第4話
獣人族の集落は分かるだろうか?
特徴を聞いておけば良かった。
しかし、一時間ほど歩いたら、
すぐに分かった。
スラム街だ。
私が入ると、野路や、家から獣人族が顔を出す。
半身獣のタイプだ。獣人族は、男は顔まで獣なの?
トラ茶の眼帯をした猫獣人は悪可愛いなと思っていたら、
顔が狼の獣人が私に顔を近づける。
「ヒィ」
ここまで、私はドサ!と押し倒された。ここは動物の王国ではないはずよ。
ここで、レイプ?抵抗する術はない。
しかし、
クンクンクン!鼻を鳴らしている。
「おい、イエネコ族のものはいるか?行方不明のイエネコ族の家族がいる者は、順番に匂いを嗅げ」
「「「おおおお」」」
「いや、名前を知ってますから、お城のミーシャちゃんです。髪は灰色に近いブルーです!」
「おお、ミーシャか。案内してやる」
案内してくれた狼獣人は、ガオスさんといって、ここの顔役だ。
私はミーシャちゃんの家で面倒を見てもらうことになった。
ミーシャちゃんのお母さんは、オレンジの髪に耳がピン!と立っている。
弟君と妹君もそれぞれ可愛い。
あら、お母さんが私を抱擁して、クンクン嗅いでいる。
「グスン・・・グスン、ミーシャ・・匂いを運んでくれてありがとう」
お城でお世話になったこと、命の恩人であることを告げる。
・・・切ない。ミーシャちゃんの境遇は、5年前、10歳の時に、弟妹を連れて散歩をしていたときに、人族にさらわれ、自分が囮になって弟妹を逃がした。それ以来、行方不明だった。
お父様は・・半狂乱になって、探しにいったが、王都の道端で冷たくなって発見された。
「ミーシャ、親切な行いが出来る立派な子になって、森の精霊様のご加護がありますように」
弟妹たちも目を閉じ黙祷する。
私も、標準的な無宗教の日本人だが、彼らの神に祈った。
お母さんに、お城でもらった銀貨を全部渡す。もらった袋を開けてみたら、ええ、銀貨二枚?これで一週間暮らせるの?
だけど、構わない。
今は無一文だ。
稼がなければ、
しかし、
私はこの世界のことを知らなすぎる。
ここで、情報を集め、今後のことを決める。
しかし、ミーシャちゃんの家族の優しさに、ここは、天国か?と思ったが、獣人族の集落の実情は地獄だった。
ここは地獄であり天国でもある。奇跡の集落とも言える。
地獄というのは、過酷な労働をしなければ生活できないということ。
獣人族の男たちは、王都で安い給金で労働をしている。日本の物価で言えば、1日800円とかそんな感じ。
裏組織に雇われ、仕事をする獣人たちは汚れ仕事なので高い。
他は密猟だ。密猟といっても、王都近郊で狩りや漁をすると、高額な税金を取られる。
だから、獣人族は、夕方、夜に、こっそり、猟をする。
ミーシャちゃんのお母さんは獣人族のコミュニティの紹介で、お針子の仕事をしている。
天国というのは、種族同士の抗争はなく、助け合って生活をしていることだ。
「おい、ミーばあさん。お魚が手に入ったから、食べてくれ。狼族は、魚は苦手なんだ」
ガオスさんが、猫族の老人に、お魚をあげている光景を良く目にする。
「いつも・・すまないのう。こんな立派なお頭付きのお魚・・・グスン」
「ばあさん。それは言わない約束だぜ。いつも路地の掃除、お疲れ様だぜ!」
ガオスさんの話だと、獣人族は種族同士の抗争が激しく、その隙をつかれて国が滅びた。
だから、今は仲良くしているのだそうだ。
「いや、俺はここの150家の群のボスだ。ボスなら仲間の世話をするのが当たり前だろう?」
・・・おお、狼気がある。
私はガオスさんやミーシャちゃんの家族から、この世界のことを聞いた。
この国はカス王朝精霊国といって、精霊を、愛し子を通じて信仰していた。
精霊の愛し子を大事に扱うと国が回るシステムのようだ。
ブリトニーのドカスが精霊の愛し子とは思えない。今は、どうなっているのか。下層市民まで、情報は廻ってこない。
物価は
大体、小銅貨一枚100円、大銅貨1000円、銀貨、1万円、金貨10万円、大金貨100万円というところだろう。白金貨もあるそうだが、値段が付けられないそうだ。
単位は、セレス。一セレス1円。
冒険者ギルドで働こうとしたら、ガオスさんから止めた方がいいと言われた。
「その黒髪と黒目は目立ちすぎる!」
そりゃ、こちらは逃げているからね。
「では、これを売りたいのですが?このネックレスは身分証だと言ってました」
「この・・ネックレスは・・・奴らが身分証と言ったのか?ダメだ。足がつく、捨てた方がいいぞ」
・・・やっぱりね。では、川にポイしよう。
では、これは売れますか?
「何だい。偉く精巧な絵だね」
・・・私は千円札を出した。シワがついていない新札。もう、この世界では使えないもの。
「任せろ。俺らが商業ギルドにいくと、安く買いたたかれる。裏組織に依頼してやる。ただし、取り分は3分の1になるけど、いいか?」
裏組織、獣人族のコミュニティ、私で分け合うルール。
「ええ、構いません」
・・・
「え、金貨、一枚、10万セレス!10万円?千円が?」
「ああ、高く売れたぞ。旅行中の令嬢が、路銀が足りなくなって、家宝である賢者の絵を手放したいと話をもっていったそうだ」
・・・やっぱり、この世界の文明度は低い。
「大銅貨に両替したい。両替してくれるところを教えて下さい」
「ああ、良いぜ。スラムの両替商まで案内してやる。2割手数料を取られるぞ」
「ええ、構いません」
・・・何でもお金取られるのね。
私は半分の大銅貨40枚を、ミーシャちゃんのお母さんに渡した。
これで、良いお魚を買ってね。
「つまらないものですが、お世話になっているお礼ですわ」
・・・何故か、お嬢様言葉になる。
「ヒィ、この前の銀貨といい。今度はこんなに沢山の銅貨!」
「「お母さん。魚の串焼き食べたい!」」
☆
お金が出来たから、次は何が出来るか。
自分のスキルを調べる。
あのお城では、「オープン!」と言えば、ウィンドウが空中に浮かぶと教わった。
奴らは日本語は読めないから、鑑定士が鑑定していた。
そして、自己申告と鑑定紙を照らし合わせて、嘘がないか確認していたな。
「オープン!」
召喚術士レベル1
スキル:等価召喚、対価を差し出し、日本の物限定で召喚出来る。対価を差し出すことで現地にとどめることが可能。
これって、もしかして、通販。
残っているのは、日本円にして約4万円
お塩が欲しいわね。
大銅貨一枚を生け贄にして
「塩よ。出でよ」
うわ。千円分の食卓塩が出た。
また、ガオスさんに相談する。
ホウレンソウは大事だ。
「おお、何だ、これ、塩か?純度の高い塩だな。俺が話を付けてやる」
・・・
今度は、大銅貨が銀貨一枚に代った。千円が一万円だ。実際は、いくらで買取られたか興味あるが、私が調べる術はない。あくまでも、向こうの言い値。
だけど、これで充分だ。
「親分が、胡椒はあるかって聞いているぞ!」
「分かりました」
・・・・
「おい、おい、アズサよ。もっと欲しいってよ」
「オホホホ、承りましてよ」
今度は、私の取り分が、100万円分になった。1万円が100万円。
それから、味塩胡椒、砂糖を出した。値段は日本の価格だから、沢山買える。
評判が評判を呼び。
内陸のスラム街が、塩、胡椒、味塩胡椒、砂糖の一大産地になってしまった。
最後までお読み頂き有難うございました。