第5話
「ヒヒヒヒィ、こっちに隠れていたな。さあ、来い。良いことがあるぞ。楽しいぞ!」
「ヒィ、止めて、怖いよーーーー」
防火樽の裏に隠れていた兎人の子を抱えて連れてくるブルドック顔の獣人、
中々凶悪な絵柄ね・・・怖がらせてごめんね。
今、ガオスさん配下の犬族やコヨーテ族の獣人さんたちに、子供達を集めるようにお願いしている。
私が呼びかけても、子供達が集まらないので、お願いをしたのだ。
私は、袋を担いで、頭に赤い帽子、上はサンタさんに衣装、下は踝まであるスカートをはいている。後ろにはトナカイ族の若夫婦にご同行頂いている。
私がイメージした。サンタさんとは違う。中々シュールな絵柄だ。
・・・私は塩、胡椒の召喚で、大金持ちになった。日本円にして、数千万円の手持ちがある。
ミーシャちゃんのお母さんにプレゼント贈ろう。弟妹に、オモチャを買ってあげようとしたら、
「お母さん。何か欲しいものありますか?君たちにもオモチャ買ってあげる」
「「「・・・・・」」」
「あのね。アズサさん。特別な日でもないのに、物をもらう訳にはいかないわ。それに貴女からは下宿代を沢山もらっているわ・・」
・・・そうか、私は余所者だ。下宿代として、金貨を渡そうとしたら、お母さんの尻尾がボォとなった。結局、月に銀貨5枚を受け取って頂くことになった。
しかし、お針子をして、慎ましい生活をしているミーシャちゃんの家族の隣に、ただスキルがあるだけで大金を稼いでいる私がいるのも不自然だ。
いずれ、ここを出て行かなければならない。
味塩、胡椒もブリトニーにバレるだろう。
魔王城に、転移の門があるか確かめなければいけない。
しかし、少しでも獣人さんたちに、お裾分けをしたい。
と、ガオスさんに相談した。
「そりゃ、あれだ。お前だからダメなんだよ。精霊の気まぐれなら、受け取ってくれるだろう。お前も精霊の端くれなら、パーとプレゼントを空から降らすとか、奇跡でも起こせないのか?」
「いや、私、実は人族ですよ」
「アハハハハ、こんな不思議なものを出す人族なんぞいるものかよ」
・・・といわれても、あ、プレゼントと言えば、サンタさんだ。これなら、集落の皆、もらってくれる。
とサンタさんのコスプレをして集落を歩き周りプレゼントを配ろうと思いついた。
サンタさんと言えば、トナカイ。トナカイ獣人の方にお願いして、付いて来てもらった。
しかし、怖がって、子供達が集まらない。
なので、ガオスさんの舎弟さんたちにお願いをして子供達を連れてきてもらっている。
・・・
「ヒィ、赤い精霊様だーー怖いよーーー」
「君、私は精霊サンタだよ。良い子の君にプレゼントだ!お父さんとお母さんの分もあるよ!」
私は魔法袋から、召喚した日本の鍋やエプロン、ナイフ、包丁やボールなどのオモチャをセットにした袋を手渡す。
「えええ??」
「家族、皆で分けてね」
「・・・・有難う」
「あの、アズサ様、何故、魔法袋があるのに、袋を担いでいるのですか?それに、トナカイ族の私たちを連れている意味は・・・いえ、決して、不満はないのですが・・」
「あんた。コミュニティの幹部のアズサ様が、私ども、少数派のトナカイ族に気をかけてくれているんだよ。お手当をもらったのだから、野暮は言わない!」
・・・う~む。幹部?いろいろ答えられない・・
「私はアズサではない。精霊サンタだよ。精霊は気まぐれなのさ!」
とトナカイ族の若夫婦にサムシングするが、
「「・・・・・・」」
ウケない。まあ、仕方ない。
ミーシャちゃんの家族にもプレゼントを渡す。これで、一家族だけ優遇されていると妬みを買わなくてすむ。
周りから閉ざされた集落は、ちょっとしたことでイザコザが起きやすいのは、日本の集落でも同じ。
だから、私がイザコザになれば問題解決。気まぐれでプレゼントを配る精霊様だ。
文句は私に言うだろう。
そして、次は、ミーシャちゃんの救出である。
恩を受けたのなら返したい。
私はガオスさんに相談する。
「ああ、城のメイド長に100万セレスも渡せば売るだろうな」
とのこと。この場合300万セレスが必要になる。裏組織と獣人族のコミュニティにそれぞれお礼として渡さなければいけない。
しかし、
「うちらの分はいらねえよ。200万セレス用意しな」
おお、狼気がある!
私は喜んで200万セレス、金貨20枚をガオスさんに渡した。
私は次の段階に入った。
武器の召喚だ。銃。この世界では強力なアイテムになる。
しかし、銃なんて、映画でしかみたことない。
召喚はイメージ出来るものでなければ出来ない。
木と鉄で出来たあれ的な?
銀貨25枚あたりでやっと出てきた。
ピコン!といわゆる世界の声が聞こえた。
武器召還しました。レベル5、スキル、ポイント還元を取得。
何、何?召喚をすれば、還元率。0.5%、いらんわ!〇カードと同じじゃん。
は、しまった。本題は銃だ。銃を見なければ、
「64式自動小銃・・・」と刻印されている。
試しに、引き金を引くが動かない。
右側面に、小さなレバーがついている。
レバーは「ア」の文字のところで止まっている。
その次は、「タ」次は「レ」
「アタレ」?験を担いでいるの?
「ア」の意味は安全装置だろう。他は分からない。
「タ」と「レ」にレバーを回したらそれぞれ引き金は引けた。
弾は・・この黒い箱に入っている。
多分、これを銃の下の部分にはめる。
カチャ!
と音がする。試射をする?
音が大きいだろう。
それに万が一、人に当たったら困る。
どこか山の中で撃とう。
次は仕返しだ。
今は力が弱い。
だから、ブリトニーには、嫌がらせぐらいしか出来ない。皆を巻き込まないようにしなければならない。
私は、マジックペンを召喚し、この国の低品質な紙に、ある文言を書く。
「ブリトニー女王陛下、ご即位記念品」
その紙を強力接着剤で、味塩胡椒の容器にはり付ける。
これを、数百作り、魔法袋に入れておく。旅の途中に、バラ撒けばいいだろう。
私では仕返しは出来ない。これを読んで、少しでも、不穏な空気になればそれで良し。
3日後の夜
ミーシャちゃんが帰ってきた。裏組織の人族に連れられて、
初めは、尻尾がボォとなっていたけど、徐々に、落ち着いてきて、ソワソワし始めた。
家に近づいていることがわかったのだろう。
「ミーシャ・・・」
「「お姉ちゃん!」」
「グスン、グスン、皆・・・」
おお、四人はガッツリ抱き合っている。
エモい。エモすぎる。
私は、物陰から確認して、踵を返す。
あの家にお姉ちゃんは2人いらない。
集落を出ようとしたら、
「おい、アズサ!黙って行くなんてつれねえぜ」
・・・しまった。ガオスさんと数人の獣人が、私の後ろから声を掛けた。私はコミュニティにとっても、金ヅルだ。このまま監禁されるかも。
「おい、お前、頼むぞ」
・・・銃を撃ちたくない。
と思ったが、女の獣人さんが、私にスリスリをする。
「あたしゃ、ガオスの連れ合い。ガオルだよ。狼獣人の匂いを付けておけば、他の獣人族の村で匿ってくれるよ」
「あの・・・」
「じゃあな。また、来てくれよ。精霊は気まぐれだからよ。それで裏組織にも話が通るぜ」
「有難うございました!」
・・・私は彼らの姿が暗闇に消えるまで、頭を下げ続けた。
どうして、信じられなかったのだろう。
最後までお読み頂き有難うございました。