代物ぞ!」


「許されざる? 厚顔無恥もいい所ですね。そっくりお返ししますよ。大精霊様が遺された神樹を、私利私欲の為に切り崩そうなどと……それでも、神樹の下にある国の統治者なのですか?」


「私利私欲だと? 下賤者め……朕がどれ程の惨痛と葛藤の下で大義を掲げ、この場にいると思うている!」


「……不遜な。よくもまあ、そんな虚言を吐けるものですね。全てこの妖精魔環に依存しますか。では、魔環の真実の姿を見せましょう」


「愚か者めが! 妖精魔環は王家の者しか扱えぬ予言球。血の誓約という魔法なのだ。貴様が触れた所で何の力も出ぬぞ! 騎士達よ、早く奴を捕らえるのだ!」



 皇帝の命令で妖精魔環を取り囲む騎士団。

 騎士の槍を躱すには、今ひとつ高さが足りない球体。ロアンの足元に穂先が触れそうになった時。

 ロアンは抱えていた書物を開く。

 皇帝は植物が生い茂るその書物をその見るや、驚嘆の表情を浮かべた。



「そ、その書物は……!」


「これは僕が100年かけて探し出した書物──大精霊様の遺物の一つ『妖精魔書』です。いにしえに滅んだ魔法を誰でも扱える本……そして、王家の血を使わずに魔環を反応させる唯一の魔具。今こそ真実を陽の目に晒す時ですよ」


「本にそんな力が……!? 貴様、何をするつもりだ!?」



 ロアンが本の文字を詠唱すると、辺りに風が吹き、魔環が光を帯びて浮かび上がる。

 鏡面のように写る特殊な結界は、球体の中を決して露見させなかった。

 だがそんな結界は、ロアンの魔法によりその中身を顕にする。



「こ、これは……? どういう事っすか」


「……書斎でのアレは見間違いじゃなかったのか。こりゃとんでもない陰謀のニオイがするぞ」


「そんな事があるんですか……!? だってあれは……あれは──」



 妖精魔環──球体の中には、黄金色の液体が満たされていた。

 だが意識すべきは液体の中、胎児のように蹲る裸の少女だ。

 その無垢な薄緑の身体を保護するように、色彩豊かな花や植物の蔦が彼女を包んでいた。

 背中からは神々しい模様をした羽根が、大地に根を張る樹木のように伸びている。

 この少女は、この世界に生きる全ての生命が知る姿であった。



「大精霊シルフィード……!」


「父上! これは一体どういう事なのですか!」



 イルマとマージフ……そして騎士達も困惑の声を漏らす。

 この露見した事実の真相を知るのは唯一人──この場のいる全員が皇帝の言葉を待っていた。



「フゥ──」


 それはたった一息の呼吸……しかしその漏れ出る覇気に、この場が吹雪のように凍てつく。

 その瞳には、暗い殺意を孕んでいた。



「……それはシルフィードそのもので間違いはない。帝国を建国する前に、力尽きた此奴の肉体を回収し、その絶大な力を利用していたのだ。予言の道具としてな」



 この世界の象徴であるシルフィードを、道具呼ばわり。

 皇帝の突然の告白に一同は絶句する。



「かの大戦により、シルフィードとノルゲンの魔力は潰えた……朕はな。それが悲しくて仕方なかった──予定より早いが、こうなっては致し方あるまい」



 皇帝は持っていた錫杖を、唐突に地面に突き立てる。

 すると杖は光りだし、やがて大地を揺るがす震動が起きる。



「な、なんだ……!?」


「父上……! 一体これは何なのですか!?」



 ローゼルは天を仰ぎ、カッと目を見開く。


「魔力が、魔法が。あの素晴らしい叡智の結晶が消えてしまった。朕はそれが許せんのだ! それに比べれば、魔力を消したあの鬱陶しい大精霊など、ただの道具よ!」


「父上……!」


「滅びの予言など虚言よ……全ては、この神樹に眠りし魔力を解放し、ウィズロスを再び魔法の世界にする為よ! 魔力を持つエルフの創生! これにより、我がシルフィリアは全てを支配する!」



 大地を揺るがす震動。

 そして皇帝の乱心。

 その異常事態に、百戦錬磨の帝国騎士達も動けないでいた。

 とある1人が後退りした瞬間、その騎士は苦しむように突然発狂すると、その場に倒れ込んでしまう。



「な、なんだこれは!?」



 その身体から出た白い燐光は、皇帝が持つ妖精魔器へと吸い込まれていった。



「貴様らにも神樹破壊の糧となってもらうか。ククク……祖国の為に死ねるのだ。本意であろう? まあ、所詮魔力持たぬエルフ。得られる量はたかが知れてるがな」


「ぐ、ぐあああああぁぁー……っ!」


「へ、陛下……あぁ……っ」



 次々と倒れ、そして消えていく騎士達。残りは、団長ウルセラのみとなってしまった。



「なんて惨い事を……」


「……」


 ウルセラは露と消えてしまった騎士団達を前に、ただ無言で歯を食いしばり、固く拳を握る。



「……無限などありはしない。朕の国もいずれ消えてしまう。娘アロセラが消えて、喪失という言葉が朕の頭を蝕むように残り続けた。妻も、娘も、友も……皆去った。だから作り上げるのだ! 絶対の繁栄を! 魔法による永劫を!」


「愚かな……命の冒涜、大精霊様への所業。許せませんね」


「フンッ、何も知らぬ小僧がぬかしよるわ。大精霊……朕の事に逐一とまこと鬱陶しく小言を吐きおって。あんな鬱陶しい女、口を閉ざして利用するだけ利用すればよいのだ」


「墜ちましたね皇帝ローゼル……最早、あなたにエルフの統一者たる資格はありませんよ」


「黙れいッ!」



 手を錫杖にかざし、怒りのままに光を操る皇帝。

 その筋はイルマとマージフを捕らえようと弧を描き、2人の身体を目掛けて飛翔する。



「っと、危ねえな」


「えっ、あぁっ、やば!」


「ちょ、マルちゃん!」


 マージフは危険を察知し、その身を躱して光の手から逃れるが、不意を突かれたイルマは光に取り込まれ、その身が一瞬で霧散してしまった。



「な……マルちゃん!?」


「消えた……? イルマさんをどこへ!」


「なんだこれは……!? あの女はどこへ行ったのだ!」



 皇帝も意図しない出来事。

 イルマがいた場所に浮き出た燐光は、妖精魔環へと吸い込まれるように消えていった。








「ん……」



 イルマは全身が引っ張られる感覚に陥る。

 己を呼ぶ皆の声が遠ざかっていく。

 気が付くと……もう何も聞こえない。

 目を開けても閉じても、そこは真っ白な世界。

 まるで世界に溶け込んだかのように、身体全体が消えていくような感覚にみまわれ、イルマの意識は深く淀んでいく。



「頭が……手も足も……ない……なにこれ……」



 自分が何者か……今までの全てを忘れそうな微睡みの中、イルマの中にたった一つ流れ込んでくるものがあった。



「──て」


「誰……? 私の中に誰かが……」


「──きて」


「優しい声……あなたは一体……」


「──目覚めるのです」


「あ、あなたはまさか……大精霊──」


「起きてえええええぇぇーっ!!」


「うわあああぁぁーっ!」



 慮外の大音量に驚くのも束の間、自らの頬にムニッと何かが触れる。

 ゆっくりと視界を正面に向けると──妖精魔環の中にいた少女と瓜二つの存在が、イルマの頬をウリウリと突っついていた。



「あ、あなたは……」


「起きたわね寝坊助のお嬢さん。(われし)に感謝しなさいよ? もう一歩で魔力にされる所だったわよ」


「えっと、あなたは……」


「おーっと、自己紹介がまだだったわね。あなたはこの邂逅を誇っていいわ。光栄に思いなさい……この清く美しく可愛く! たおやかで静謐でお淑やかで! そして圧倒的なオーラを纏った最強に可愛い妖こそが! 世界を生み出した大精霊──シルフィードよ!」



 腰に手を当て仰け反り、鼻高々に少女はそう自己紹介する。

 可愛い2回行ったなというツッコミは一旦置いておいて、イルマは目の前に現れた大精霊と名乗る少女を眺める。そしてポツリと思った事を溢す。



「い、イメージと違う……」

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