私達の可愛いアーティー
「アーティー!!よく来てくれたわ。」
ラザニアはアーティアの姿を見つけると、直ぐにかけより力強く抱きしめた。
ここはラザニアの邸にある陽当たりの良いティールーム。
室内にはまだラザニアとアーティアしかいないようだ。
「お招きありがとうございます、ラザニア様。」
「アーティー、とっても会いたかったのよ。わたくし貴女の事が心配で心配でここ数日夜もまともに眠れていなかったのだから。」
アーティアがラザニアの顔を窺うと、白粉で丁寧に隠してはあるものの確かに目の下にはうっすらと隈のようなものが見える。
「ご心配をおかけして、申し訳ありません。」
アーティアが申し訳なさそうに謝れば、ラザニアはさらにきつくアーティアを抱き締める。
「もうっ!!アーティーが謝ることではないわ!!悪いのはぜーんぶあのアンポンタンでスットコどっこいのどーしようもないわたくしの甥っ子なのだから!!」
「ほーんとあのアンポンタンでスットコどっこいのドラ息子をどうしてやろうかしらね?」
ラザニアがデイモンへの不満を叫んでいると、それに同意する声がティールームの入り口から聞こえてきた。
「お義母様!!それにルイス様も!!」
ティールームの入り口に立っていたのはデイモンの母であるアルテミスと幼い息子、つまり、デイモンの年の離れた弟であるルイスだった。
アルテミスは優しく微笑みながらアーティアの側に寄ると、そっと頬に手をあてた。
「アーティー、私の可愛い娘。とっても会いたかったわ。あぁ、少し見ない間にこんなに窶れてしまって……。」
アーティアとアルテミスが顔を会わせるのは、あのデイモンによるロザリア側室宣言の日以来だった。
伯爵家の家督をデイモンへと譲ったバロックとアルテミスは、普段は国王陛下からの命を受け、各地を転々とする生活を送っているため滅多に邸へと訪ねてくることはない。
あの日もデイモンとアーティアを驚かせようとサプライズで邸へと訪ねるたアルテミスとバロック。
さぞ驚くことだろうとわくわくしながら門を潜れば、何やら様子がおかしい。
見慣れたはずの邸は何故か趣味の悪い方向にすっかりと姿を変え、困惑する二人を出迎えたのは見知らぬ女。
丁度玄関ホールに居合わせたロザリアは、恥ずかしげもなくさも当然のように女主人面をしている。
メイドに何事か耳打ちされると、パッと表情を明るくし、悪びれる様子も戸惑う様子も見せず、屈託の無い笑顔で「わぁ!!デイモンのお義母様とお義父様ですか?お会いしたかったです!!デイモンは今お友達とお話し中なので私達も家族みんなで楽しくお喋りしてデイモンを待ちましょう!!」なんてのたまったかと思うと、しまいには二人に抱きついて来ようとしたものだからアルテミスとバロックは思い切り腰を仰け反らせる羽目になった。
サプライズを仕掛けようと思っていたら、ロザリアによって逆にとんでもないサプライズをかまされてしまった、というわけだった。
その後のことはもう思い出したくもない。
一体どういうことだと烈火のごとく怒り暴れるバロックと、一緒になって激怒しバロックの掩護射撃をしているアルテミス。アーティアはどうにか宥めようとするも効果は無く、そうこうしているうちに二人はデイモンの執務室へと突入。
その後は言わずもがなだ……。
「お義母様、本当に申し訳ありません。私が至らないばかりにこのようなことに……」
「さっきラザニアもいっていたけど、今回のことアーティーは何一つ悪くないわ!!悪いのはぜーんぶ私の息子、あの馬鹿息子!!……むしろ、私が謝らなければいけないと思って今日ここに来たのよ。アーティー、息子が貴女のことを深く傷つけてしまって本当にごめんなさい。」
アーティアは頭を下げようとするアルテミスを必死に止め、アルテミスに謝られるようなことは何一つ無いと訴えた。
ひとしきり二人で謝罪の押し問答をしていると、それを見かねたラザニアがパンパンと手を打つ。
「はいはい。アルテミスもアーティーももうその辺でおしまいにしましょう?折角のハーブティーが冷めてしまうわ。」
ラザニアの言葉にアーティアとアルテミスは謝り合うのを辞め、顔を見合わせ微笑んだ。
そしてラザニアに促されるまま席に座ろうとすると、アルテミスの足元に居たルイスがアルテミスのドレスの裾をクイッと引っ張った。
「きゃっ!!すっかり忘れてたわ!!ルイスも連れてきてたんだったわね。」
アルテミスは本当に自分の息子の存在を忘れていたようで足元に居たルイスに心底驚いていた。
そんなアルテミスにラザニアとアーティアは苦笑いするしかない。
「ルイス様、お久しぶりです。少し見ない間にまた大きくなられましたね。」
そうアーティアが話しかけると、ルイスはアーティアを無視してプイっと顔を背けてしまった。
(ルイス様にも嫌われてしまったみたいね……。)
アーティアは実の弟の様に可愛がっていたルイスに無視をされたことに少し寂しさを覚える。
ルイスがアルテミスのお腹の中に居た頃からアーティアはアルテミスにねだってよくお腹を撫でさせてもらっていた。
ルイスが生まれてくるのを今か今かと心待ちにし、ルイスが産まれてからはデイモンの婚約者としてよくステラ伯爵家に出入りしていたアーティアは勉強の合間をみて毎日のようにルイスに会いに行きとても可愛がった。
泣けば抱っこしてあやし、絵本を読み聞かせ、ミルクをあげたり、時にはオムツを変えてあげることもあった。
昔は『アーティアおねえちゃん』とアーティアのことを慕い後ろをよたよたとついてきてくれていたものだが、アーティアも大人になったように可愛い赤ちゃんだったルイスも今や立派な少年と呼ばれる年頃にさしかかっていた。
もう親戚のお姉さんを鬱陶しく思う年頃になったのかと思うと、時の流れは速いなとアーティアはしみじみ思うのだった。
「こら!!そんな無作法なことをして許しませんよ!!だいたいあなたがどーーっしてもアーティアおねえちゃんに会いたいというからつれてきてあげたというの……」
「わー!!わー!!わー!!」
ルイスはアルテミスの言葉を遮るように叫び、トマトのように顔を真っ赤にしてアルテミスの足元をぽかぽかと叩き出した。
そんなルイスの姿を見て、一瞬ぽかんとしてしまったアーティアだったが愛らしいルイスの様子に胸が暖かくなっていくのを感じ自然と笑みが溢れるのを止められなかった。
すっかりいじけてアルテミスの後ろにすっぽりと隠れてしまったルイスだったが、そろりと小さな顔を覗かせデイモンと同じ色をした宝石の様な瞳でアーティアの様子ををちらりと伺う。
その瞳はデイモンの持つものととてもよく似ているのにどこか違う。
赤い瞳でみられる度に軋んでいた胸も、今日はぽかぽかと温かくなっていくのをアーティアは感じるのだった。
いつも作品を読んで頂きありがとうございます。
そして貴重なご意見を下さった皆さま、ありがとうございます。自分では気づけなかった物語のおかしな部分や構成部分、作品の形式などをご指摘くださったことにより、良い方向に作品を進めていくヒントを頂きました。
今回皆さまから頂きましたご指摘を受け、現在大幅な修正を行っている最中です。
まだ修正途中ではありますが、これからも少しずつ修正しより読みやすい作品にしていけるよう努力していきます。
文章力、構成力共に未熟な私なのでこれからも誤字脱字やストーリーなどでちぐはぐな部分が出てきてしまうかもしれません。
その度にちょこちょこと訂正が入ってしまう可能性があります。
読んでくださっている皆さまを混乱させてしまいすみません。
また、お気づきの点などございましたら教えて頂けると嬉しいです。
今回は完結させることを一番の目標に頑張っているで、よろしかったら最後までお付き合いいただけると執筆の原動力になります。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。




