冒険者についての考察ーどのような職業形態なのかー
書きかけですが、それでも良いよというなら読んでください
「そのー…冒険者っていうんですかね、そういった感じの職にありつきたいんですけど」
頭で思うのと言葉に出すのでは恥ずかしさが段違いだが、勇気を出して相談してみる。
だが帰ってきた言葉は非情であった。
「冒険者だぁ?なんだってあんな貧民がやるような碌でもない仕事したいんだ?見たところ身なりも良いし、あんた商会員とか、貴族の従者じゃないんか?」
全く悪意が無さそうな返し、素っ頓狂なことを言うやつと捉えられた返しだった。
「えっ、貧民…そうなんですか?この街、というかこの地域に全く詳しくないものでして。あっすいません、薄めてない麦酒一杯追加で。冷やした方を」
残り少ない持金でビール(そんな上等なものでなく、エールというべきもの)を奢りつつ、その傭兵らしき身なりの男の機嫌をそれとなくとる。
「おお!兄ちゃん機前がいいな。まあそうだな、進んで冒険者やろうってやつはいねぇな。というか奴らは冒険者って名乗るが、そう呼ぶやつはこの辺りにはいねぇぜ?」
二杯目にありつけて笑顔な男は杯を傾けつつそう言う。
「と、言いますと?」
「まぁ、そういう奴らがやる職業だからな、ここらじゃクズだとかお使い野郎とか、ヤクザだとか言われてるよ」
「そうなんですか…失礼、想像と全く違ったもので」
「あんちゃんはどんなの想像してたんだい?」
ご機嫌で話しかけてくる男は、何も考えて無さそうな陽気さだった。
「なんといいますか、その、ドラゴンとか、そういった魔物って言うんですかね?それを狩猟したり、街の人のために薬草の採取に行ったりですとか、そういったものを想像してたのですが」
「ブフッ!お前アホか!そんなんあんな貧乏人の仕事じゃねえよ!第一最初に言ったドラゴン狩りなんか、領主さまとか国がやるようなことだぜ?それに街周辺に生えてる薬草なんか取り尽くされてるし、自生してるものの効果なんかたかが知れてる。そういうのは専門の栽培者から購入するんだよ!」
「えぇ…」
自身が考えていた、ドラゴンやスライムを狩まくり、生計を立てるイメージがガラガラと音を立てて崩れていく。
半笑いな男は心底アホを見る目でこちらを見てくる。内心こいつはバカだと見下しているんだろう。まあ仕方がないが。
「それにな、そこらの共有林だとか森だとかに生えてるものは、採取権は俺らにはない。領主様に管理を任されてる管理官さまが許可しない限り立ち入ることもできんぞ。…あぁ、付近の住人、村人とかは例外だぞ、年貢にはそういった意味もあるし、そもそも森に入らんと生きてけんからな。それはお前のとこでもそうだったろ?」
男は「それぐらいは知ってるだろ?」と言いたげな口調で返してきた。
「そうですね、そこのところはこちらでも同じでした」
自分のことを正直に話せるわけでもないので、適当に話を合わせつついくことにする。
「だろ?だったら最初の質問の答えは分かってただろ?あんなゴミ拾い共が入る余地なんかない程、利権でガチガチなんだよ」
「でも冒険者にそういったモンスターを倒したりする仕事が無いわけではないですよね?自分のところではそうでした」
このまま相手のペースに飲まれるのも癪なので、ちょっとだけ食い下がってみる。
「お前、さっきの話聞いてなかったのか?考えても見ろ、そういう仕事はまず村人だけでどうにかしちまうんだよ。人間束になれば大抵の生き物は殺せるんだ。そういうもんだろ?」
「たしかにそうですよね、言われてみれば…」
「だろ?それに村には必ず猟で生計立てるやつがいるんだよ。ほんとに強いぞーそういうやつは。正直こっちが群れてても相手はしたくねえな」
「マタギですか。たしかに怒らせたら怖そうですね」
「怖えなんてもんじゃねえよ、いいか?そういう奴は大抵代官から森林の管理官を任されてるんだ。官だぞ?お役人様だ。そいつを怒らせたら村どころか周りの街にすらいられねえよ。そいつらの縄張りで悪さなんかできねえ。したら大抵殺される」
男は悪さをした思い出があるのだろう。心底恐ろしいものを語るようだった。
「それに、そいつらでも手に負えなかったら領主様に訴えるんだ。すると領主様配下の軍が動き出す。ついでだが俺らみたいな傭兵も雇われる。だけどこれも怖えぞ、何しろ騎士爵さまがゴロゴロいるからな。あいつらにも喧嘩だけは売るなよ、必ず殺される。それも碌な死に方じゃねえ、絶対やめとけ」
男は騎士についてはそれ以上語ろうとしなかった。まずい、この世界は予想以上にやばい。
「そんで殆どはそこでどうにかなっちまう。貴重な生物の素材だとかは領主さま方が優先だ。そんでそのおこぼれに村人や俺らがありつく。それでおしまい」
男は手をひらひらさせながら言う。そこで利益は独占されて他にはビタ一文回ってこないということだろう。
「最後にそれでも手に負えない場合だが、この時に初めてゴミ拾い共の出番がくる。何しろ伯爵さま(爵位の基本は伯爵 ※時代と場合によりけり)が手に負えないからな。他領の領主さまや、場合によっては王軍が動く。となると荷運びは足りなくなる。傭兵や軍属の人間だけじゃな」
「なるほど、輜重隊の役目が回ってくるんですね」
「そう!ほんとだったら近くの村とかに優先的に回される仕事だが、国や領主連合が動くときは村ごと吹っ飛んでるときが少なくねぇ。そうなるとお鉢が回ってくるんだよ」
「逆にそこまででないと仕事が回ってこないんですね…」
それだけでも冒険者の境遇が窺い知れる。そういう仕事だというのは最初に聞いた時から思ったが、改めて実感させられた。
「当たり前だ!輜重とその護衛だけでも十分に食える金は貰える!それをあんなゴミ拾い共にやるわけねぇだろ!人手が足りないときだけだ」
つまり冒険者という仕事は臨時の日雇い仕事や誰もやりたがらない仕事をする者たちのことのようだ。
そこで一つ疑問に思ったことを質問してみる。
「すいません、失礼を承知で伺いますが、冒険者と傭兵の違いってなんですか?話を聞く限りちょっとよくわからなかったもので」
「ああ?…まあしょうがないか、一つ言っとくが、他の傭兵にその質問はするな。今ので袋叩きにされても文句は言えねぇぞ?」
急に厳つい顔つきに変わったが、物を知らないやつだと思われていたから仕方ないと思われたのだろう。気をつけなければ。口は災いの元だ。
「まぁ傭兵ってのは各傭兵ギルドが募集して採用されたものたちのことだ。あとはきちんとした傭兵団に登録されているかだな。ゴミ拾い共はギルドに登録すれば誰でもなれる。まあそんなところだな」
「冒険者ギルドがあるんですね!それって登録だけしてもいいんですか?」
「はっ!あんなのギルドじゃねえ!職業斡旋所って言うんだよ!」
違いがよくわからん…どちらも職業を斡旋する場所じゃないのか。わからないのでまた聞いてみる。
「あのー、冒険者ギルドってそんな酷いんですか?」
そういうと男は本当に心の底から溜息を吐いた。
「はぁー、お前そんなこともしらねぇで仕事探してたのかよ。大丈夫か?」
「すいません、本当に遠くから来たもので全く分からないです」
呆れられてどっかに行かれると思ったが、意外にも男はキチンと話してくれるようだ。
ツマミと酒の追加をすかさず頼む。
「ほんとにどっから出てきたんだお前…顔つきもこの辺りとは全然違うし…まぁいいか、俺には関係ねぇ話だな」
どうやら事情を勝手に飲み込んでくれたらしい。気前がいい奴には警戒するもんだが、俺は安全と思われたらしい。
「いいか?冒険者ギルドってのは国がやってるもんだ。管理は領主さまだがな。で、仕事で上がった利益の2割は国に納めることになる。さらにそっから2割は領主さまに収めなきゃならねえ。他にも仕事に必要な道具だとか飯代とかで諸々取られてろくに稼げねぇ。だが住むところだけは保証してくれる。馬小屋みてえなとこで、これも金取られるがな。だから貧乏人共はこの仕事をしてる」
酷い。話を聞く限り日本の派遣会社の中抜きよりひどいじゃないか。しかし本当に貧困に苦しむ人はこの冒険者ギルドから斡旋される仕事をするしかない。それで殆ど報酬が中抜きされて、働けど働けど楽になれない。完成されたシステムだと感心する。
「なるほど、そういった仕組みになっているのですね」
「そうだ。だから間違っても登録なんかすんな。あんなところから仕事も請け負うなよ。見たところあんちゃんは体格もいいし身なりもいい。他にできることはあるんか?」
「読み書き計算(日本語だけど)ができます。あとは薬とか天文とか錬金(物理化学)を少し齧ったことがあります」
高校レベルだが少しは学はあると思う。この世界なら。
「すげえじゃねえか!?あんた学者か!?そんな学がある人がゴミ拾いやりたがるんだよ!」
男は明らかに自分を見る目を変え、感心するように頷きまくっていた。
「自分のいたところだと冒険者というのはかなりイケてる仕事でしたので、ここでもそうなのかと思ってしまいました」
「あんたのところではそうなのか...言われてみれば確かに言葉遣いが違うな。無礼な態度を取ってすまなかった。俺はこのサバの街のサバ護衛団に所属してるフォークだ」
ここで初めて名乗られた。確かに身分によって取る態度が違うというのはある意味では正しいのだろう。それに相手はしっかり名乗ってくれたのだからこちらも名乗らねば失礼だろう。古事記にもそう書かれている。
「改めて自己紹介します、自分はカズマ。ワタナベ家のカズマです」
そういうと傭兵の男は益々感心したようだ。
「苗字持ちということはあんたは名のある家の出なんだな。いや、失礼カズマ殿。初めて名乗られた時名前しか言わなかったので勘違いしてしまった。察せず申し訳ない」
「いえ、キチンと名乗らなかったこちらの不手際です。気にしないでください。それと敬称とかは不要です。さっきまでのカズマの方が気楽で良いですから」
良い感じに相手が勘違いしてくれたのでこれに乗っかることにした。かなり良い感じだ。
「そうか、それじゃあさっきまでの口調で失礼するぜ。そういや、話がずれてしまったがどこまで話したか。…傭兵ギルドに関してだったか」
そうは言ったが先程とは違い、姿勢を正してべらんめえ口調出さなかった。これが対等なもの同士の態度なのだろう。
「傭兵ギルドというのは世襲で名家が運営するか、一代騎士となったものが運営しているか、他にも違いはあるが基本は独立独歩だ。領主から干渉はあまりない。しないのが暗黙の了解だ。こっちもそれ相応の武力を持ってるからな。
それとギルド運営に運営費は取るが冒険者ギルド並にアコギじゃない。登録にも手数料がかかり、登録できても職があるとは限らない。
そこからさらに各傭兵団に所属することになる。傭兵といってもやることが仕事柄色々あるからな。商隊護衛だったり国境警備だったり、城の警備なり様々だ」
つまり傭兵ギルドは民間防衛会社のような存在ということになる。採用後に適性を見られて各部隊に配属されるようなものだと思われる。
「なるほど、そういった仕組みになっているのですね。…時にフォーク殿はどういった仕事をする傭兵団に属されているのです?先程の名乗りから察するに護衛任務についていると思うのですが」
「まぁ基本はそうだな。商隊の護衛が主な任務だ。それ以外にも管轄内の定期巡回だったり、色々やってるがな」
うーん、仕事内容としては軍のニ線級部隊のような任務とMPのようなものなのだろうか。とても楽とは言い難いが、ルーティンワークのようなものなのだろう。
「そういったお仕事をなされてるんですね。いや〜定職についてるとは凄いですね」
続き欲しかったら何か感想ください。元気が出ていっぱい書きます。