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ただ一つの愛をあなたに③

 翌日、早速ルビーのもとを訪ね縁談について問うたアルテミスはルビーの予想外の反応に驚きを隠せなかった。


 アルテミスが縁談の話を切り出すと、ルビーは一瞬でイチゴのように身体中を真っ赤に染め上げたのだ。

あの普段は青白い顔をしていたルビーが、だ。


 てっきり好いてもいない男と家族の為に結婚しようとしていると思い込んでいたがどうやら違うらしい。


 アルテミスはニヤリと笑みを浮かべると、ルビーに相手の男性について聞かせるようせっついた。

 最初は真っ赤になってモゴモゴとしていたルビーも、アルテミスのしつこさに負けたのかポツリポツリと縁談相手である男性について話し出した。


 縁談相手であるレイン・ポーシャル公爵との出会いはやはりと言うべきか、あのステラ伯爵家で開かれたデイモンのお披露目パーティーでのことだった。

 ポーシャル公爵はバロックの古い友人で、普段は北の奥地にある辺境の領地で暮らしていおり社交の場には滅多に姿を表さない無口な男性だ。


 ルビーによると、お披露目パーティーでデイモンとアルテミスに挨拶を終え帰宅しようとした際に久しぶりに浴びた強い日差しにやられ気分が悪くなり目眩をおこしてしまったそうだ。

 倒れる、そう思い瞼をギュッと瞑ったルビーを受け止めたのは硬い地面ではなく、力強く温かなレインの腕だった。

 ルビーを受け止めたレインはルビー付きの侍女に水と迎えの馬車を呼ぶよう伝え、ルビーを抱き上げると人通りの少ない木陰へと運んだ。

 霞む視界の中、謝罪もお礼も上手く伝えることが出来ず浅い呼吸を繰り返すルビーに、レインは「大丈夫だ、わかっている。」と胸を震わす心地よいバリトンボイスで囁いた。

 薄れゆく意識の中、ルビーは心配そうに揺れるアクアブルーの瞳をとても美しいと思った。

 その後、侍女に連れられ無事に邸へと帰りついたルビーは高熱を出して寝込んでしまった。


 三日三晩寝込んだ後、ようやく熱が下がった頃に侍女にあの御披露目パーティーで出会った紳士について尋ねるも、彼女もあの紳士が何者なのかわからないという。

どうやら後日お礼をしたいと伝えた侍女の言葉を断り、名乗るほどのことではないと言ってその場を去ってしまったそうだ。

 ルビーは何とかもう一度あのアクアブルーの瞳をもつ紳士に会うことはできないかと悩んだそうだが、探そうにも手懸かりがない。

御披露目パーティーのホストであるアルテミスなら何か知っているのでは?と訪ねようとしたが、アルテミスはあのパーティーの後すぐに別荘へと行ってしまっており直接尋ねることは難しかった。ならば手紙であの紳士について尋ねようとも思ったがどうにも姉のように慕うアルテミスに自分のこのような浮わついた気持ちを伝えるのは気恥ずかしく、書いては捨て書いては捨てるを繰り返していたそうだ。


 そうこうしているうちに一月経ち、二月経ち…

 あの紳士との出来事は熱に浮かされたルビーの見た白昼夢なのではないかと諦めかけていた。

 そんな時、本を借りるために入った父親の書斎の文机の上に山と積まれた釣書を見つけた。

 いっそこのような想いは諦めて家族のためにもこの中から縁談相手を選ぼうか…

 そんな考えから釣書に手を伸ばすと、バサリと一枚の釣書が山の中から床へと落ちた。

ルビーが慌てて手に取ろうとしたとき、同封されていた姿絵にルビーの大きな瞳がさらに大きく見開かれた。

何故ならその姿絵にはルビーが探し求めていたあのアクアブルーの瞳の紳士に瓜二つだったからだ。


 そこからのルビーの行動は早かった。

 すぐに父親にこの縁談を受けたいと申し出て、お見合いの場をセッティングしてくれるよう頼んだのがつい先日の話しだ。


 アルテミスは真っ赤になってうつ向きかげんに話すルビーをとても可愛いと思った。


 「一目惚れなの……」


 そう呟いたルビーは紛れもない恋する乙女の顔で、アルテミスは自分が口を挟む必要はないと胸を撫で下ろした。


 「そうなのね。じゃあこんな所でボーッとしてる場合じゃないわ!!お見合いの日に着ていくドレスを早速見繕わなきゃ!!ポーシャル公爵を悩殺できるようなとっておきのドレスを、ね!!」


 アルテミスの言葉に一瞬ポカンとしたルビーだったが、アルテミスの心底嬉しそうな笑顔にほっと胸を撫で下ろし、クスクスと愛らしい微笑みを浮かべた。


「そうねアルテミス、一緒にドレスを選んでくれる?」


「もちろん!!」





 アルテミスはきっとこの日のことも忘れない。永遠に。

 ルビーとのキラキラと輝くような想い出たち。

キラキラと輝けば輝くほどアルテミスの胸は酷く痛むのだ。


 あの日何故自分はルビーの背中を押してしまったのかと。


 素晴らしい日々は瞬く間に過ぎていった。

 二人であーでもないこーでもないと言い合ったドレス選び、桃色に頬を染めて俯いていたレイン公爵との再会、ルビーの瞳と同じ色と名前をもつ宝石を贈られたロマンチックなプロポーズ、そしてむせかえるような薔薇の香りと幸福に包まれた結婚式。


 全てが瞬く間に過ぎ去った幻のようだった。


 あの瞬間、確かにルビーとポーシャル公爵は真実の愛で結ばれていた。

 だけど、それは長くは続かなかった……。


 結婚式の後、すぐにルビーはポーシャル公爵とともにポーシャル公爵家の納める辺境の地にある領地へと旅立った。


 北の奥地にあるポーシャル公爵領はアルテミスの暮らす首都バルバラから馬車で4日ほどかかるほど遠く離れている。

さらにバルバラとは違いとても寒い地域であり、冬は氷点下を越えることも日常茶飯事であった。

 そんな場所に身体の弱い娘を嫁がせることにルビーの両親や兄は難色を示したが、ルビーの意思は固く、そしてポーシャル公爵のルビーを必ず幸せにすると言う言葉を信じ、最終的には二人の意思を尊重し笑顔で二人の門出を見送った。

 

 その後、ルビーとは中々会うことは出来なかったが、アルテミスとルビーは相変わらず手紙のやり取りを続けていた。

その手紙には幸せ一杯の新婚生活の内容が綴られており、ルビーの両親もアルテミスも幸せそうに微笑むルビーの姿を思い描いて安心していた。


 だが数年後、私たちのそんな思いは粉々に崩れ落ちる。


 痩せ細り、ぼろぼろになった姿でルビーが一人バルバラへと帰ってきたのだ。

 お腹の中にアーティアを宿して。




 

 

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