ただ一つの愛をあなたに②
「えっ!!ルビーが縁談を受けたいと言っているのですか?!」
その知らせはデイモンの御披露目パーティーから丁度半年程経ったころに、ルビーの兄スティールによってアルテミスは知らされた。
と言うのもデイモンが産まれてからしばらくの間、産後は無理をせずゆっくりと過ごしてほしいという夫バロックの強い勧めでアルテミスはデイモンを連れてステラ伯爵家のもつ、空気の綺麗な海辺の村にある別荘に半年ほど滞在していたのだ。
半年の間、距離が離れているためルビーとは中々会うことは難しかったが、こまめに手紙のやり取りをしていた。しかし手紙には縁談については全くといっていいほど触れられていなかったのでアルテミスはスティールからもたらされたこの知らせに大層驚いた。
「僕も驚いているんだ。突然、ルビーが全く興味を示していなかった大量の釣書の中から一枚引っ張り出して『わたしこの方との縁談をお受けします。』なんて言うんだから」
「それは……驚きますわね」
そうだろう、と困ったようにスティールはへにゃりとした笑顔を見せる。
「……僕はね?アルテミス。もしかしたら妹は僕や両親に気を使ってこんなことを言い出したのではないかと思ってるんだ。」
悲しげに顔を伏せたスティールは、やはり兄妹というだけあってルビーの面差しに良くにている。
その姿を見て、アルテミスは昔ルビーがポツリと呟いていた言葉を思い出した。
『わたしの身体はどうしてこんなにポンコツなのかしら……。こんなお荷物がいたらお兄様にかわいいお嫁さんが来てくれないわ』
その時はそんな弱気なことを言うルビーに「ルビーはポンコツなんかじゃない!!みんな貴方と一緒にいたいからいるの!?大体こーんな可愛い義妹を邪険にするような性悪女をスティール様が選ぶわけないじゃない!!もっと女の子の趣味は良いと思うわ!!」と、叱り飛ばしてやった。
その時は「そうかしら」とクスクス微笑んでいたルビーだが、もしかしたらまだ気に病んでいて縁談を受けようとしているのではないだろうか。
そんな胸騒ぎを覚えたアルテミスはバッと立ち上がり身を乗り出した。
「スティール様!!安心してください。私が明日ルビーに話を聞いてきます!!本当にルビーが望んでいる縁談なのか、そうでないのか。」
アルテミスの力強い言葉にスティールは安心したように微笑んだ。
「ありがとうアルテミス。よろしく頼むよ」