あの日を取り戻す旅②
「じゃあいってきます!!お土産貰ってくるから楽しみに待っててね!!あ、デイモンはアーティアに意地悪しないんだよ?私が帰ってくるまでちゃんと仲良くしてあげること!!」
ロザリアはそんなことを大真面目に言って、苦笑いするデイモンと何も言えない私を置いて何時にも増して高いテンションでアルテミスの暮らす別邸へと出掛けた。
一緒にアーティア付きのメイドのアンを連れて。
朝食後、アルテミスがロザリアをお茶会に招待したことにまだ呆然としていたアーティアをアンの一言が更に追い討ちをかける。
なんと先日のラザニア邸で行われたお茶会の際に、近いうちにロザリアを自宅に招くのでその際はアンに供をするようにとの指示がアルテミスよりあったのだそうだ。
まだ貴族社会に慣れていないロザリアのための気遣いだと分かってはいたが、アーティアは心が萎んでいくのを押さえられなかった。
胸に押し寄せる虚しさや寂しさ、そして恐怖。
ロザリアに全て奪われてしまう。そう思うと心臓がバクバクと音を立て速度を増していくのを感じた。
アンがアーティアの側から離れロザリアの方へと足を進めたとき、ダメだと分かっていたのにアーティアは思わずアンのしっかりと糊付けされた袖口をギュッと握りしめてしまった。
しかし、すがるように不安に歪むアーティアの表情を見てアンは戸惑った表情を浮かべたが「すみません」と一言残し予定通りロザリアの方へと行ってしまった。
呆然と立ち尽くすアーティアに、ロザリアは「大袈裟だよ!!すぐにアンのことは返してあげるから安心して」と笑い、デイモンはそんな私の様子に「子どもじみた恥ずかしい真似はするな」と不快そうに顔を歪ませた。
デイモンはロザリアとアンが出掛けたのを見送ると、アーティアには目もくれず無言で執務室へと向かうためにすでに歩き出していた。
そんなデイモンの様子を見て、立ち尽くしていたアーティアも、頭を切り替えるように一つ深呼吸をした。
何故ならアーティア自身も処理しなければならない仕事を山のように抱えており、いつまでもここで傷付いて立ち尽くしている場合ではないからだ。
アーティアもデイモンの執務室とは反対方向にある自室へと足を踏み出そうとしたその時、私達二人は執事頭のピーターから声をかけられる。
ピーターはアルテミスから渡されたと言う手紙をデイモンへと手渡し、『大切なお願いがあるので直ぐに二人で読むように』とのアルテミスからの伝言を私達に伝えた。
デイモンは顔をしかめながら封を開くと、文字を読み進めるうちにさらに眉間のシワを深くしていった。
「どうされたのですか……?」
アーティアが手紙を読み終えても何も言葉を発しないデイモンに恐る恐る問いかけると、デイモンはアーティアに視線を遣ることなく手紙を少々乱暴にアーティアの掌に押し付けた。
そして自室へと歩き出しながら「旅の支度をしろ。」と言葉少なにアーティアに告げ、階段を登り姿を消してしまった。
事情を飲み込めていないアーティアは頭の中にたくさんの疑問符を浮かべながら、とにかく手紙の内容を把握するため、掌にあるアルテミスからの手紙を丁寧に開くのだった。