アズサ転移前中3の夏
「沙織さん。梓はおるかね」
「ヒィ、義父さん・・・梓はいますが、あんまり、連れ回さないで下さい。塾もありますから」
「日が暮れる前には帰すぞ」
『ヒィ』とは何だ。私は佐々木剛、孫に会いに来たのだ。
「お祖父様、お早うございます」
「おう、梓、面を貸せ」
「は~い」
「沙織さん。昼飯はごちそうしちゃるから、梓の分は用意せんでいいぞ」
「分かりましたわ・・・」
☆源頼朝商事、本部事務所
いわゆる田舎の土建会社である。工事をするときは、ゼネコンでも、源頼朝商事の佐々木剛に挨拶が来るほどである。
事務所には、提灯やら、『仁義』と書かれた額縁が飾ってある。何だか怖そうな雰囲気だ。
そこに、迷彩の作業着を着た者や、スキンヘッドの者たちもいる。
「「「チース!お嬢様」」」
「お早うございます」
事務所には一組の若夫婦と、お婆さんがいた。
「初めまして和田と言います・・・若いですね」
「あの~、大事な話に、貴方、中学生?」
「まあ、まあ、佐々木家の分家の方ですね。宜しくお願いします。可愛いわ。グスン、グスン、遠くに離れて暮らす孫を思い出しましたのじゃ」
「初めまして、佐々木剛の孫、佐々木梓です」
・・・話の内容は、
若夫婦の和田さん。夫婦で、都会で仕事をしていたが、キャンプ好きが高じて、この田舎に、脱サラして、ソロキャンプ場を作ろうとした。
土地は、旦那さんの方の実家の土地だ。
しかし、お婆さん。湯口さんが、長いこと、自分の土地と思って、管理をしていたそうだ。
「へえ、お爺さんが、草刈りをしていまして、私もてっきり、あの土地は、湯口家のものばっかりと思いまして」
登記は、若夫婦の方のお爺ちゃんのままだ。つまり、相続登記はまだしていない。
簡単に言うと、若夫婦の方の土地を時効所得しちゃうぞ!ということだ。
でなければ、管理費として、お金をもらいたい。
1年20万円として、20万円×19年=380万円。
と湯口さんは主張している。
お婆さんは善意占有を主張しているから、裁判になれば、土地をもらえるらしい。
お祖父様の会社が、キャンプ場の建設を請け負い。工事前の調査で、地元の湯口さんが異議を唱えた。
だから、工事の一環として、相談に乗り。
相談料は取らない。お金を取ると、弁護士法に違反するそうだ。
あれ、
「お祖父様、何故、私をこの殺伐とした話合いの場に連れてきたの?」
「フ、源頼朝商事は、お前のものだ。この会社を経営しようとも、他人に譲り渡しても良い。だから、社長見習いだな」
「いや、私には無理ですよ」
「フ、無理なら無理で良い」
お祖父様は、この話を、私の判断に委ねると、湯口さんと和田さんに了解を取ったそうだ。
裁判になると、お金がかかる。
私が、双方、納得する裁決をしろとのことだ。
湯口さんは
「あたしゃ、佐々木家の梓さんの仰る通り。若い子の判断に任せるのじゃ」
和田さんは懐疑的だ。
「・・・中三の子には無理と思いますが、一応、聞きます」
「ええ、納得できる話でなかったら、断れるのでしょう?なるべく早くね」
「運転手をつける。お前の感性で、この話をつけろ」
取りあえず。現場を見なければ、と係争地に向かった。
まずは聞き込みだ!
と思って来たら、近所の家で、少し、趣の変わったお姉さんがいた。
・・・・・
☆係争地近辺の兼業農家、山下家
「この、課長め!セクハラジジめ!」
パチ!バシ!バシ!
・・・うわ。係争地の状況を近所の人にきこうとしたら、庭でサンドバックを吊して、殴っている女の人がいるわ。20代前半かしら。
帰ろう。
「ちょっと、貴女も空手に興味があってきたの?女子空手サークルの募集のチラシ見た子?私は山下靖子、貴女は?」
「ヒィ、佐々木梓です。田舎中学の三年生です」
・・・・
「へえ、違ったのね。残念、湯口さん?ああ、あのBBAについて聞きたい?貴女、あのBBAに何かやられたの?相談に乗るわ!」
え、あの物腰柔らかなお婆さんがBBA呼ばわり??
この方は山下靖子さんという方で短大卒業して、町でお勤めをしているそうだ。
お父様は、農業をやりながら、柔道道場を経営している。
「あ、来たわね。百聞は一見にしかずよ。貴女、この玄関に隠れて、見ていなさい」
「は、はい」
ブロブロブ~~~~ン
・・・トラクターの轟音を響かせて、田舎道を疾走する湯口さんがいた。
彼女は、庭にいた山下靖子に気が付くと、トラクターを止め。罵声を浴びせる。
「おい、山下の行きおくれ!お前の家、金なしだろう?200万やっから、あの田んぼを寄越せ!どうせ、お前の父ちゃんの代で、百姓をやめるのだろうよ?父ちゃんのあの貧乏たらしい柔道道場、200万で改装すればどうだ!」
「うっさいわね。梅干しBBA!」
・・・へ、大分、様子が違う。
「今度よう。金が入るのじゃ。お前に10万やるから、『お父ちゃん。お願い。湯口さんに土地を譲って!』としおらしく頼みやがれ!」
「やかましいわね。また、どこかで、門跡ぶって金を引っ張っているのでしょう!」
※門跡、土地の権利者でもないのに、口を出す方々として、本作では使っています。
「フン、こちらには、佐々木家がついてんじゃ。佐々木家の梓って、ガキンチョは、あたいの味方だよ。
佐々木家って言えば、ほら、あそこに止まっているような高級車を乗り回す基地外集団・・・・あれ」
湯口は道に止まっている高級セダンに気が付いた。
どこかで見たことがある。
ガチャと、運転手が降りる。
源頼朝商事で見た若衆だ。梓の運転手として、ついてきたのだ。
「お嬢様を、『ガキンチョ』と言いましたか?」
彼は、大学の体育学部出身、堅気であるが、迫力はある。
「ヒィ、今のは違うのじゃ!グスン、グスン」
☆源頼朝商事事務所
「ほう、梓は、湯口さんが裏表のある性格だから、湯口さんの土地管理費は認められないと判断したのか?」
「いいえ。お祖父様。草刈りをしていると言っていましたが、湯口さん。牛を飼っていまして、和田さんのお父さんが、都会に出たことをいいことに、勝手に牧草を植えたみたいです。証言者を確保しました。牧草が生えている現場をスマホで撮って来ました。
湯口さん。この話が出てから、慌てて、牧草を刈り取って証拠書滅を図ろうとしていました。間一髪でセーフでした。
逆に、和田さんに、お金を払わなければいけないのではないですか?」
「フフフフ、合格だよ。金を取るかは、和田さんの判断だな。褒美に何が欲しい?」
「お祖父様は見抜いていましたね。
では、お言葉に甘えて、ケーキ、モンブランを買って下さい。お母さんの分も頂ければ」
「何じゃ。免許取ったら、車でも買ってやろうと思っていたのに」
そして、
異世界転生をした後、梓は、魔王軍と戦って欲しいと懇願する王女ブリトニーの嘘を暴くことになる。
物腰柔らかそうな人も嘘を付くと経験をしたのが、同級生、先生よりも一歩社会経験を先んじていた。
☆異世界精霊王国王城
・・・
「ヒィ、そうですよね。しかし、貴方たちは勇者様です。どうか、我国を救って下さい。グスン、グスン、ウウ、呼んでしまってごめんなさい」
・・・梓はあの経験をさせてくれた祖父に感謝している。
平気で嘘を付く人もいる。
そして、理詰めで、問い詰めると、
あのお婆さんのように、泣き出したり、小さな声になるのだ。
(例え、行き倒れになっても、城を出ることが正しい!)
☆日本
「お義父様・・・」
「お父さん」
「モンブランのケーキを買ってきたぞ」
梓が召喚されてから、両親、祖父母は、毎年、事件当日になると、家に集まるようになった。
・・・思えば、義娘との関係が芳しくなかったから、梓は、沙織さんの好きなモンブランのケーキを私からのお土産として渡したのだな。
「父さん・・・昔から聞きたかったのだけども、何故、梓を気に入っていたのですか?
そりゃ、嬉しいけど、会社まで譲ろうとしていたなんて・・」
「信士、写真で、見たことないか?私の母親が、梓にそっくりだ。母は、極限状態になると、五感が冴え渡る。知恵が湧き出てくるのだ。戦後、会社まで立ち上げた。
世が世なら、もっと、大成するだろうな」
「ウグ、ウウウウウウ、梓~~~」
「父さん。祖母の話を聞かせて下さい」
「ああ、戦後な。母さんはな。戦争で夫を亡くしてから、土建屋で働いたのだ。女だてらに子育てをしながら、勉強して、土木の会社を立ち上げてな。源頼朝商事も、まあ、名前は、はったりだ。バブル時代も投資に手は出さないで、それで生き残れたのだ・・・ワシを大学まで進学させてくれた。
事務所の提灯や、仁義の額縁もはったりだ。不穏なヤカラを遠ざけるためにな。
腹を空かせたバイトの体育学部の者に、よく飯をおごってな。今でも、バイトに来たり。就職してくれたりもしてくれる・・・」
☆異世界
聖王国の聖女が、勇者の魔王討伐のテストケースとして、魔王城に来た時。
ふと、アズサを見て、いつか、家に来た中学生と似ていると思い出したが、
「現世でつらい思いをしたかもしれなから、聞けないわよね」
と聞かなかった。あの後、あのBBAに仕返しをされてないかしら。
しかし、聖王国に帰るときに、化粧品とともに、『あの時は、有難うございました』
とメッセージカードが入っていた贈り物を渡された。
「フウ、今度、一緒に、酒を飲むわよ!」
「聖女様、ですから、聖女が、魔王と宴会をするのは、いささか」
「それに、未成年と聞き及んでいます」
「あ、もう、平和条約が結ばれるまで待つわよ!いえ、待てないわ。私が主導するわよ!」
聖女の熱心な勧めで、友好的な通商条約が結ばれることになる。
最後までお読みいただき有難うございました。




