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全てを手にいれた日(ロザリア)

 ついにその時が来たとロザリアは溢れ出る笑みが隠せなかった。

 美しく微笑みながら扉を開いたアルテミスに、ロザリアは胸を高鳴らせる。


 (ついに手にいれた)


 有り余る富に誰もが羨む美しく威厳に満ちた夫、そして大勢の人々に愛され慕われる伯爵家の女主人という地位。


 ついに私は全てを手にいれたのだ!!



 アーティアの持つ全てのものが羨ましかった。


 この世界は常に不平等で溢れている。

 ロザリアにしてみればアーティアは不平等の塊のような存在だ。


 何故ならアーティアはこの世に生まれ落ちた瞬間から全てを持っていたから。

 恵まれた容姿に、教養、知性、そして素晴らしい人生の伴侶。


 アーティアはただ生きているだけで勝手に周りの人間が彼女にとっての最善を整える。

 そう、彼女はただそこにいるだけでいいのだ。


 ロザリアが人を欺き蹴落とし際限なく己の手を汚し、そうして死に物狂いで手にいれようと切望した物達を、アーティアはただそこにいるだけで手にいれていた。


 それがロザリアには堪らなく腹立たしかったのだ。


 確かに初めてアーティアに出会った日、小鳥の囀ずりのような美しい声で優しく声をかけられ、見ず知らずのロザリアのために自ら怪我の手当てをし、行く宛のないロザリアを邸に招き入れてくれたときには彼女に心底感謝していた。

 

 だけどアーティアに優しくされればされるほど、アーティアに施されれば施されるほど思い知らされた。


 あぁ、私と彼女は違うのだと。



 ロザリアはアーティアに出会うまでは自身の人生をそれなりに恵まれたものだと思っていた。


 ロザリアの母親と父親は働き蜂を祖先に持つ極平凡で勤勉な夫婦だった。

 三人兄妹の末っ子長女として産まれたロザリアは家族にそれはそれは可愛がられて育ち、多少わがままで奔放な性格ではあったがそれもロザリアの魅力の一つだと皆一様にロザリアを愛し蝶よ花よと育てた。

ロザリアを愛したのは家族だけではない。幼なじみの子ども達から大人まで、蜂の一族のみならず多種多様な一族と老若男女問わず愛され大切にされた。

極端な話、ロザリアとすれ違っただけで皆狂ったようにロザリアに夢中になりロザリアを求めた。


 ロザリアが自身の特別な力に気づいたのはロザリアが十四歳になった頃だ。

 

 初めに気付いたのは、ロザリアの暮らす村に立ち寄った商人だった。

 

 商人は盲目的にロザリアを愛する村人達やロザリアの家族を見て顔を一瞬で強ばらせたかと思うと、「クイーンがいるのか?!おい!!お前達早く引き上げるぞ!!」と言うと仲間を連れたって急いで村を後にした。


 ロザリアはその時初めて"クイーン"という言葉を知る。


 そしてクイーンとは何なのか、己が一体どのような存在なのかを知ったのだ。


 どんなわがままや願いも叶えてくれる家族や村人達、競うようにロザリアを取り合い気を引こうと必死になる男達。


 無条件で許され愛され、まるで熱に浮かされたような瞳で見つめられるのはロザリアにとって普通のことだったが、その時初めてその理由をロザリアは理解した。


 そして思ったのだ。


 あぁ、私は神に選ばれた特別な人間なのだと。


 そして自覚することで今までは無意識に暴走させていたクイーンの能力をコントロールすることが出来るようになり、ロザリアはより強力な力を手にいれた。


 人々を操り、意のままに動かすのはそれはそれは気分のいいものだった。


 しかしロザリアはそれだけで心が満たされることはなかった。

 むしろ、力が強くなればなるほど心が枯渇して行くのだ。


 そして何よりクイーンとして目覚めてからというもの、自分であって自分でない何かに内側から語りかけられるようになった。


 "貴方はこんな小さな村にいてはいけない"


 "もっと大きなものを手にいれられるはずだわ"


 "さぁ、思い出して?貴方が本当に望んでいるものがあるはずよ?"



 やがて満たされなくなった心を抱え、ロザリアは内側からの声に従い村を飛び出した。


 行く先々で人々を狂わせ、欲しいものを次々に手にいれた。


 ただ、どんなに金や寵愛を手にしてもロザリアの心は満たされない。


 "もっと、もっと、貴方が求めているのはそれではないでしょう"



 内側からの声は、いつしかロザリアの声になっていた。

 内側はロザリアと溶け合い、そして一つになったのだ。


 ただ溶け合ってもロザリアは己が求めている"何か"が何なのかわからず、正体の無い何かをずっと求め彷徨続けた。



 そしてついに見つけたのだ。


 ロザリアの内側が求めていた"何か"は一目見てすぐに理解した。


 デイモン・ステラ、その美しい姿を瞳に映せば一瞬でロザリアの心を潤わせる。


 そして心が叫ぶ。

 "この男は私のものだ!!"と。



 その時、命の恩人のアーティアは一瞬でロザリアの敵になったのだ。


 だってアーティアは私のモノを奪ったのだから。



 混乱する頭は支離滅裂だ。

 それでも確かなものがある。


 ロザリアはその時決意したのだ。



 必ずデイモン・ステラを"取り戻す"と。

 そして、私のモノを奪ったアーティアから全てを奪い尽くしてやると固く誓ったのだった。

 

 


 

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 再開ありがとうございます とても楽しみです アーティアが幸せになれること祈ってます
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