親愛なるあなたへ
あの憂鬱な朝食から三日後、デイモンは宣言通りアーティアではなくロザリアを伴いラザニア様のお茶会へと向かった。
アーティアは念のため、お茶会の二日前にラザニアに手紙を出していた。
今回は自分は参加出来ないこと、夫が新しく迎えた側室のロザリアを伴い参加させて頂くことを丁寧なお詫びと共にしたためて送った。
留守番をしていたアーティアはお茶会がどうだったのか詳しくは知らない。
だが、昼過ぎにずいぶんと早く帰宅したデイモンとロザリアの様子から余り楽しいものではなかったという事は窺い知れた。
そして二人を出迎えるためにエントランスホールで待っていたアーティアに向けられた鋭い視線から、どうやら楽しくなかったお茶会の原因は二人の中ではアーティアにあると決定付けられているということも理解した。
どんなに睨まれた所で、アーティアには身に覚えが無いのだからどうしようもないのだが二人は完全にアーティアのことを敵視し無視して邸の奥へと進んで行くのだった。
お茶会の翌日、ラザニアからまたしてもお茶会の招待状がステラ伯爵家に届いた。
今度は伯爵夫人宛ではなく、しっかりと『親愛なるアーティア・ステラ様』と記されていた。
招待状には極親しい者達だけを招待してのお茶会をするので是非アーティアに参加して欲しいと書かれている。
アーティアはラザニアの事を姉のように慕っていた。
伯爵家に嫁ぎ、右も左もわからない状態のアーティアを導き助けてくれたのは義母であるアルテミスとデイモンの叔母であるラザニアだった。
ラザニアは面倒見のよい性格で、早くに母を無くしたアーティアにおよそ年頃の娘が母親から教えられるであろうことを時に厳しく時にユーモラスに教えてくれたのだった。
まだデイモンの婚約者であった頃、少し特殊な事情をもつステラ伯爵家に嫁に行くというのは中々大変なことであり、覚えることも学ぶことも山ほどあった。
そしてなにより、強い覚悟や大きな決断を迫られることも多くアーティアは心身ともに疲弊していた。
そんなアーティアを支えてくれたのが同じくステラ伯爵家へと嫁いできたラザニアだったのだ。
ラザニアはいつもアーティアを気にかけてくれ、何かあってもなくても直ぐに駆けつけてくれ、率先して世話を焼いてくれるようなそんな心優しい女性だった。
アーティアはそんなラザニアにまた心配をかけてしまったこと、迷惑をかけてしまったことに胸を痛める。
(ラザニア様にあいたい……)
優しく抱き締めてくれたラザニアの温もりを思い出し、アーティアは流れそうになる涙を必死にこらえた。
そして『参加させて頂きます。』とラザニアからの手紙に返事を書くのだった。




