涙
私は最愛の夫を事故で亡くしました。
彼は私にとって最高の夫でした。
いえ、過ぎた夫でした。
最初の1年は泣いて過ごしました。
次の1年犯人を憎んで過ごしました。
そして夫が亡くなって3年目、私は偶然にも犯人を知りました。
私にとっては衝撃的でした。
夫に出会う前に付き合っていた人だったからです。
運命の悪戯。
そうとしか思えません。
何という残酷な・・・。
彼が犯人だと知ったのは、彼に再会し、何度か食事に出かけ、ついに身体を重ねた時でした。
夫を失ってからずっと、もう二度と誰かを愛したりしないと誓っていたのに。
彼の事はすっかり忘れたと思っていたのに。
ベッドで彼が事故の事を語り出した時は天地がひっくり返ったかのような思いがしました。
彼はどうしても警察に行けなかったと言いました。
彼には奥さんも子供もいます。
私とは不倫。
それもその時初めて知りました。
もう枯れていたと思っていた涙が溢れ出ました。
私は何て業の深い女なのだろう。
私は自分がその被害者の妻だとは言わず、そのまま二人でホテルを出ました。
彼は私が泣いていたのを不思議に思ったようでしたが、何も聞きませんでした。
私はハンドルを握った時に決心しました。
この男を生かしてはおけないと。
車は町へのコースを取らず、山の中に向かいました。
彼は、どこへ行くつもりだ、と尋ねました。
私は無言のままアクセルを吹かし、急カーブに差し掛かってもスピードを緩めず、そのままガードレールに激突しました。
助手席の彼はシートベルトをしていなかったためにフロントガラスを突き破って崖の下に落ちて行きました。
私はシートベルトをしていましたが、ハンドルから飛び出したエアバッグに顔を打ち付け、気を失いました。
そこまで私が証言した時、刑事さんが言いました。
「奥さん、ご主人を失って悲しいのはわかりますが、事故で崖から落ちたのはご主人ですよ。貴方は自分がご主人を死なせてしまったので、そんな妄想を描いてしまうのですよ」
私は涙が溢れるのを感じた。