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相談3

 

「実は、お兄様に――三番目の兄のチェーリオお兄様にご相談したいことがあるのだけれど、今どちらにいらっしゃるかわからなくて……」

「まあ、チェーリオ・ファッジン様が!?」

「それは大変ですわ!」



 つい打ち明けてしまったけれど、失敗したわ。

 ミーラ様とレジーナ様の顔色が悪くなったもの。



「そこまで心配はいらないのよ? お兄様は研究の旅にでていらっしゃるから、あちらこちらと転々とされているらしくて、なかなか連絡が取れないだけなの。ちゃんと護衛騎士もいるそうだし、何か危険な目に遭っているわけではないそうだから」

「そうでしたの。それなら少し安心しましたわ」

「ええ、本当に。チェーリオ・ファッジン様といえば、治癒師としてとても素晴らしいお力をお持ちなのだと伺っておりますわ。それなのにまだ研究をなされていらっしゃるなんて、ご立派な方なのですねえ」



 ミーラ様がうっとり呟けば、レジーナ様もうんうんと頷く。

 そうなのよ。

 チェーリオお兄様はもちろん、アルバーノお兄様もベルトロお兄様も素晴らしい方で私の自慢なのよ。

 それにしても不思議だわ。

 現状を打ち明けただけなのに、なぜか心が軽くなっていく気がするわ。



「あ、あの、チェーリオ・ファッジン様なら先日、私の故郷の近くにいらっしゃったそうです」

「え?」



 見えない風船でも胸に入っているのかしらというくらいにいっぱいで、これも病気かもしれないと考えていたら、エルダが遠慮がちに予想外のことを口にしたわ。

 驚いて見たら、ミーラ様とレジーナ様からも注目をされて焦ったのか、エルダはあわあわしていた。

 その可愛い姿のおかげか気持ちも落ち着いてきたみたい。



「……エルダの故郷って、どちらなの?」

「私はノキタ領出身です。ノキタ領の北西に位置するノミヤの町で父は医師をしているのですが、その父からの手紙で『あのファッジン卿にお会いして、お話しすることができた』と嬉しそうに書いてありました」

「そうなのね。ありがとう、エルダ。兄の居場所がわかって嬉しいわ。ノキタにいたのね」



 って、ノキタってどこ?

 自慢じゃないけど、この国の地理には疎いのよ。

 ちなみに国外にも疎いわ。

 だから夢見る国外生活も具体的な国は決めていないの。

 本当に自慢じゃないわね。


 あとでちゃんと地図で確認しておくわ。

 それに国外生活するにも、その国の情勢とかこの国との関係とか知っておかないとダメね。

 これから地理も真面目に勉強しましょう。


 そのことよりも今気になることは、エルダのお父様が医師だということ。

 ひょっとしてエルダも少しは病名について知っていたりするのかしら。

 遠くの兄より、近くの友達よ。



「……ねえ、エルダは病気については詳しいの?」

「え? 詳しいかどうかは……ただ、父は治癒魔法も少し扱えるから、私も父のようになりたいとは思って、手伝いは積極的にしてたくらいかな」

「まあ、それは素晴らしいわね! それではエルダは二年生からは光魔法科に進むの?」



 お父様の病気のことも、お兄様の居場所のこともいったんは置いておきましょう。

 だって、エルダのことについて新しく知ることができたんだもの。

 しかも進路について話すなんて、友達同士の会話だわ!



「……入学前はそのつもりだったんだけど、今は普通科と迷ってるの」

「まあ、そうなの?」

「ひょっとして、私たちと一緒にいたいからとか?」

「ミーラ様ってば、それは自惚れよ。でも私も普通科に進むつもり。ファラーラ様は?」

「私は……まだ悩んでいるわ」



 というより、ほとんど考えていなかったのよね。

 以前の私は面倒がなさそうな普通科にしたけれど、今は土魔法――緑魔法や水魔法も面白そうだわ。

 不労所得のためには何が一番かしらね。



「三人ともしっかり進路について考えていらっしゃるのね? ご立派だわ」



 まだ入学したばかりで、進路調査も秋からなのに。

 確かに普通科が一番女性にとっては無難だから、ミーラ様とレジーナ様の進路はわかるわ。

 だけど治癒魔法を勉強しようとしていたエルダが普通科にしようか迷うなんてね。



「エルダはどうして普通科も考えているの?」

「それは……」



 私の質問にエルダは顔を赤くして口ごもってしまった。

 まさか、これは恋!?

 大切な進路を変更してまで一緒にいたいという男性が現れたの!?

 由々しき事態に私は食い入るようにエルダを見つめて答えを待つ。

 誰? 誰なの!?



「わかったわ! エルダは女官になりたいんでしょう?」

「ああ、なるほどね! やっぱり私たちと一緒ね?」



 恥ずかしそうなエルダの代わりにミーラ様が予測を口にする。

 続いてレジーナ様も納得したのか嬉しそうに頷いているわ。



「女官? ミーラ様もレジーナ様も女官を目指しているの?」

「はい。女官になれば、ファラーラ様のお役に立てることがたくさんありますもの」



 んん? どうして……って、あ!

 私が王太子殿下と婚約しているから? 

 このままだと私は将来の王太子妃、王妃となるかもしれないけれど、今のお二人の身分では内宮に入れないから?

 そんな私のために、貴族であるミーラ様やレジーナ様まで女官になろうとしてくれているの?

 エルダは進路を変更することまで考えて?


 そんな……そんなことって……。

 やっぱり胸がいっぱいで言葉が出てこないわ。

 それにすごく苦しい。

 これはきっと病気なんだわ。




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― 新着の感想 ―
[一言] 善意からの好意には慣れてないからでしょうかねー? 胸いっぱいの気持ちに気付かないのは… いい友達いっぱい出来てるじゃんね!
[一言] もう王妃になるしかないな!
[一言] 嬉しさで、胸がいっぱいなんだね…。 そんな喜びを噛み締めることが出来る様になるなんて…。 ふぁら〜(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`) 最初のきっかけこそ、自分の為だったけれど。…
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