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第24話

「ねえ。お母さん。大きな猫ちゃんがいるよ」

「これ、猫の獣人さんだよ。指を指さしちゃだめでしょう。ごめんなさいね」

「ごめんなさい」


 コクッ「・・・」

 水くみをしていたミーシャは無言で頷いて、親子の謝罪に答える。

 精霊王国の人族に謝罪されたのは生まれて初めてなのかも知れない。


 ・・・ミーシャちゃんや私を見て、石を投げる王都市民とは大違いね。

 対勇者戦闘団は、ヨドムさん案内の元、

 高機動車2両に一個班分乗して、精霊王国の北方に向かっている。

 途中で休憩をしていたら、村人達と遭遇した。



「・・・皆、物珍しそうにみているわね。蔑みとは違うわね。王都と全然違う」


 北方に向かうほど、空気が清浄になるようだ。


 そして、3日の車両行軍で、ヨドムさんの主の住む森に到着した。


「人が沢山います。騎士を確認・・団長、警戒を!」

「いいえ。待って」


 彼らの先頭に、穴の前に、ちょこんと、12歳ぐらいの女の子が座っていた。

 白い服に銀髪の子・・・


「アリス様・・・お連れしました。魔王軍人族軍対勇者戦闘団長にして、精霊王国方面軍総司令官のアズサ・ササキ様ですネ」

「ヨドム公、有難うございます」



「団長、あれは、降伏の作法です。自分を殺して、穴に埋めて下さい・・王族が行う礼法です」


 とゴーリキさんが教えてくれた。

 彼は元騎士・・・


 ふ~む。

 後ろに控えている騎士達は、古い甲冑、皆、降伏のため、武器を持っていない。

 ここまで、生き延びたということは、民衆に支持されていたのね。


 まずは口上を聞こうか。


「魔王軍様、グスン、グスン、どうか。私の命と引き換えに、地方の民衆は今まで通り過ごさせて下さい。年貢も下げて下さい・・・酷い事・・しないで」


「あい分かった。その約定を守ろう」

 ・・・何故か時代劇の口調になった。


「「「アリス様!」」」

「お労しい!」

「ウウウウ、グスン」


 ・・・皆、泣くのね。


 私は64式自動小銃に弾込めをする。


 カチャ!


 そして、彼女を試す。


「ねえ。貴女を殺して、約束を守らないかもしれないわよ」


 しかし、彼女は顔を上げて、はっきりと答えた。


「それなら、いずれ、勇者が立ち上がり、民衆と共に、苛政を絶つでしょう!問題はありません!道理に合わないものは、魔族、人族に関係なく精霊様の鉄槌が下るでしょう」


 この子、大雑把に分かっているタイプだ。

 意外と苛政は続かない。

 大きなお嬢様と言われたきれい事ばかり言う某国の民主化のリーダーとは違う・・・


「今、精霊王国は、金庫は空です。外債で得た金貨は、魔王軍の管理下にあります。どうやって、国を立て直しますか?」


「そ・・・それは・・・分かりません」


 まあ、そのお年ならそうよね。

 問題点は分かるが、具体的解決方法は分からない。

 なら、


 私は銃口を下に向ける。


「分かりました。貴女の命はもらいました。貴女を精霊王国の女王にします。

 そして、ヨドムさん。貴方が宰相をやりなさい」


「ホエ」

 とアリスちゃん。美少女らしからぬ声が出たよ。


「グシシシ、喜んで」


 殺さないって読んでいたわね。


 あら、アリスちゃんの周りに綺麗な光の球が、クルクル回っている。


「リリー、アン、スメル、有難う」

 とアリスは、光球に答える。


 精霊?あ、ここは精霊王国、すっかり忘れていた。

 精霊のいない精霊王国だったわね。


「しかし、王都は遷都します。この森、近辺に移しなさい」


「グシシシ、畏まりました。王都市民を・・・殺すということですね」


「まあ、殺すとは言っていません。これからは、国からサーカスとパンを支給しないだけです」


 ・・・現王都市民、あれらは、30年前にクーデターに参加した人族の慣れの果て。

 精霊の愛し子に政治を任せるのはヨシとせず立ち上がったが、結局は、動物農場状態に陥ったわね。

 動物農場・・・動物たちが人間達を追いだして、農場を自分たちの為に経営しようとしたけど、結局は、ブタが特権階級として君臨し、人と変わっただけ。という辛辣なSF小説、好きだったな。


 そして、私は肝心なことを聞く。


「アリスちゃん。貴方の王家でも召喚を行っていたのでしょう?帰る方法は・・・ありますか?」


 しかし、アリスちゃんは、首を横に振り。

「ございません。向こうの世界の魔導師が召喚するしか方法はございません」


 とキッパリ否定した。


「「「戦闘団長殿!」」」

「アズサ様!」


 ・・・あれ、クラクラする。

 もしかして、これが、本当の絶望



 ☆☆☆女神信仰圏と魔族領の国境付近


「「「聖女様、我等もお伴します!」」」


「いらない!帰りなさい!ここは私1人で充分よ。連合軍最高司令官代理中級将軍補佐大佐臨時代行のこの私が命令します。聖王国異世界アカデミー教授スタイリン以外は撤退しなさい。でないと、レーザービームをくらわすわよ!」


 ・・・まあ、お爺ちゃんなら抱えて空を飛んで逃げられるからね。


「「「聖女様」」」

「何と素晴らしい。我等のために」

「暴力女だと思っていたけど、あんたが大将だ!」


 ・・・何?最後の・・暴力女。許せないわ!

「最後の奴、待ちなさい・・」


 ・・・行ってしまったわね。まあ、仕方ない。


 精霊王国陥落の報は、意外なことに、精霊国から最も離れている女神信仰圏連合軍が正確に情報を分析し、撤退と判断した。

 各国の情報機関がそろって同じ報告をしたので、情報の整合性がとれたのだ。

 聖女セイコは1人で殿をすると決断。教授は証人で残ることを切望した。


 ・・・化粧品、日本の化粧品・・・アキラはくれると言ったわね。


 しかし、魔王軍の陣地も撤退を始めている。


「・・・化粧品」


 魔王軍がいなくなってから、女神圏の陣地の後方から、将軍が手勢を率いてやって来た。


「グハハハハハ、聖女殿、貴殿は、魔王を蹴ったというが、何故討ち取らなかった?ワシなら、この剣技で、真っ二つよ。

 皆の者、攻めるぞ!」


「「「御意!」」」


「クズール将軍!」


 ・・・面倒くさい奴が来た。いつもは後方に隠れていたのに、魔王軍が撤退を始めたから、ハイエナ根性で功績を立てに来たのね。

 今、攻めたら、魔王軍が反転して、退却中の味方に危険が及ぶ。

 こうなったら、下突き(ボディアッパー)で眠ってもらおう。


 しかし、聖女をスタイリンが止める。

「やめておけ」

「オジイちゃん、じゃない・・・教授」


 ・・・


「突撃!魔王を討ち取ってこい!」


「「「オオオオオオーーーー」」」


 しかし、魔王軍の背面に到達する遙か前で、銃声が響く。


 ババババババババババーーーーー


 クズール将軍配下の騎士団は壊滅的な損害を受けた。


「な、何?」


 ・・・どこから、撃っているの?前からじゃない。

 もしかして、突撃する騎兵の真横から・・団子に串を刺すようにやられた?


「よお、聖女ちゃん」

 魔王アキラが空からやって来た。手にはミニミと呼ばれる軽機関銃を持っている。


「あのさ、突撃している部隊の横から撃つとよけにくいのよ。これを突撃破砕線っていうけど、分からないかな」


「「魔王」」


「これ、聖女、ワシを守れ、聖女だろ?ワシは今、具合が悪い。お前が疫病を早く沈めなかったからだ!」


「あ、なるほど」

 と魔王は状況を瞬時に理解し、


 スパンと将軍の首を風魔法で斬った。


「あのよ。前に1万丁と言ったのは嘘だ。軽機関銃一丁だよ。203高地って映画、機会があったら見てよ。この世界の人は、数を大げさに言った方が、脅威度が分かるかなって、聖女ちゃん。聞いている?」


「アキラ君・・・」


「何だよ!潤んだ目をして!」


「化粧品・・・」


「あ、今度、姪っアズサに言って召喚してもらう。じゃあな」

 魔王アキラはバツが悪くなって、退散をした。


 ・・・慰めるつもりで、言ったけど、今は無理だろうよ。



 ☆☆☆聖王国女神教総本部教会



「今作戦の戦果は、聖女殿による魔王に対する打撃・・・蹴りのみとは」

「それに、異世界研究の権威、スタイリン教授の証言だ。聖女が魔王を一言で退却させたと」

「聖女セイコに、勲章だな。再鑑定して、ジョブが女戦士ではないか確認だ」


「御意」


 ・・・


「鑑定の結果、聖女です」

「なんと!」


「当たり前でしょう!」


 聖女セイコ、今回の遠征で、聖王国の筆頭聖女と筆頭行政官を兼ねることになった。




最後までお読み頂き有難うございました。

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