竜の一族①
アーティア達の暮らすライオネル王国には、動物や昆虫、今や絶滅したと言われている伝説上の生き物達を祖先にもつ者達が多く暮らしている。
そしてその血は今もまだ根強く、人々の間に流れつづけていた。
そして動物を祖先にもつ人々は、その祖先の種族特有の能力、習性、嗜好、性格特性を持ち産まれてくる。
例えば狼を祖先にもつ者は俊敏な脚力の者が多く、また人と群れるのを嫌う性質をもっている場合が多い。
もちろん個体差や環境要因も合わさり、一概に全ての特性に当てはまるというわけではないが他の人間より特出した能力をもっているのは確かだった。
血は長い年月をかけ他種族と交わり、その力を衰退させていった一族もあれば逆に強大な能力を手にいれた一族もいる。
そんな中でもステラ伯爵家は今や伝説上の生き物である竜を祖先にもつ、特に特殊な一族だった。
彼らの祖先である竜は強靭な肉体を持ち、非常に獰猛な性質を持つものが多かったという。
さらにその身に流れる血を飲めば不老不死になるという伝説が今も語り継がれているほど謎に満ちた存在だ。
実際に、彼らの子孫であるステラ一族は強靭な肉体をもち余程のことでもない限り死ぬことはない。
例えば首を切り落とされたり、心臓を捻り潰されれば流石に命を落とすが普通に生きているだけではまず命を落とすことはない。
戦闘を好み戦うことに執着しているステラ伯爵家の祖先の中には戦場で命を落とすものも数人居たらしいが、病原菌に対しての耐性も強く、高い治癒能力を持つことから普通の人間なら死んでしまうような怪我も直ぐに傷も塞がってしまうため滅多に戦で命を落とすこともなかった。
つまり彼らはほぼ不死身と言ってよい存在なのだ。
また、その多くが青年期頃で身体的な成長を止めてしまうため年を取ることもなく永遠に近い時間を生きる。
人々は彼らを神のようだと崇めるものいれば、化け物だと忌み嫌う者もいた。
ステラ伯爵家はライオネル王国建国前である千年以上前にこの地に降り立った入植者一族の一つであり、現王家の祖先たちと共にライオネル王国建国に尽力した立役者であると言われている。
ステラ一族の強靭な肉体と老化しない肉体は常に人々の羨望の的であり畏怖の対象でもあった。
長い歴史の中ではステラ一族のことを恐れ排除しようと言う動きが数え切れないほどあったが、ライオネル王家は決してそれを許さかった。
何故ならステラ一族が富や権力に興味を示さず、戦闘に興奮を覚え己の全てをかけるという特性をもっている一族であることを理解していたからだ。
彼らの並外れた戦闘能力は国や王家を守る堅陣な盾になる。
そして彼らは一度誓った忠誠を破ることはなく、その命が尽きてもなお忠義を尽くすという。
要するに、王家にとってステラ一族はとても都合の良い臣下だということだ。
もちろんそれはステラ一族にとっても同じで、群れることや社交を嫌う彼らが戦うことのみに注力するために好都合な相手だから王家に忠誠を誓い、建前上は国と王家の繁栄のために尽くしてきた。
ステラ一族は高すぎず、かといって低すぎない伯爵という地位を与えられ、両家はお互いにWin-Winの関係を建国以来ずっと維持している。
また、他の貴族達も裏では失脚させる機会を虎視眈々と狙ってはいるが本格的に動こうとしないのはステラ伯爵家が男児のみしか誕生しない一族だと言うことも一つの理由である。
古くから、上昇思考の強い貴族たちは己の娘達を王族へと嫁がせることでより強力な王家とのパイプを繋ぎ権力を得てきた。
なので建国以来、千年以上女児の産まれていないステラ家の血が王家に混じることは決してなかった。
ならば姫を娶れば良いと言われるかもしれないが、不思議なことに王家もまたステラ家同様にこの地に住まうようになってから男児にしか恵まれない一族であったためライオネル王家とステラ伯爵家はこの千年、決して血が交わることはなかった。
逆に言えば交わることがなかったからこそここまでの長い年月、純粋な主従関係を結び続けていくことができたのだろうと思われる。




