第10話
「人族から、希望者を募り部隊を作るよ。最初は、俺が指導して、このアズサは班付として、育てる。そして、任せるようにする。意見ある人?」
「魔王様、それは、魔王様直轄で、私どもの騎士団から、人員を差し出すということですか?」
「イワンさん。直轄だけど、人は、広く平民からも募るよ。だけど、回復術士の女の子、一人だけ出してくれない?アズサのバディ(相棒)にする。予算は、交易から得た利益を使うから心配しないでよ」
「分かりました」
「質問のある人は挙手!」
シーーーーーーン
「じゃあ、解散!」
幹部会議では、魔王様の一声で、人族軍を編成することが決まった。
この会議で分かったのは、イワンさんは元ヤクーツ王国の国王だったということ。
今は、人族部代表だ。
この人は、白髪交じりの御髪に、痩せ質なので、余計に苦労人に見える。
廊下で、イワンさんに
私は聞きにくいことをたずねる。
「魔王軍に、人族が来ると思いますか?」
「少なからず来るでしょう。食うに困る者、占領軍の中で成り上がりたい者・・しかし、命令をすれば、高位貴族の子息も出頭させられます。ここでは魔王様の命令が絶対です」
「なるほど」
「しかし、人族からは徴兵はなさらない。だから、怖くもありますね」
「精霊国の属・・・いえ。配下だったときと比べて、暮らしにくいことありますか?」
「・・・・・」
・・・やっぱり、聞いちゃいけないことだったか。
「え」
イワンさんは私の耳の近くまで来て、小声で言う。
「人族として、魔族の支配は、どうかと思いますが、精霊国の伯爵ごとき総督に、夜伽に姫を寄越せと命令されました。・・・婚約者のいる娘は・・・自裁しましたよ。それに、比べればマシです。物資の徴発も、魔石と交換ですよ」
「貴女は魔王様のお気に入です。人族の希望になって下さい」
ポンと肩を叩いて、行ってしまった。
・・・魔王様のお気に入り?私、そんな立ち位置?
と考えていたら、背後から声をかける魔族が現われた。
「おい、そこの人族、魔王様のお気に入りだからって、いい気になるなよ!」
「は~い」
「な、なんだと」
「おい、アズサ殿は、『はい』と返事しただろう?」
「あん?!」
「ああ?!」
・・・おお、アルバート君が、私を庇って、オーガにガンを付けている。
絵面は私を取り合っているように見えるが、そんな色っぽい相手ではない。巨躯に緑の肌、犬歯が見える。あれはオーガ族、大剣を背負っている。
この子、私に嫉妬しているの?会議では見なかったな。
「やめんか。ムサビ、戦士が嫉妬するなんてみっともない」
「父上・・」
・・・お父様のブゼンさんに怒られている。ブゼンさんたちオーガ一族は、魔王を輩出したこともある名門だ。今は、魔王様がいないときの司令官をしている。
魔族の機動戦力、大狼に乗る勇敢な一族らしい。
☆数日後
結局、募集人員は11名に落ち着いた。私を入れれば12名だ。
武器類を召喚したが、とにかく、金がかかる。
「迷彩服って、ホームセンターで売っている。お爺ちゃんが農作業で着るもので良くないですか?」
「アホウ、燃えるだろう。お高くても、一人迷彩服二着だ。ジャージはそれでいい」
召喚されたものは、無反動、89式自動小銃、ミニミと言われる機関銃、迫撃砲
それらは武器庫に一括保管、私の64式自動小銃も一緒に保管。
城の旧兵舎が人族部隊の駐屯地に決まった。
ここに、工事現場で使う大きな発電機を召喚し、簡単な照明器具を設置する。
また、車両も召喚する。
軽トラと、高機動車だ。
軽トラで慣れて、高機動車を運転しよう。
教本を召喚し、私とアルバート君、イワンさんが練習する。
イワンさんの軽トラを運転する姿は、あら、田舎のおじさんみたいで可愛い。
人は集まった。
魔王様自ら面接をした。
「俺は冒険者だ。ワーウルフ討伐の実績がある。是非、幹部にお願いしますぜ」
「はい、不採用」
「僕、徴税人の息子です。お・・」
「はい、採用」
こんな感じだ。貴族は来なかった。
しかし、魔王様が要望した回復術士は貴族であった。
伯爵令嬢、回復術士のエミリアさんだ。
やや、釣り目の縦ロール。
私のバディとして、同室で生活する。
「あら、貴女が魔王様のお気に入りかしら?平民?珍しい髪の色ですわね」
「あ~はい、はい、貴女がエミリアさんですね。ちょっと、御髪イジろうか?」
「ヒィ、何をなさるの。おやめになって!」
「グシシシ」
と縦ロールを強制解除した。
後ろにまとめて差し上げた。
「グスン、グスン」
ここにはメイドさんはいない。
縦ロールは出来ないだろう。
訓練は厳しかった。
とにかく、急がせる。いわゆる、軍隊式「急げ待て」
それでも、この教育、かなりはしょったものらしい。
防護マスクの訓練はない。この世界に毒ガス攻撃はないからだ。
儀礼の練習はない。基本教練だけ。
通信もトランシーバを使う。
衛生も簡単なものだけ、こちらは回復術士エミリアさんが衛生兵扱いだ。
とにかく小火器に特化したものらしい。
照明を付けたのも、課題を出され、夜、勉強するためだ。
朝5時起床、点呼、自主練という名の強制訓練、朝食、基本教練、銃の分解結合、射撃予習。実弾訓練
ほふく前進も勿論やる。暇を見つけては走る。
午後は、近接戦闘訓練、分隊訓練。最後は、銃の整備
夜は、洗濯、アイロンがけまで行う。靴の手入れはピカピカになるまで
エミリアさんは貴族令嬢、洗濯、靴の手入れはやったことがないだろう。
泣きながらやっていた。
ここは何でも連帯責任だ。
「エミリア、何だ、この点数は?何故0点だ。銃の部品の名前を1つも覚えてないじゃないか?」
「ヒィ、分かりませんわ。どうして、このじゅうは動きますの?」
「腕立て伏の姿勢を取れ!」
「「「「1.2」」」」
で全員腕立て伏の姿勢を取り。
「1,2,3・・・・」
「エミリアさんは頭が良いから、始めに理解しようとするからだよ。丸暗記すれば、後で分かってくるよ」
「そうだぞ。オラも覚えているだけだ。意味わからないど」
「グスン、グスン、皆様・・・」
おお、皆優しい。仲間意識が出来てきたぐらいに事件が起きた。
それは、射撃予習伏せ撃ちの訓練をしていた時だ。
この日は魔王様が不在で、私が班付の役で指導していた。
だから、普段は来ない見物人がやって来た。
いつもは、アルバート君が追い払ってくれるが、
「あら、エミリア様、まあ、平民に混じって・・・ここまで自暴自棄にならなくてもね」
「仕方ないわよ。真実の愛を邪魔したお邪魔虫ですもの。婚約破棄されて魔王軍に追放されたのね。可哀想」
「おい、徴税人の息子に、木工職人、桶作りの息子がいるぞ、アハハハハ、寝転がるなんて、落ちぶれたなエミリア」
「ああ、娼婦の練習だろう」
「「「アハハハハハハハ」」」
貴族子弟たちが、エミリアと班員を馬鹿にしている。
私は、奴らに向かって行く。止めないよね。アルバート君
「・・・・」
おお、アルバート君は目で「やれ」と言ってくれている。止めないのがこの男の長所だ。
「な、なんだ。こっちに来たぞ。平民、こちらは貴族だぞ」
「おい、貴族、こちらは平民だぞ!」
私は自衛隊用の茶色の軍手を投げつける。決闘の申し込みだ。
「おい、ゴーリキ、お前がやれ。僕の護衛だろう?」
「・・・はい、坊ちゃん」
大柄の朴訥とした男が、イヤイヤながら前に出る。
こちらは銃がある。私は実弾入りの弾倉を持っている。
足下に打ち込んで、ダンスをさせればいいだろう。
しかし、男は
「・・・はあ、坊ちゃんにも困ったものです。その魔法杖を私に打ち込んで下さい。そしたら、私が剣を落します」
と小声で提案する。
おお、強敵と書いて、「とも」と呼べそうな男だ。
私は
「これは、打ち込むものではありません。銃です。貴方、弓は出来ますか?私は銃で勝負します。それぞれの武器でマトにどれだけ当てたかで勝負しましょう」
と提案する。
「アハハハハハ、ゴーリキは弓の名手だ。50メートルなら、10発中7発当たるぞ」
「「「・・・・・・・えっ」」」
班員の皆も呆れている。
感覚が麻痺していたが、この世界の弓ならそうだろう。
そして、私は啖呵を切る。
「いいですわ。しかし、そちらは代役を立てたのですから、私も立てますわよ。こちらはエミリアですわ。
いい、貴方たちをぶちのめすのは、エミリア様よ。オホホホホホ~」
と右手の甲を左ホホにあて、お嬢様笑いをする。特に意味はない。
結局、イワンさんを立会人にして、100メートル先のマトにどれだけ当てられるかの勝負になった。
勝った方の言うことを聞くこと。
「エミリア班員、いつもの訓練通りやればいいから、いい、勝負のことは考えなくていい。ホホ付け。肩付け。呼吸、照準合わせ、姿勢、それだけを考えるのよ」
「はい・・班付殿」
結果は
パン!パン!パン!パン!
エミリアさんは10発全弾マトに当てた。伏せ撃ちの姿勢で100メートル先のマトに当てるのは難しくはない。
一方、ゴーリキさんは2。この世界では賞賛ものだ。
「行くぞ」
と貴族子弟達は踵を返す。
しかし、イワンさんが一喝する。
「貴族なら決闘の約束を履行しなさい!」
アルバート君が道をふさぐ。
「さあ、言うことを聞いてもらいましょうか?エミリア班員、何がいい?」
「フフフフフ、もう、あの男のこと、どうでも良くなりましたわ」
だが、しかし、やらねばならない。
過剰な報復は恨みを買う。
しかし、舐められてはいけない。
班員たちは、平民だ。家族もいる。報復されたら困る。
ここは私が代表して、私が決めて、恨みを買わなければならない。
「え、これを着ろと?」
「そうよ。これを着ろと命じたのは、私、アズサ・ササキ、その小さな頭にたたき込んでおきなさい。アハハハハハハ」
私は貴族子弟の男たちに、白タイツとカボチャパンツの着用を命じた。
お伽噺に出てくる王子様のイメージだ。
彼らはこの国の貴族学院の生徒、卒業式のその日まで、制服はこれを着ろ。
女はカボチャパンツの男と寄り添え!
学院長には、イワンさんに通達を出してもらう。
「これが・・・じゅう・・」
ゴーリキさんは、銃を見つめていた。
後日、ゴーリキさんは、護衛を辞職し。
人族部隊に入ることになる。
初めての騎士階級の班員だ。
また、エミリアさんの一族も人族部隊に好意的になり、回復術士を人族部隊に、派遣してくれるようになる。
思わぬ効果が生じたが、
結局は、こうなるよね。
魔王様が帰ってきた。
「あれ、課題全然進んでいないじゃん。俺のいない間に決闘したの?腕立て伏の姿勢を取れ!」
「「「1.2」」」
この腕立て伏せ。魔王様もやる。
魔王様はガタイが良いいから結構キツいらしい。
「50、51.52・・・」
あれ、楽になってきた。
横を見ると、エミリアさんが、こっそり、皆に回復魔法を掛けている。
「フフフフ」
魔王様も見て見ぬふりだ。
次の日、エミリアさんの髪が、ショートヘアーになっていた。
「可愛いーー」
「フフフ、こちらの方が動きやすいですわ」
絆が深まった。人族部隊の訓練は順調だと思われたが、思わぬ災厄がやって来た。
最後までお読み頂き有難うございました。




