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詐欺師グループに助けられ手伝っていたら、自分家の財産取られてた話

[プロローグ]


私がヒロセマサアキに出会ったのは高校2年生の夏だった。当時は親子喧嘩で絶賛家出中。SNSで神待ちの投稿や、今で言う、トー横、グリ下だったか似たような場所でうろついていた。性交渉は全て断っていたので深夜まで宿が決まらないでいる。社会の底辺だって馬鹿にしていた浮浪人共は公園って居場所で仲良く横になっていた。惨めな気持ちになって帰ろうって思っていたら、酔っ払いに絡まれる。呂律の回らない口から放たれる酒くさい息は本当に不快だった。


これ以上は言いたくない。単純で、よく出来た出会いだった。


[エピソード1]


実家アパートの数倍はあるマンションの一室はカーテンすらなかった。ただ、床にはいくつもの固定電話機がある。この時、ヒロセマサアキの素性は察してはいたが、好奇心から残って手伝いもしていた。私は猥褻物の販売が主で、掲示板で釣った獲物は、マニュアルに従い誘導していく。支払いはギフト券や個人間送金で物は送らない。非対面だから可能なやり口だった。払うまでは相手の立場が上なので、見せ球だけ貰って消えていく冷やかしも多く、ストレスが溜まる。それでも、上手く騙し大人に打ち勝った時の快感が抜けなかった。


「騙した人に再び出会っても、何も言わない、分かったかい」


ヒロセマサアキは何度も口にしていた。後で思い知る。私でも担当になれたのは、少額詐欺は警察に相談しても優先度が低いから。ですが、組織にはメンツがあって煽ったら本気で追ってくる。勝利の美酒に抗えなかった闇バイトの一人が破って刺激したからか、SMS認証の電話番号から契約法人が割れ、マンションや周囲で私服のそれっぽい人が出入りするようになった。ヒロセも用心深い人で幽霊会社の役員は名義貸しだらけで実際の従業員は特定出来ていないようではある。ある時、高そうな背広姿の男性が訪問して来た。ヒロセ、背広、それに彼らに挟まれ闇バイト君は部屋の一室に向かっていく。威圧感が凄く私の視線は中央にあって、違和感から心の中で数えて一本第一関節が不足していた。


「何、やらかしたの?」


静まった部屋で振り込め君が、私に問う。


「……警察が嗅ぎ回ってる」

「いや、だから、何したら嗅ぎ回られるの?」

「私は何も知らない!」


金切り声。私語禁止の空間だったが、この時だけは心配ではなく動揺が走っていた。部屋から漏れてくる声は、……言いたくない。地獄の時が終焉し解放された彼は、病みバイト君になっていた。目元や鼻は折れたのか窪んでいて、歯も何本か見当たらない。指は明後日の方に曲がって、目がギョロギョロ動いて口や鼻から血が流れ、見せしめか短時間で変わり果てた姿になっている。


「支払いはP×yP×y、支払いはP×yP×y、支払いはP×yP×y、」

気が狂ってしまった彼のうわ言、誰も笑わない。ただ存在しているだけの背広が怖かった。


「ここは放棄して別の事務所に移る」


拠点移動は今回が初ではないらしく、ヒロセの号令で誰もが無感情に支度している。


私は帰りたかったが恐怖から動けなくなっていた。


[エピソード2]


異動した先で与えられた責務は美人局だった。愛人契約、援助交際、パパ活、呼び方は様々でも性行為が関わって、私は未成年なので“ゆすれる”。出会い系やSNSは別働部隊が指揮している。ここは待ち受け方式で、私は××ホテルには出向かない。事務所の隣に用意した自称我が家に誘う。室内には監視カメラがあって、その場で脅迫する。いい鴨であれば、家族や職場にばら撒く謳い文句で攻勢した。私は籠の中の鳥で、誰がいつ来るのか知らされてはいない。


「脱がないなら、こういう下着はいらないんじゃないですか?」


ヒロセマサアキがランチタイムに来訪したので不満が口に出てしまった。これらは大人っぽいが、私の趣味ではなく、不気味、気持ち悪い、だ。


「気に召さないかい?」


JKビジネスはドル箱で商品は大切に扱うのか優しい口調だった。立ち位置はよく分からないがヒロセは背広とは違い小物感がして、なぜか親近感が湧く。夏休みに制服着せられた不快感で二言三言文句が放たれる。


「このショーツ、お尻裂けてて意味分かんない」

「……魅惑的じゃないか」


疑問文かつ若干の間はあったが肯定的で私は居心地悪く弁当にありつく。スクエア、トラッド、三角おむすびの海苔が×毛に見えて嫌だった。お箸でぐちゃぐちゃにして振り払う。


「もう一山当てたら、この町から去ろうって思ってる」


私の解は期待されていないのか、何か言う前に部屋から出ていった。


「かーごめ、かごめ」


口にしていたら、来訪の知らせが舞う。慣れてはいたが、室内に誘う役割は私にあって、毎回、緊張した。覗き穴から見た感じでは小太りの中年男性で、ヤリ目・円光狙い。馬鹿な大人だ。――解錠した瞬間にドアノブが回され瞬く間に押しいられた。抵抗しようにも腕力で勝てるわけもなく、袋小路に追いやられる。脅し役は交代の時刻なのか不在で困ってしまう。見渡しても助けは呼べない。ベッドに押したおされ、馬乗りにされ、上着は紙のように破かれ、大っ嫌いなブラが露出した。突起物だけ隠した、“それ”におじさんは気圧され、その隙に鍵付のトイレに立て篭もる。「金返せ」って言葉が放たれ、記憶から引き出したのは、少額詐欺に嵌った人だった。この人は本当に滑稽で、確実にギフト券が送られるよう、コンビニ前での今撮要求に真面目に対応し3万円だったか“貰った”。闇バイト君が煽ったのもこいつ。少しだけ知恵があったのか、ギフト券の発行元に不正利用で連絡し、転売先の誰かが垢BANになったらしい。怒号の勢いでこじ開け、「詐欺師」って言われたので、「児×ポ×ノ収集家の変態」って罵った。言い返してはこなかったが、怒りで赤く染まったおじさんは“わからせ”に転じたのか、襲って来るも、寸前で怖いお兄さんに捕まり連行されていく。


「悪趣味なブラが役に立ちました……。でも、どうして?」

「こういうやつは弱者しか狙わないから、想像と違って驚いたンだろ」

「あのおじさんはどうなる?」


ヒロセマサアキ何も言わない。ただ、くゆらせた煙草の煙が漂う。


[エピソード3]


拠点の引き払いの支度で事務所は大忙し。あの後、背広は一度だけ訪問して、私に「豆泥は処分した」って伝えに来た。“豆泥”が何なのか聞く間はなかった。ヒロセマサアキは「カタギが知っても役に立たない知識だから」って誤魔化され、周囲は“豆”の説明に戸惑っている。


「前にも言ったが、一山当てたから、コノ町ヲ去ル」


何だか、言い方が戦前の人っぽくて吹き出してしまった。


「……あの、そのぉ……私は……捕まりますか?」


私自身がして来た罪に意識が向いて口にした。


「端末は幽霊会社の名義で契約して、画像はいじって身バレはない」

「……、……はい」


ヒロセマサアキは私が、未成年だから大丈夫って言わなかった。少し鼓動が早くなる。


「君は行方不明者届が出ている」

「えっ……」


確かに長い間、連絡していないので、家出記録が更新されていた。


「僕らは別の街に移るから、君は家に帰った方がいい」

「あの時、……どうして、私のこと助けたんですか?」

「シマ(縄張り)荒らしに出会ったから排除しただけだ」


また、くゆらせた煙草の煙が漂う。彼から小物感は抜けなかった。


「背広の人が豆泥って言っていましたが、……私は誰のもの?」

「……彼には僕のものって言ったのは、確か」

「じゃあ! デっ」

「別れよう」


言葉は重なって、愛人でも恋人でもパパでもないのに、別れだけは告げられた。ベランダから室内に戻った彼は片付けに没頭している。その姿が無責任に思えて無性に腹が立った。


※※※


夜に彼からディナーの誘いがあった。小物感のあるヒロセマサアキもエスコートは得意なのか、小洒落た店に連れて行ってくれる。愛の言葉こそなかったが、一緒に居て楽しい。私の人生の数多くの初めては、彼が与え、そして奪った。


[エピソード4]


私が実家に戻れば家族どころか親戚まで居る。迷惑かけた全ての人にごめんなさいして、大人たちから許された。祖母は“豪商の末裔”、私の父は“中堅企業の役員”で毎日忙しく、家に居る方が少ない。母はフリーの在宅デザイナーだった。


「誘拐? 私が?」


寝耳に水だった。


「大正ノ頃、人攫いが出没してナ……」


物忘れが激しくなった祖母の世迷言で3000万円が闇に消えた。家族はそう思っているらしい。


「黒電話が鳴って、孫ガ……拐ワレ……」

「お母さん、あなたの孫は目の前にいますよ」

「お、おばあちゃん、ほら、私だよ」


母は思案顔で口にしている。私の脳裏には“振り込め君”が現れ、父は何も言わなかった。


「孫ガ詐欺ニ加担シテ……世間ニ迷惑ヲ」

「するわけないだろ!」


激昂した父は怒鳴り、祖母は何か伝えようって必死だった。


「ヒロセマサアキ……」


私の独白に祖母は大いに同調する。両親は誰なのか私に詰問した。


「今すぐ、警察に行こう」

「お母さんもそう思う」

邏卒らそつニ行クナ! 拷問サレル」


祖母は闇バイト君の最期でも見て来たのか、頑なに拒否し私にしがみつく。


「オバアが示談セリ、心配スルナ」


“彼”も変な話し方だった。癖が移る。誰の?


「3000万円は……」

「男ニ」

「おばあちゃん、どういう男だった?」

「よく肥エタ男」


受け子は小太りの男性。「金返せ」。誰の、何の、お金? 違う。全く関係のない詐欺事件の被害者が偽りの情報で、やって来ただけ。誰に言われて?


「嵐ハ去ッタ、心配スルナ」


主犯がヒロセマサアキであれば、もうこの街にはいない。私は取り出したスマホの前で硬直し彼らの連絡先が分からないことに気づく。全てが遅かった。もう一山当てたら……これのことか。


[エピローグ]


「宣誓、良心に従って真実を述べ、何事も隠さず、偽りを述べないことを誓います」


裁判所から届いた召喚状に従い、今は証人として法廷に立っている。後ろの廣瀬正章被告は、俯いていて顔は伺えない。数年前に巨額の詐欺事件で逮捕され今に至る。


「関係は元恋人。私から見た彼は、祖母から3000万円騙し取った詐欺師です」


関係について聞かれたので伝える。元恋人って言ってしまった以上、淫行罪の適応は難しいかもしれない。それでも……。


「宣誓、良心に従って真実を述べ、何事も隠さず、偽りを述べないことを誓います」


一通り述べた私は席に戻って、別の女の子が法廷に立っていた。


「……関係は血縁上、私の父になります」


傍聴席がざわつく。


「私から見た被告は、……アルバイトですが所属する週刊誌で追っていた極悪人です」


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