第22話 (プロローグに戻ります)
「大王・・・」
と連呼する獣人族に、アズサは戸惑いを感じる。
・・・まさか、獣人族にも・・
アズサの人族部隊には致命的な欠点がある。
団員は亡国の人族、心の拠り所がアズサしかいないということだ。
魔王に忠誠を誓っているが、アズサ以外、魔王と師弟の間柄でもない。
・・・薄々感じていた。私に向ける団員の熱量、熱気が異常だ。今までは、気が付かないふりをしていた。
獣人族は長い間、種族ごとの国家が解体され、拠り所を失っていた。
英傑が現われると、凄まじい忠誠心を発揮するが、アズサには荷が重いと感じる。
獣人族の顔役として君臨していたガオスは、本能的に察知している。
過度な忠誠心は、人を神にも悪魔にも変える。
しかし、多くの場合は悪魔だ。
いわば、独裁者に率いられた全体主義国家、地球にもそんな話は腐るほどある。
魔族も実情は同じだ。カリスマのある魔王の命令の元、狂信的な部下達が、人族の領域に攻め込み。勇者に魔王を討ち取られて、魔王軍は瓦解が、この世界の人族と魔族との戦いの歴史。
魔王アキラの性格がどこか飄々としているのは、それを避けるためかもしれない。
・・・なら、目先を変えさせなければ、私の舌は一枚しかない。
獣人族の国家設立をこの場で約束することは出来ないかわりに、
「・・・協力感謝します。見返りに、獣人族の方々に約束します。今までの高額な税金を払える程度まで下げ。お給金を上げることをお約束します」
「「「「「おおおお、やったぜーーーー」」」
「・・・しかし、二つのことを約束してもらいます。一つ、非戦闘員の虐殺を禁止します。私たちが王城を占拠した後に、警備や捕虜の管理などをしてもらいます。
二つ、私は魔王軍対勇者戦闘団長です。それ以外の役職の名を呼ぶことを禁止します。これが魔王軍の庇護に入る条件です」
「「「分かったぜ!」」」
一方、精霊王国王宮では・・・
☆☆☆精霊王国王宮
「・・・金貨、こんなに沢山・・」
ブリトニーは、王宮の金庫に積み上げられた金貨を見て放心している。
至極のひと時だ。
数日にかけて、精霊王国王宮に、自由都市ラクーアから、ダークエルフ債、サキュバス債、地竜債、奴隷予約購入予約券・・・などの売上金が入ってきた。
ブリトニーは、これを使い、王国を豊かにする腹積もりだ。
王国民とは、中央貴族と王都市民がブリトニーにとっての王国に住まう人々だ。
「王女殿下、ご報告、ここ数日、獣人族どもが、仕事に出てこないと、商業ギルドと王国市民から苦情が殺到しています。奴らは、近場の森に集まっているようです!森で地竜の姿が確認されています」
「ほお、地竜頼りの反乱か。なら、半数は殺していい。魔族の奴隷が入ってくるからな。王都防衛軍の騎馬部隊と魔導士隊を派遣せよ」
「御意」
・・・ふう、これぐらい、自分で判断しないものかのう。
仕方ない。意見を言う部下は粛清したからな。
金は受け取った。後は払う方だ。魔王を打ち取れば、女神信仰国からも莫大な報奨金が入る。
気まぐれだったのかもしれない。ブリトニーは、先生と源に激励の言葉を贈ろうとした。
「魔道通信室に行く。ケンタ、ついてこい。敗北勇者であるお前もせんせいやミナモトの活躍を聞いて奮起せよ」
・・・まあ、殺すけどね。
「御意・・」
・・・ブリトニー王女殿下、初めてこの世界に来たときの印象と変わったけども、それも、国を豊かにするために必死だからだ。
俺たちと変わらない年齢で、頑張っている。
俺は・・・
ケンタはブリトニーの本性を見抜いた後でも、恋心を抱いたままだ。
☆☆☆魔道通信室
魔道通信室の前に来たブリトニーは、笑い声が部屋から漏れ出てくるのを確認した。
「アハハハハハ、面白い!サカキハラちゃん。いいな。王女殿下にお願いして下賜してもらおうかな」
バタン!とドアが開く。
「王女殿下!」
「たるみすぎだぞ!せんせいと話す。代れ!」
「「「御意!」」」
スピーカーを渡し、ブリトニーは先生を呼び出すように命令をする。
「何?いない。お前は誰だ!英雄グループのサカキハラか・・・なら、ミナモトを出せ!魔王と戦闘中だと!貴様、笑い声が聞こえたぞ!魔導士たちと何を話していた!」
声に違和感があると感じた。スピーカーの先の声は、明るいが、冥界からの声とも思えるようなゾッとする不吉な感じがする。
「お前は、本当にサカキハラか?!」
「はい、父は薬剤師で、母は家でピアノの教室をしてます。17歳のサカキハラです。王女殿下!戦闘序列をあげて下さい!」
・・・怪しい。
その時、ケンタが違和感の正体に気が付き。暴露する。
「お前、佐々木だろ!佐々木です!王女殿下!」
「あ、バレた」
プツン~と通信は切れた。
・・・話を聞くと、もう3週間近く、サカキハラに化けたササキの声しか聴いていないだと、まさか。
全ての戦果が偽者のはずはない。
ヤリツ平原で会戦が行われると聞く。
「早急に、事実確認じゃ!」
「「「御意!」」」
☆☆☆王都近郊、騎士団分屯地」
プスプスと煙が地面から上がっている。
「あ~、バレた。もう、偽電作戦は終了」
と佐々木は魔道通信機を切る。
「・・・了解しました。通信中の団長殿、どこか、おかしかったから良かったですわ」
「エミリア、そお?私、陽キャ・・・かな?」
「「制圧終わりました!」」
「ここは用なしね。次は王都西門に行きます!」
「「「了解!」」」
・・・思ったよりも、王都近郊に騎士団が残っていた。
捕虜を尋問したら、大事なものを運ぶから、警備で残っていたと報告があった。
獣人族の集合地の後背を襲われないように、大きなところはつぶした。
大事なものとは、自由都市アクーアから運びこまれた金貨であるが、アズサたちは知る由もない。
「各自、装甲車と高機動車で王都西門に行く!目標、王城の占拠!」
「「「了解!」」」
☆☆☆精霊王国王宮
アズサの偽電がバレたとほぼ同時に、報告が上がる。
「王女殿下!王都防衛軍の騎馬隊、壊滅しました!地竜が暴れまわってます!」
「王都近辺の騎士団の分屯地から煙が上がってます!連絡取れません!」
「ええい。何がどうなっている!」
「魔王軍です・・・魔王軍が荒らしまわってます!地竜3匹に、緑の魔人たちとの情報があがってます!」
「まだか!魔族領遠征軍と勇者軍の安否はまだ届かないのか?」
「無理ですよ!こちらから早馬を出しても、一週間以上かかります!」
「王女殿下!魔王軍が、王都西門に現われました!地竜が、10体くらい・・ファイヤーボールや火炎魔法が全く効かないと報告が上がってます!」
「率いているのは、深緑のマントを羽織った女、深緑の魔女と思われます!」
「・・・生きていたのか?」
・・・王都西門500メートル付近
装甲車を盾に、人員は隠れ、それぞれ、装甲車の銃座から、5.56ミリ軽機関銃で城壁上の兵士を射殺している。
装甲車の後ろでは、発電機を回し、ドローンから送られてくる映像を確認している。
ダダダダダダダダダダダダ!
「戦車欲しい・・・今、出しても使い方をしらない。訓練していない現代兵器は危険だ・・」
アズサは、自身が考えていた攻城戦を実行しようとする。
・・・無反動やロケット発射筒で、城壁を壊し、一気に行こうと思ったが、報告が上がる。
「戦闘団長殿、精霊王国の王女が楼閣に現れました!」
「双眼鏡を貸して、エミリア、ドローンを楼閣へ」
「「了解」」
☆楼閣
「ええい。敵は本当にこれだけか?」
「はい・・・王都防衛軍の騎馬隊は全滅、カタパルトは全滅、城壁上の弓兵は損失が激しく・・・」
「こちらからは攻撃したのか?一方的にやられたのか?何故、弓を射ない。あちらは射っているだろう!」
「弓の射程外からの攻撃だからです・・」
見たところ、地竜3匹以外は、目立った戦力はない。
人員も100名?50名もいない。
遥か後方に、獣人族が、数百確認されているだけ・・・
ブリトニーは、あの通信の声の主、佐々木を思い出した。
・・・これは、もしかして、異世界関係か?護衛に連れてきたケンタは知っているか?
「何なの?あれは?ケンタ、説明なさい!」
「王女殿下、あれは・・・地竜ではない。戦車だ。俺らの世界の騎士団、自衛隊だ・・です。」
「何故、魔法の射程外から、城壁上の弓兵が倒れる!」
「銃だ・・・です」
「嘘、おっしゃい!魔法のない世界の騎士団が、あんなに強力なハズがないであろう」
剣聖ケンタは、自衛隊と称したが、正式な所属は魔王軍人族軍対勇者戦闘団である。
近くで見れば、自衛隊の部隊章ではなく、四本の角が生えた雄牛をモチーフにした魔王軍の記章を付けていることが分かる。
そして、
「ブリトニー王女殿下、ご報告があって、参りました!」
息を切らせて、西門の楼閣の上、ブリトニー王女の位置まで伝令兵が登って来た。
「ご報告!魔族領に侵攻した騎士団は全滅、防衛の辺境伯殿は4日前に討ち死にしたと、早馬が来ました」
「なんじゃと、伝令兵を追い越して来たのか?」
「はい、それから、魔族の奴らが、深緑の魔女と呼ぶ女は・・・28番ササキと魔力反応が一致したと、鑑定士から報告がありました・・・レベル36だそうです。鑑定士は報告後即死」
「なんじゃと、レベル36と言えば、中堅の魔導師ではないか?せんせいは賢者で150を超えておったぞ。高くない。せんせいは奴にやられたというのか?」
・・・解せぬ。解せぬ。一体、どうなっておるのか?
カン!
と何かが伝令兵の兜側面に当たった。
バタン!ダダダダ
階段を滑り落ちていく。もう、伝令兵は立ち上がらない。
「ヒィ、何だ、これは」
気が付くと、光る何かが、この国の王女、ブリトニーの近辺を飛んでいる。伝令兵は、たまたま光る何かに当たったのだ。
ブリトニーの巻き添えを食らった。
☆王城西門前の草原、門よりも500メートル西
「あ~あ、あの兵がカゲになったか?いや、違う。まだ、低い。照星を三下げ!」
「照星を三下げ!了解」
深緑、軍隊ではODと呼ばれる色のポンチョをまとった今年17歳になる女子、佐々木は、迷彩服を着た部下に命じる。
自身の銃の切替えレバーを安全の「ア」に切り替え。銃身を低い位置に置く。
部下に64式自動小銃の銃身先端の照星を、下げさせるためだ。
「三下げ完了」
「よし、下がれ」
ケンタが、戦車と呼んだのは装甲車である。
装甲車の陰から佐々木は狙う。
「吸う・吐く。止める・・・・撃つ」
パン!と銃声が響き。
佐々木は一言、「当たった」とつぶやいた。
「戦闘団長殿、ドローン偵察、城壁門から内側100メートルに、近衛騎士団の隊列があります」
「城壁上の兵、制圧射撃で全滅したと思われます」
「よし。前進、装甲車より前に出るな」
「「「「装甲車の前に出るな」」」
「門200の距離で、城門にカールグスタフ無反動砲を撃つ。砲撃組実施せよ」
「200の距離、カールグスタフ無反動撃つ。了解」
グログログローーーー
装甲車はゆっくり進む。
もう、城壁上からの攻撃はないからだ。
最後までお読み頂き有難うございました。




