第17話
ここは、魔王軍に参加を表明していないダークエルフの森、地竜に引かれた幌付きの大型荷車が、避難所へと急行していた。
ダークエルフの本村が襲われ、子供達だけで避難をしているのだ。
御者台にはダークエルフの少女が一人座っており、必死に、地竜に話しかけている。
「クゥちゃん!頑張って!疲労回復のヒールをかけてあげるから!ヒール!ヒール!」
「クゥ、クゥ!」
「有難う・・」
・・・私はサーラ、ダークエルフ族の巫女。
今は村の子供達を連れて、「あれ」から逃げている。
子供達を地竜のクゥちゃんが引く大型荷車に載せて、隠れ里に避難中。
総勢28名
皆、呆然としている。お父様やお兄様を目の前で殺された者。
お母様やお姉様をとらわれた者。
奴ら女は殺さない。目的は1つだ。
28名・・・
一年前に、耳短族が、悪魔28体を召喚した。
奴らは、素材を取ると称して、魔族領で悪逆の限りを尽くす。
私らの部族は、魔王軍に参加していないのに・・・
お構いなし。今朝、水晶の目を持つ男に率いられた悪魔4体と耳短族の騎士が村を襲撃し、部族の戦士が壊滅させられた。
クゥちゃん。子竜の時に、我が村に迷い込んだ子。近くに、冒険者の足跡があったから、親は殺されたのだろうと、長老会議の結果、村で育てることにした。
以来、私たちの大事なお友達。
不安のあまり、後部の荷車から、一人、少女が顔を出し、サーラに話しかける。
「サーラお姉様、あの話は本当でしょうか?深緑の魔女・・生きているとか死んでいるとか噂が流れています」
「シャーム。悪魔に期待してはいけないわ。長老達が命を賭して、私たちを逃がしてくれたのよ。隠れ里に急ぎましょう」
「はい、お姉様」
あの話とは、悪魔28体のうち、1体だけ、正義に目覚め。魔王軍に参加し、悪の力で、悪魔たちと戦っている深緑の魔女がいると云う。彼女は、亡国の人族を率いて、魔族の為に戦っていると噂がある。
所詮、噂よ。悪魔は信用できない!
「!!あれ、道に大木が、クウちゃん止まって」
「クゥ!」
・・・間一髪、衝突を免れた。回り道、いや、魔法でどかそう・・
「ヒィ」
木々の間から、数体のカゲが出てきたわ。
魔族?人族?
「ヒィ、黒髪、黒目の・・・悪魔、どうして」
サーラは御者台で硬直する。
地竜は姿勢を低くして、「グウゥ」と威嚇するが、
彼らはお構いなしに、会話を始めた。
「お、銀髪だよ。めっけ」
「源君、いたよ。スゲーあの地竜、隷属の首輪なしで使役している。欲しー、俺らの荷物運びにしようよ」
「いいや、ボコって、虫の息になったところを、ポーターの佐山に殺させようぜ。ポーターってレベル上げにくいだろう?今クエストの功労者だ。避難場所を地形から予想するなんて」
「ええ、佐山君がいなければ、本命を逃がしていたよね」
「「それいいじゃん」」
「皆、有難う」
「いいや、あのダークエルフたちを王都まで運ばなければいけないよ。運んでから、角を折って、足を斬って、佐山君に討伐してもらえばいいじゃないかな?」
「さすが、源君、それ考えて無かったよ」
「「「ハハハハハハ」」」
・・・俺は順位2位の源、ジョブは勇者、皆を率いて、魔王を討伐する。深緑の魔女の討伐を中村に先を越されたけど、ダークエルフの少女達を捕らえたから、次は魔王を討伐すればいい。
この仲間なら出来そうな気がする。
いや、まだ、魔王討伐の話は早い。1つ1つ確実にこなすべき。
まず、これを片付けなければ。
「ねえ、君さ。僕と話をしよう」
「話すことはありません!」
村を襲った悪魔たちと違う。待ち伏せされていた・・・
【木々の精霊よ。悪魔を拘束せよ!】
周りの木々の枝が伸び。勇者パーティに襲い掛かる。
「うわ。源君の話を無視!人の話を聞かないタイプだわ。【ファイヤーアロー!】」
1人の女子が、杖をふるうと火の矢が現われ、木々を燃やす。
「ヒィ、森で火炎魔法を・・・」
サーラの叫びに、源が答える。
「考えてあるよ。雷魔法!【雷よ。木々を炎ごと吹き飛ばせ!】」
ピカッと閃光と共に雷が、木々を襲う。
バキバキバキ!
「これは、僕たちの国の世界の消火方法、爆裂で火を吹き飛ばしたのだよ。まあ、理解無理か。
そうそう、君たちは、王都で、魔物の襲撃や飢えからの心配がない世界に行く。銀髪の君は後宮に入れるよ。さあ、一緒に・・・」
パン!
源の話の途中に、突然、爆裂魔法の小さな音とこの世界の者には聞こえるが、明らかな銃声が響いた。
源の側頭部から、血しぶきが飛んだ。
「あれ、源君・・・」
更に、パン!パン!パン!と銃声が響き。
数秒後、彼らはポーターの佐山を除いて、立ってはいなかった。
「お姉様、何が起きたの?」
「精霊様・・・」
木々の間から、緑、茶色のまだら模様の服と兜、目にはゴーグルをつけたもの達が現われた。
皆、異様な魔法の杖を構えている。
「ヒィ、精霊様ではない。耳短族!・・あれ、ダークエルフがいる」
「まあ、まあ、私はアリーシャじゃよ。魔王軍に参加している方の部族じゃよ。安心おし」
「・・・はい」
しかし、耳短族がいる・・もしかして、あの噂は本当だったの。
・・・1人だけ、木と鉄で出来た杖を持つ女子が、皆に命令をするわ。
「フウ、一組、警戒せよ。二組、検死、所持品検査、本部は、佐山を拘束、私が、第三勢力と話す」
「「「「警戒了解!」」」
「「「「検死、所持品検査了解!」」」
「「「捕虜、拘束了解!」」」
「ヒィ、何だよ。お前ら、自・・」
「黙れ!お前がポーターで戦闘力ないのは分かっている!大人しくしないと発砲するぞ」
☆
「・・・黒目、黒髪・・・何故・・」
サーラは、身構える。あの悪魔達の仲間・・・しかし、
「魔王軍、魔王軍ですね・・貴方は深緑の魔女殿・・・」
彼女の服の右腕に、魔王軍の記章が縫い付けられている。4本角の牛をモチーフにしたもの。
「私は、魔王軍人族部隊対勇者戦闘団のアズサ・ササキ・・・ここに勇者達がいるとある筋から情報を得た。状況を送られたし」
サーラは、水晶の目を持つ男に率いられた悪魔に村に襲われたことを話す。
こちらも、4体。他に耳短族の騎士がいる。
「クゥ、クゥ」
「フフ、あら可愛い。トリケラトプスとサイに似ているわ。おりこうな子ね。お名前は?」
「クゥちゃんです」
「撫でていい?」
「はい・・」
・・・クゥちゃんがなついている。
「村を助けて・・・下さい。我が身は銀髪、高く売れます。どうか、ドラゴンの巫女様」
「・・・えっ、私たちは、対勇者戦闘団だよ。勇者を倒してナンボだよ。君たちが協力してくれれば嬉しいかな」
アズサは、鹵獲した魔道通信の情報を元に、戦闘団の1個班、10名を率い。アリーシャの案内の元、ダークエルフ領に勇者軍が侵攻に来るかも知れないと、情報提供と、勇者討伐の協力の要請に来ていた。
・・・偵察要員だけで、来たけども、もう、勇者軍が来てダークエルフの村を襲っていた。
まだ、甘い。最悪のことを考えて、常に先を読み、行動しなければ・・
1個班で戦えるか?
策を練ろう。佐山君を使えば・・何とかなるかも。
中村パーティとの対決の後、迷いのなくなったアズサであるが、非常な作戦を考えられる自分に、怖さを覚える。
理由は、捕虜、坂口を尋問した結果。アズサは、元クラスメイトたちから、戦犯扱いされていることが分かった。何を話しても無駄だ。
事実、中村パーティとは話会おうとしたが、問答無用で攻撃された。
・・・今度、話会おうとしたら、次は戦闘団の仲間が死ぬかも知れない。
それくらいなら、覚悟を決めて、始めから戦おう。
銃で倒そうと決断した。
一方、ダークエルフの本村に来ていた勇者パーティのリーダは、序列1位、
佐々木の恩師?八巻であった。
☆☆☆ダークエルフ本村
「あ~皆様が静かになるまで、30分かかりました。いいですか?これからは、質問と抗議は文書ですること。私の質問だけ話すことを許可します
いいですね。子供達はどこに隠しました。銀髪の子ですよ」
新天地で、気の弱い青年から、すっかり、残忍な性格に変わっていた。
最後までお読み頂き有難うございました。