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魔女は、魔女。

それ以上でもそれ以下でも、それ以外の何者でも無い。

魔女は、魔女である。

それは魔法に魅了され魔力を鷲掴む者達の総称であり一定以上の力を持つ称号でもある。

そして時偶、それは侮蔑と罵倒にも用いられるがその大多数は陰口と嫉妬も含んでいるのだ。


魔女が重用されだしたのは比較的近年であり、ヒトとの間は未だ燻ってはいるものの双方は歩み寄りの姿勢を見せている。

そもそも何故ヒトと魔女との間に溝が出来たのか?


魔女側の、ヒトを素材として扱う非人道、道徳観の相違なのか。

それともヒト側の、恐れ、不安、猜疑心からくる必要以上の排斥が原因だったのか。


いつから始まったのか、何が原因だったのか、それは今関係無い。

この乱痴気騒ぎの酒場では真実など気にするものは誰もいないからだ。



「こんのぉ~魔女がさぁ~!俺のこと睨みつけてたわけよ~~!!」



波々と注がれている酒を零さないよう器用にフラつく冒険者、その誹りを受けるのは小柄な魔女だった。

悪質な絡みであることは明白だった、魔女はその冒険者の方を見てもおらず、ただひとりでシードニ酒を飲みながら魔術書を読んでいただけ。

悪酔いした冒険者は更に続けた。



「なんだぁ!?おい!!俺が気に入らねえってのかよぉおお?」



間近で喚く男に眉ひとつ動かさずに魔術書を読み続ける魔女。

男の怒気は益々燃え上がっていき、魔術書をはたき落とし魔女の胸ぐらを掴んで持ち上げる。

そうなってやっと魔女は男の眼を見返した。



「このまま絞め殺してやってもいいんだぞ?おおッ?聞いてんのか魔女ッ!!」



凄む男と宙ぶらりんの魔女、その光景を見て乱痴気騒ぎの酒場が静まり返る。

魔女に暴力を振るえばどうなるのか皆理解している、だから固唾を呑んで見守り、そして祈るのだ。


どうかあの男の破片が自分の方に飛び散ってこないように、と。


持ち上げられた魔女の瞳が妖しく光った瞬間、

首を残して男の体は粉々に飛び散り酒が入った器の転がる音が響く。


酒場のありとあらゆる物に男の体だったものが塗りたくられ、酒場の店主が頭を抱える。



「月イチで俺の店を血まみれにしねーと気が済まんのかね、ジルハード嬢」



「これは申し訳ない店主殿、それに酒場の皆も。

普段なら首切りで済ますところなんだが癪に触ってね。

……今片付ける」



ジルハードと呼ばれた魔女が指を鳴らす。

飛び散った臓物、骨、血肉が男が持っていた器に収まる。

それをテーブルの上に置くと、傍らにまだ生きている男の生首を添えた。



「なんだぁこりゃああ!!?どうなって……!!」



取り乱すのも無理はない、一瞬で五体が爆散したのにも関わらず自分はまだ首だけで生きているのだから。



「君の些細な悪酔いに対する返答だ、しっかり噛み締め給え。

どうだい?……いきなり体を奪われて、……一生そのまま。

……剣も振るえず、……女も抱けない、……惨めな首だけになったご感想は?」



ただ口と眼を忙しなく動かすだけの首を見てジルハードは大いに笑う。

その様子を見て酒場の連中たちも首をあざ笑った。


体にどれだけ力を入れても何も反応が無い、手足、指の感覚はまだあるのに何も動かせない。

深い絶望と嘲笑の只中で首は情けなく声を上げて泣いた、それを見てますます沸き立つ酒場。



「ぎゃーっはっは!!泣いてやがるぜコイツぁ!」

「自業自得ってもんだ!」

「魔女様に逆らうからよぉ」

「酒が美味くてたまらねえ!もっと泣いて叫べ!はっはっは!!」



一頻り笑った魔女はニヤけた顔のまま男の首に耳打ちした。



「……元に戻りたいか?」



酒場の喧騒を物ともしない小さく儚い魔女の囁き声。

涙を流し、頷こうにも頷けないその首ひとつで男は全力で答える。



「その為に貴様は何を差し出す?」



「全部だっ!ぜ、全部!!俺の全部だ!!!」



「……大変……宜しい」



魔女が指を鳴らすと、罵倒と嘲笑で沸き立つ酒場が炸裂音と共に静まり返った。



「はぁ~~、……ジルハード嬢」



「すまないすまない、だがわかって欲しい……くふ、くふふッ」



酒場の床と壁、天井に飛び散った真っ赤な血肉に頭を抱える店主、それを見て腹を抱えて笑う魔女。

爆散したのは首を笑っていた取り巻き連中だった。

それが今や首だけとなり、逆に首だけの男は五体を取り戻して魔女の傍らに立っていた。


意のままに動かせる手足に安堵した男は、魔女に跪く。



「跪く、とは懸命な判断だな。

君はもう私の所有物、……さぁ最初の命令だ、君を笑っていた首を集めてこのテーブルに並べ給えよ。

そして一緒に笑おうじゃないか。

……心の底から、……たっぷりの嫌味と、……溢れる皮肉を込めて、ね」



力なきものは押しつぶされるだけであり、その力を知るものは畏怖し近づくことはない。

ヒトの命を魔法の材とし、意思と尊厳を指先ひとつで捻じ曲げる。

それこそが魔女である。

それ以上でもそれ以下でも、それ以外の何者でも無い。


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