表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/41

アズサ転移前中3の夏

「沙織さん。梓はおるかね」


「ヒィ、義父さん・・・梓はいますが、あんまり、連れ回さないで下さい。塾もありますから」

「日が暮れる前には帰すぞ」

『ヒィ』とは何だ。私は佐々木剛、孫に会いに来たのだ。


「お祖父様、お早うございます」

「おう、梓、面を貸せ」

「は~い」


「沙織さん。昼飯はごちそうしちゃるから、梓の分は用意せんでいいぞ」


「分かりましたわ・・・」


 ☆源頼朝商事、本部事務所


 いわゆる田舎の土建会社である。工事をするときは、ゼネコンでも、源頼朝商事の佐々木剛に挨拶が来るほどである。

 事務所には、提灯やら、『仁義』と書かれた額縁が飾ってある。何だか怖そうな雰囲気だ。


 そこに、迷彩の作業着を着た者や、スキンヘッドの者たちもいる。


「「「チース!お嬢様」」」

「お早うございます」


 事務所には一組の若夫婦と、お婆さんがいた。


「初めまして和田と言います・・・若いですね」

「あの~、大事な話に、貴方、中学生?」


「まあ、まあ、佐々木家の分家の方ですね。宜しくお願いします。可愛いわ。グスン、グスン、遠くに離れて暮らす孫を思い出しましたのじゃ」


「初めまして、佐々木剛の孫、佐々木梓です」


 ・・・話の内容は、

 若夫婦の和田さん。夫婦で、都会で仕事をしていたが、キャンプ好きが高じて、この田舎に、脱サラして、ソロキャンプ場を作ろうとした。


 土地は、旦那さんの方の実家の土地だ。


 しかし、お婆さん。湯口さんが、長いこと、自分の土地と思って、管理をしていたそうだ。


「へえ、お爺さんが、草刈りをしていまして、私もてっきり、あの土地は、湯口家のものばっかりと思いまして」


 登記は、若夫婦の方のお爺ちゃんのままだ。つまり、相続登記はまだしていない。


 簡単に言うと、若夫婦の方の土地を時効所得しちゃうぞ!ということだ。


 でなければ、管理費として、お金をもらいたい。

 1年20万円として、20万円×19年=380万円。


 と湯口さんは主張している。

 お婆さんは善意占有を主張しているから、裁判になれば、土地をもらえるらしい。



 お祖父様の会社が、キャンプ場の建設を請け負い。工事前の調査で、地元の湯口さんが異議を唱えた。

 だから、工事の一環として、相談に乗り。

 相談料は取らない。お金を取ると、弁護士法に違反するそうだ。


 あれ、


「お祖父様、何故、私をこの殺伐とした話合いの場に連れてきたの?」


「フ、源頼朝商事は、お前のものだ。この会社を経営しようとも、他人に譲り渡しても良い。だから、社長見習いだな」


「いや、私には無理ですよ」


「フ、無理なら無理で良い」


 お祖父様は、この話を、私の判断に委ねると、湯口さんと和田さんに了解を取ったそうだ。

 裁判になると、お金がかかる。

 私が、双方、納得する裁決をしろとのことだ。


 湯口さんは

「あたしゃ、佐々木家の梓さんの仰る通り。若い子の判断に任せるのじゃ」


 和田さんは懐疑的だ。

「・・・中三の子には無理と思いますが、一応、聞きます」

「ええ、納得できる話でなかったら、断れるのでしょう?なるべく早くね」


「運転手をつける。お前の感性で、この話をつけろ」


 取りあえず。現場を見なければ、と係争地に向かった。

 まずは聞き込みだ!


 と思って来たら、近所の家で、少し、趣の変わったお姉さんがいた。


 ・・・・・


 ☆係争地近辺の兼業農家、山下家


「この、課長め!セクハラジジめ!」


 パチ!バシ!バシ!


 ・・・うわ。係争地の状況を近所の人にきこうとしたら、庭でサンドバックを吊して、殴っている女の人がいるわ。20代前半かしら。

 帰ろう。


「ちょっと、貴女も空手に興味があってきたの?女子空手サークルの募集のチラシ見た子?私は山下靖子、貴女は?」


「ヒィ、佐々木梓です。田舎中学の三年生です」


 ・・・・


「へえ、違ったのね。残念、湯口さん?ああ、あのBBAについて聞きたい?貴女、あのBBAに何かやられたの?相談に乗るわ!」


 え、あの物腰柔らかなお婆さんがBBA呼ばわり??


 この方は山下靖子さんという方で短大卒業して、町でお勤めをしているそうだ。

 お父様は、農業をやりながら、柔道道場を経営している。


「あ、来たわね。百聞は一見にしかずよ。貴女、この玄関に隠れて、見ていなさい」

「は、はい」


 ブロブロブ~~~~ン

 ・・・トラクターの轟音を響かせて、田舎道を疾走する湯口さんがいた。


 彼女は、庭にいた山下靖子に気が付くと、トラクターを止め。罵声を浴びせる。


「おい、山下の行きおくれ!お前の家、金なしだろう?200万やっから、あの田んぼを寄越せ!どうせ、お前の父ちゃんの代で、百姓をやめるのだろうよ?父ちゃんのあの貧乏たらしい柔道道場、200万で改装すればどうだ!」


「うっさいわね。梅干しBBA!」


 ・・・へ、大分、様子が違う。


「今度よう。金が入るのじゃ。お前に10万やるから、『お父ちゃん。お願い。湯口さんに土地を譲って!』としおらしく頼みやがれ!」


「やかましいわね。また、どこかで、門跡ぶって金を引っ張っているのでしょう!」


 ※門跡、土地の権利者でもないのに、口を出す方々として、本作では使っています。


「フン、こちらには、佐々木家がついてんじゃ。佐々木家の梓って、ガキンチョは、あたいの味方だよ。

 佐々木家って言えば、ほら、あそこに止まっているような高級車を乗り回す基地外集団・・・・あれ」


 湯口は道に止まっている高級セダンに気が付いた。

 どこかで見たことがある。


 ガチャと、運転手が降りる。

 源頼朝商事で見た若衆だ。梓の運転手として、ついてきたのだ。


「お嬢様を、『ガキンチョ』と言いましたか?」

 彼は、大学の体育学部出身、堅気であるが、迫力はある。


「ヒィ、今のは違うのじゃ!グスン、グスン」


 ☆源頼朝商事事務所


「ほう、梓は、湯口さんが裏表のある性格だから、湯口さんの土地管理費は認められないと判断したのか?」


「いいえ。お祖父様。草刈りをしていると言っていましたが、湯口さん。牛を飼っていまして、和田さんのお父さんが、都会に出たことをいいことに、勝手に牧草を植えたみたいです。証言者を確保しました。牧草が生えている現場をスマホで撮って来ました。

 湯口さん。この話が出てから、慌てて、牧草を刈り取って証拠書滅を図ろうとしていました。間一髪でセーフでした。

 逆に、和田さんに、お金を払わなければいけないのではないですか?」


「フフフフ、合格だよ。金を取るかは、和田さんの判断だな。褒美に何が欲しい?」


「お祖父様は見抜いていましたね。

 では、お言葉に甘えて、ケーキ、モンブランを買って下さい。お母さんの分も頂ければ」

「何じゃ。免許取ったら、車でも買ってやろうと思っていたのに」


 そして、

 異世界転生をした後、梓は、魔王軍と戦って欲しいと懇願する王女ブリトニーの嘘を暴くことになる。

 物腰柔らかそうな人も嘘を付くと経験をしたのが、同級生、先生よりも一歩社会経験を先んじていた。


 ☆異世界精霊王国王城


 ・・・


「ヒィ、そうですよね。しかし、貴方たちは勇者様です。どうか、我国を救って下さい。グスン、グスン、ウウ、呼んでしまってごめんなさい」


 ・・・梓はあの経験をさせてくれた祖父に感謝している。

 平気で嘘を付く人もいる。


 そして、理詰めで、問い詰めると、

 あのお婆さんのように、泣き出したり、小さな声になるのだ。



(例え、行き倒れになっても、城を出ることが正しい!)



 ☆日本


「お義父様・・・」

「お父さん」


「モンブランのケーキを買ってきたぞ」


 梓が召喚されてから、両親、祖父母は、毎年、事件当日になると、家に集まるようになった。


 ・・・思えば、義娘との関係が芳しくなかったから、梓は、沙織さんの好きなモンブランのケーキを私からのお土産として渡したのだな。


「父さん・・・昔から聞きたかったのだけども、何故、梓を気に入っていたのですか?

 そりゃ、嬉しいけど、会社まで譲ろうとしていたなんて・・」


「信士、写真で、見たことないか?私の母親が、梓にそっくりだ。母は、極限状態になると、五感が冴え渡る。知恵が湧き出てくるのだ。戦後、会社まで立ち上げた。

 世が世なら、もっと、大成するだろうな」


「ウグ、ウウウウウウ、梓~~~」

「父さん。祖母の話を聞かせて下さい」


「ああ、戦後な。母さんはな。戦争で夫を亡くしてから、土建屋で働いたのだ。女だてらに子育てをしながら、勉強して、土木の会社を立ち上げてな。源頼朝商事も、まあ、名前は、はったりだ。バブル時代も投資に手は出さないで、それで生き残れたのだ・・・ワシを大学まで進学させてくれた。

 事務所の提灯や、仁義の額縁もはったりだ。不穏なヤカラを遠ざけるためにな。

 腹を空かせたバイトの体育学部の者に、よく飯をおごってな。今でも、バイトに来たり。就職してくれたりもしてくれる・・・」



 ☆異世界


 聖王国の聖女が、勇者の魔王討伐のテストケースとして、魔王城に来た時。


 ふと、アズサを見て、いつか、家に来た中学生と似ていると思い出したが、


「現世でつらい思いをしたかもしれなから、聞けないわよね」


 と聞かなかった。あの後、あのBBAに仕返しをされてないかしら。


 しかし、聖王国に帰るときに、化粧品とともに、『あの時は、有難うございました』

 とメッセージカードが入っていた贈り物を渡された。


「フウ、今度、一緒に、酒を飲むわよ!」


「聖女様、ですから、聖女が、魔王と宴会をするのは、いささか」

「それに、未成年と聞き及んでいます」


「あ、もう、平和条約が結ばれるまで待つわよ!いえ、待てないわ。私が主導するわよ!」


 聖女の熱心な勧めで、友好的な通商条約が結ばれることになる。






最後までお読みいただき有難うございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ