相談4
「いや、ただ感動しただけだな」
「嘘ですわ。だってまだ思い出すだけでこんなに苦しくなるのに?」
今日あった出来事をフェスタ先生にお話すると、あっさり片付けられてしまった。
だけど感動ってあれでしょう?
ずっと立てなかった子に悪口を言ったら怒って立ったとか、醜くて虐められていた子が美しい成鳥になるような話のことよね?
あら? 白鳥って托卵しないわよね。
それとも狡い白鳥だったってことかしら。
「おーい、ファラーラ・ファッジン君? 起きてるか?」
「……え? ああ、はい。どうかしましたか、先生?」
「どうかしたのか訊きたいのは私のほうだ。君は本当によくぼんやりしていることが多いが、白昼夢でも見ているのか?」
「白昼夢……悪夢なら見ましたけど、今はちょっと白鳥の生態について考えていただけです」
「なぜ白鳥なのかわからないが……とにかく、悩みは友達に相談するんだぞ。先生にはもってくるなよ、面倒だからな」
先生の質問にどきりとしながら素直に答えたら、先生は微妙な表情になった。
フェスタ先生はイケメンだし女生徒の間でとても人気だけれど、ちっとも優しくないし、適当だしで教師には向いていないと思うわ。
「先生とは思えない発言なんですけど」
「他の生徒ならともかく、ファッジン君には悩み相談なんて必要ないだろ」
「どうしてですか?」
「悩みの大半は金で解決できるんだ。残りはたいてい人間関係や病気などだからな。人間関係は友達に相談しろ。それが解決に向かう。病気は今のところ健康そうだから心配いらないだろ」
「ぶっぶー。それが私の悩みは友達に関することと、病気についてなんです」
「だからそれは感動しただけだと答えただろう」
「それとは別の症状についてです」
「別の症状? どこか痛みがあったりするのか? めまいは?」
「い、いえ。私はいたって健康ですわ」
「そうか。驚かすなよ……」
そう言って先生は大きく息を吐いたけれど、私だって驚いたわ。
今まで適当だった先生の態度が急に真剣になるんだもの。
「それで、友達に何をしたんだ?」
「どうして私が何かをした前提なんですか? むしろ何もしていないんです。友達って何をすればいいんですか?」
「……青春かよ」
「はい?」
「いや、何でもない。あのな、友達ってのは何もしなくていいんだよ」
「えええ……」
私の質問にフェスタ先生は何かぼそりと呟いたけれど、上手く聞き取れなかったわ。
あとの回答よりも、そちらのほうが真理なんじゃないのかしら。
「まあ、心配しなくても私から見れば、君たちは――ファッジン君とモンタルド君、ストラキオ君にタレンギ君は十分に仲の良い友達だよ。何もしなくていいというのは言い過ぎだが、友達には意識しなくても何かしら手助けしているもんなんだ。困っているときには何か力になりたいと自然に思うものだし、友達が喜んでいると自分も一緒に嬉しくなる。そういうものが友達だよ」
そういうものが友達……。
エルダやミーラ様、レジーナ様は私に何か悩みがあるのではないかと心配してくれて、力になると言ってくれたわ。
そして実際に力になってくれた――というより、力をくれた感じ。
「……わかりました。たまにはフェスタ先生も先生らしいことをおっしゃるのですね」
「ほう。ファッジン君は次の単位が惜しくないらしいな」
「それは職権乱用です。いくら生徒が気に入らないからといって、成績に反映させるのは許されない行為です」
「冗談だよ」
「わかっています。先生の授業はぼうっとしていても私は成績がいいですからね。落とせるわけがありませんわ」
ふふん、と鼻高々に答えれば、フェスタ先生はまた大きなため息を吐いた。
幸せが逃げますよ?
「……昔に比べてずいぶん変わったと思ったが、根本的なところは変わってないな」
「根本的なところってどんなことですか?」
「生意気だってことだ。チェーリオはそれが可愛いんだとか言っていたが、ずいぶん身びいきが過ぎると思っていたよ」
「正直にお答えいただき、ありがとうございます。ですが、先生は〝口は禍の元〟という言葉を学ばれたほうがよいかと思います。ところで本題に入ってよろしいでしょうか?」
「本題は、ファッジン君の授業中の態度についてなんだが、わかっているか?」
授業態度についてはもう終わった話題じゃないの?
私は成績がいいから単位をくれるってことで。
それよりも先生からは〝うんざり〟という言葉が聞こえてきそうなほどに態度にやる気が見えないんですけど。
まあ、きちんと答えてくれれば先生のやる気はどうでもいいのよ。
「チェーリオお兄様のことなんですが、今どちらにいらっしゃるかご存じではないですか?」
「チェーリオ? 何だ、知らないのか。私の家にいるぞ」
はい?
ちょっと意味がわからないんですけど。




