ようこそ楽しいお茶会へ① (アン)
時は少し遡って、アーティアがデイモンと共にレミニオ村へ旅立った日。
私、メイドのアンは敬愛する主人アーティア様……ではなくロザリアと共にアルテミス様に招待されたお茶会へ向かうべく馬車で揺られていた。
「ねえ、アン。私あなたとこんな風にお出掛けできてとっても嬉しい!!」
「……そうでございますか。」
「もう~っ!!そんなかしこまらないでったら!!私あなたともっと仲良くなりたいのよ!!そうだ!!二人っきりの時は私のことロザリアってよんでよ。敬語も使わなくていいから!!」
「そういう訳にはいきません。」
「んも~っ!!アンは本当に真面目なんだから。でも私アンのそういうところ大好きよ。ほら、普段はアーティアが貴方にべったりだから中々こうやって話す機会がなかったじゃない?だけど今日話してみてわかったわ。私達きっと良いお友達になれると思うの!!アーティアは産まれも育ちも根っからのお姫様だから気を遣うだろうけど私はほら、アンと同じ庶民の出だからさ。アンの気持ちスッゴクわかるよ。だから良い機会だしこれから仲良くしようね。」
「……わかりませんよ?ロザリア様は記憶を失っておいでですからもしかしたら尊い血が流れていらっしゃるかもしれないですから。私などとても恐れ多くて気安くお声をお掛けすることなど出来ません。」
「え~?ちょっとぉ、いやだなぁ。こーんなど庶民でガサツな私がトウトイチ?笑っちゃうよぉ~。」
(満更でもなさそうな顔すんな。嫌味に決まってんだろ嫌味に!!)
心の中で毒づき、アンは溜め息を飲み込んだ。
ここで問題です。死ぬほど嫌いな女がすり寄ってきたときの正しい対処法は何か。
答え?それは肯定も否定もせず死んだ魚のような目で口角を真横に引っ張り微妙な微笑みを浮かべる、だ。
(平常心、平常心。1、2、3、4……)
アンは何度目とも知れない呪文を音もなく口内で繰り返す。
そしてすぐにでも往復ビンタをお見舞いしてやりたい気持ちをグッとこらえ、正気を取り戻すために目の前で無邪気に微笑むロザリアの黒子を無心で数えた。
かなり不本意ではあるが、今日の私の主はこの肉だんごみたいな肉付きの良い女、もとい旦那様の側室ロザリア様だ。
かなり、かなり不本意ではあるが、だ。
今朝、ロザリアの後について邸を後にしようとしたときにツンと控えめに引っ張られた袖口と不安げにアンを見つめるアーティアの姿に、アンはその身を震わせ悶える己を必死に抑えそれを拒絶した。
(あぁ、アーティア様お許しください。)
本当はあんな冷酷で非道な旦那様と二人きりでアーティア様を旅立たせるなんて事したくなかった。
だが、それは今回の計画に必要なことなので奥歯を噛み締めて耐えることしか私には出来ない。
もちろんロザリアに付き従い口答えせず耐えているのだって今回の計画のため。全てはアーティア様の明るい未来のためなのだ。
「あ!!ねえねえアンもおやつ食べる?調理場からこっそり色々貰ってきたの!!えへへ、内緒だよ?なにがあるかな~バナナとリンゴとあとはクッキーと~」
(この女、ちょっとは静かに出来ないのだろうか。喋るか食べるかしてないと死ぬのかお前は。)
アンは口角をひきつらせ微妙な微笑みを浮かべる。馬車がアルテミスの邸に着くのが先か自分がロザリアを張り倒すのが先か、一体どちらだろうかとぼんやりと思うのだった。




