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異世界渡航ビジネスDOIT〜幾千万と存在する異世界なんて管理しきれません〜  作者: あ
〜奴隷蔓延るエルフの森林世界〜ウィズロス編
11/33

#10 王城の晩餐会

 奴隷商人を憲兵へ引き渡し、一同はいよいよ王城の前へ立つ。

 巨大な総構えが見下ろす大扉。

 門衛はウルセラの姿を視認すると、すぐに姿勢を正す。



「こ、これは殿下! おかえりなさいませ……その者達は?」


「ああ、彼らは余の客人である。父上に報告は不要だ」


「は、はっ!」


「すげー……本当に王子サマかよ。とんでもねェ知り合いができちまったな。城にいきなり入れるなんて……ビギナーズラックか?」


「だといっすけどね……それにしてもロアンさんはよかったんでしょうか」



 ロアンは「僕はやる事があるので宿で待っています」と、少し後ろめたい様子で同行を遠慮し、2人を見送っていた。



「うーん……いきなり城へ入るってのも抵抗あったんだろうな。俺等だっていきなり皇居に入れって言われたら、ちょっと躊躇うだろうし」


「確かに……まあ、業務するには都合いいですし、ロアンさんには留守番してもらって、私達は調査をするとしましょう。何か収穫があるといいですね」



 シルフィリア城──黄金と深紅の円舞。

 幾星霜の歴史が積み重なった均整の固められた様式美は、見る者全てを魅了するであろう。

 そんな煌びやかな宝飾で彩られた豪華絢爛な王室は、催事以外は王宮地区の貴族でさえ、安易に足を踏み入れる事が許されない場所。

 イルマは、その応接間の一室に通され、大勢の侍女に囲まれながらドレスの着用を命じられていた。



「あの……何すか。このドレスは。ここまで着飾る必要あるんですか?」



 まるで幼女に弄ばれるフランス人形だと本人は口をヒクつかせているが、星々のような宝石と刺繍があしらわれた月夜色のドレスと相俟って、イルマは傾国の美女と化していた。

 着替え終わったイルマのもとに、ウルセラはすぐにやってくる。



「奴隷とはいえ、このウィズロスで最も高貴でそして麗しい王城では、黒布は相応しくないからね」



 ウルセラは、長い薄桃髪から覗くその美形をイルマへ近付けると、細く小綺麗な指でイルマの頬をそっと一撫でする。

 その無垢な子供のような艶唇が、イルマの純潔に触れそうになるが……イルマは臆する事なく、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。



「ははーん……なるほど。そうやって数多の女性を落としてきた訳ですか。でも残念。私も少し()には自身がありましてね。そんな上辺なのが見え見えの営業スマイルじゃ、私は動じませんよ」


「……フフ。欺瞞の外交辞令が物言う王宮貴族の場において、そんな歯に衣着せぬ物言いは感心しないなイルマ。君は間違いなく美しいよ……それは本心だ」



 イルマは見上げ、ウルセラは見下ろす形でお互い近距離でニヤリと笑う。そんな所にマージフも合流する。



「……え? 君等もうそこまで進展したの? マルちゃーん……一応勤務中だよ?」


「いや、別にそんなんじゃ──って、誰?」



 イルマはその変貌っぷりに白目を剥く。

 そこにいたのは、闇夜の精霊と黒薔薇が描かた漆黒のローブを纏う、髪と髭を整えた上品な紳士。



「マージフさん? え、本当に? あのだらしないオッサンが、身だしなみ整えたらそんな変わりますか?」


「ハッハッハ。どうだ、惚れ直したか」


「……見直しはしましたよ。正直」



 2人はその装いに相応しいようにと、所為を整えつつウルセラに案内され王宮書斎へとやってくる。



「ここが書斎だよ」


「わぁ……」



 厳重な扉を抜けた先──古本の匂いと共に、その荘厳な光景が姿を現す。

 壁一面を覆う梯子付きの書棚には、本が所狭しと並べられていた。

 見上げど天井は遥か上……何階層にも渡って書棚が敷き詰められている。



「すごいな……こりゃ」



 羽根を広げた妖精を象ったステンドグラスからは陽光が差し込み、神秘的な光で書斎を暖かく照らす。

 エルフの叡智が集う圧倒的な光景に、2人は感嘆を漏らす。



「ふわわぁー……こんな大きな書斎見たことないです。魔法学校みたい」


「書斎っていうか図書館だな。城壁塔を丸々書斎にしてるのか」


「フフ、我が城自慢の書斎だ。王家のエルフはここで帝王学を身に付けるのさ」


「あの、ウルさん。アレは?」



 イルマは指差すのは、書斎の中央で異彩を放つ銀色の結晶体。

 鎮座する巨大な球体は淡く発光しており、その周りを黄金色のオブジェが、球体に沿うように浮遊している。



「あれは『妖精魔環(まかん)』と言う。この国が建国される前から存在するという、大精霊様が残したシルフィリア帝国の指標だ」


「指標?」


「ああ。魔環は別名、予言球とも言われていてね。手に触れる事で、頭の中に声が聞こえてくる。その予言に従う事で、我がシルフィリア王家は繁栄を続けてきた」


「へぇ……そんな便利なものが。明日はどんなネイルがいいか、私も占ってもらおうかな」



 自らの指を眺めるイルマに、ウルセラは首を振って乾いた笑いを溢す。



「残念ながら、王家のエルフ以外が予言を賜る事はない。つまり父上と余しか扱う事は出来ないのさ……実を言うと余が君達と出会えたのも、この魔環のお陰なんだ」


「そうなんすか?」


「魔環曰く──十三の月の時。城下町にて、蒼天の髪を靡かす来訪者に斯く声を掛けん。さすれば運命の女性と出会う……とね」


「……占いに出たからナンパっすか。結構乙女ちっくっすね」


「フフ、占いじゃないよ。予言さ。魔環の予言は絶対だ。これまで外れた事がないからね」

「絶対当たる予言すか……なんだかちょっと怖い気もしますけど」


「……まあ、その魔環の予言で、父上は気が立っておられるんだけどね」


「……?」



 ウルセラはそう小声で呟くと、ヒラリとマントを翻して書斎の出口へと向かう。



「さ、晩餐まで時間もある。好きなだけ書物を読み耽るといい。余は少し出てくる。時が来たら迎えに来るよ」


「お、夜飯も用意してくれるのか。なんだかロアン君に申し訳ないな。さっさと終わらせるか」


「そうですね。迅速に……粛々と作業を初めましょう」



 歴史書を漁る2人。

 ほぼ無限にある情報を取捨選択し、ガイドロイドへ転送する。



「お、すごい。この記述。面白いですね──」


「この精獣図鑑ってのも中々──」



 そうして夢中になって書物を漁っている内に、ホログラム画面が、必要データのノルマ達成を告げるランプを光らせる。

 最低限必要な情報が集まったのだ。



「終わったー!」


「あっという間だったなァ。ま、こんだけ豊富にリソースがあれば妥当か」



 2人は机に広げた書物を眺めながら、提供されたハーブティーを啜っていた。

 マージフが入念に目を通していたのは、この世界を創造した大精霊──シルフィードの記述だった。



「少女の裸体の絵をマジマジと見てどうしたんですか」


「言い方……いや、マルちゃんが送った聖書にもあったが、改めてすげェ存在だなってさ」



 薄緑の肌色に深緑の長髪。

 周りには草木や花々が、少女のようなその無垢な身体を包んでいる。

 大精霊シルフィードの聖画だ。



「大精霊シルフィード……この世界における神様ですね」


「神っていう言葉は、どの書物にも記載はなかったけどね」


「ああ。絶対の存在が神ではなく、大精霊という言葉に置き換わっているんですね」


「そゆこと。どの本を漁っても、唯一の絶対神として出てくるのは大精霊。それだけ、この少女が偉大という事なんだろう。他に信仰する対象がないんだ。こんな一神教しか存在しない世界なんて、異世界の中でも特異だよ」


「ウィズロスを創造した全ての生命の母。人々が崇拝するのも自然でしょうけど」



 イルマはじっと絵を眺める。

 その吸い込まれそうな程の不思議な魅力に、イルマは暫し酔いしれる。



「ここまで敬われる大精霊を消した元凶はノルゲン……虐げられるのも仕方ないのかもな」


「ですけど、その罪を子孫までに連鎖させるのは……どうなんでしょうね」


「難しい問題だなァ……こればっかりは」


「……あれ? でも、神樹って──」


「ふーっ、久しぶりに机に座って仕事したから疲れたよ」



 椅子の背もたれに体重を預け、固まった首を鳴らすマージフ。

 頭上にある妖精魔環──日の傾いた黄昏時の陽光。

 その光が差し込んだある一瞬……マージフの目に()()が映った。



「あ……?」


「どうしたんですか? マージフさん」


「いや、なんか……妖精魔環の中に一瞬ひ──」



 マージフが目を細めて魔環を睨んだ刹那、後ろからウルセラがやってくる。



「読書は済んだか? イルマ、マージフ。夕餉の用意ができたぞ。食事にしようじゃないか」


「……だってさ。今度こそは旨い飯にありつけそうかな?」


「行きましょうか」


「さあお手をイルマ。余がエスコートしよう──」



 ウルセラが連れた来賓として、晩餐会に出席する事になったイルマとマージフ。

 大広間には、既に大勢の王宮貴族達が席に着いており、ウルセラ達にその視線が一斉に集まる。

 食卓に並べられたのは豪勢な料理。

 それらを彩る食器や椅子、架台式テーブルも細かな装飾が施されており、どれも王家の食卓に相応しい一級品であると伺える。



「来たか。ウルセラ」



 上座に座す老人は、黄金色の鋭い瞳でこちらを見据える。

 真紅の王冠を被り、漆黒のローブに身を包んだ、立派なヒゲを蓄えた老人。

 まるで絵画から出てきたような高貴な存在に、イルマとマージフは、瞬時にこの老人が皇帝だと悟った。



「ごきげんよう父上。共に食事するのは400年ぶりですね」


「うむ……その者らは?」


「町で知り合ったノルゲンです。王城に興味があったようなので、余が直々に招待致しました」


「また性懲りも無く町へ赴くか……主の奇癖にも困ったものよ。まあよい。来たる式典に向け、人手が多いに越した事はない故な」



 この老人が一言喋るだけで、場の空気が変わる……そんな、他の貴族達とは一線を画すオーラがあった。

 そんな中、シルフィリア王城の晩餐会は始まった。貴族達が格式張った挨拶で歓談する中、イルマとマージフは、最上級の料理に舌鼓を打ちながら、他には聞こえない声量で乾杯する。



「調査内容パーセンテージもノルマ達成したし、王様には悪いが、もう後は適当に楽しんで帰るだけだ」


「なんだか呆気なかったですね」


「ちょっとばかしトラブルもあったけど、それもまた醍醐味。差詰これは仕事終わりの晩酌だな。酒の味は100年寝かせたバナナスムージーみてェでクソマズイけど」


「そうですね。お疲れ様でした。料理もこの世の邪悪を凝縮したような味がしますけど」



 この世界には根本的な調理改革が必要だ。

 2人は息を止めてゲキマズ料理を口に運びながら、そう心の中で叫んだ。



「ん……」



 それは呼吸にも等しい小さな一息。

 だが皇帝のそれは今から言葉を発すると、この場にいる全員が理解して静まり返る程に雄弁であった。



「明日……式典は幕を開ける。今年の式典はシルフィリアの……いや、ウィズロスの歴史に刻まれるであろう。()()を覆すには、諸君の力が必要である」


「……予言?」



 イルマが小首を傾げた瞬間、その答えは立ち上がった皇帝より紡がれる。



「魔環の予言にはこうある──火精の年の十四月。聳える神樹より彼の者は顕現し、青き太陽は沈みゆく、とな」


「……!?」


「十四月は明日、青き太陽とはシルフィリア帝国の象徴である国旗。これが沈む……それがどういう事か、言わずとも理解出来るであろう」



 明日にシルフィリア帝国は、神樹から出てくる何かにより──滅びる。

 予言はそう言っているのかと、イルマは衝撃を受ける。



「マージフさん……これ、帰って大丈夫なんですか?」


「……規模がなァ。世界一の帝国が滅びるなんて予言聞いちゃ、放置して帰る訳にはいかねェ。絶対当たる予言なんだろ? 少し様子見ないとな」



 妖精魔環が告げた滅びの予言──それに対抗する衝撃の手段が、皇帝の口から紡がれる。



「兼ねてより決めていた作戦を実行に移す。かの神樹より災いが権化するならば、元を断つしかあるまい──神樹を切り倒すのだ。そして元凶を迎え撃つ」


「な……!」



 その驚愕の作戦に唖然とする2人。

 だが他の者は既に知らされていたのか、覚悟を決めた面持ちで、皇帝の言葉に頷いて見せる。



「大精霊に仇なす者と誹りを受けようが構うまい。朕はシルフィリアの王……故に世界の王である。誰であろうと朕の決断に異を唱える事能わず! 夜明けと共に、かの神樹を地に伏せるのだ!」



 皇帝が叫んだと同時に、イルマとマージフを除く全員が拳を握って賛同の声を上げる。

 暗雲は──更に深く空を濁し、漆黒の渦を作り上げるのであった。

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