制覇
「ファラーラ様! おはようございます! もうご覧になりましたか!?」
「おはよう、ミーラ様。今朝はいつもより早く登校したのですが、何か変わったものでも?」
「それが、マリーお姉様が制服をお召しになっていたんです!」
「まあ、それは驚きね。二年生の先輩方はほとんどドレスをお召しだったのに」
そうそう。ストラキオ先輩のお名前はマリーだったわね。
時間の問題だとは思っていたけれど、こんなに早いなんて。
驚いたふりをしつつ、窓辺へと近づいて校庭を見下ろせば、ドレス姿の女生徒はほとんどいなかった。
おそらく未だにドレスを着ているのは昨日の騒動を知らない先輩たちね。
かなり戸惑っている様子がここからでもわかるもの。
「まあ! トルヴィーニ先輩も制服だわ!」
「あら、本当ね」
後からやってきたレジーナ様も私たちが何を見ているのかわかったみたいで、馬車から降りてきたばかりの人物に驚きの声を上げた。
だけどレジーナ様、人を指さしてはダメよ。
それにしてもついにサラ・トルヴィーニが屈したわ!
ただし、遅きに失したわね。
今さら感満載よ。
昨日、取り巻き先輩たちが私への糾弾に失敗したこと、それが生徒会に知られてしまいそうになったことでの点数稼ぎね。
そう思いながら見下ろしていたら、サラ・トルヴィーニと目が合ったわ。
あらあら、ダメよ。
そんなに可愛らしい顔を醜く歪めるなんて。
ただ朝日が眩しかったのだと思っていてあげるわ。
とにかく、これでまだドレスを着ている先輩方も近いうちにみんな制服へと変えるでしょう。
生徒会が成しえなかった女生徒全員に制服をという野望を、このファラーラ・ファッジンがたったの二か月でやってみせたわ!
おほほ、ほ……?
そもそも私の目的は制服を広めることでも生徒会を出し抜くことでもなくて。
もちろんこの学園を支配下に置くわけではなくて、社交界で王妃様に対抗できるだけの味方を増やすことだったわ。
だけどもうそれも面倒くさいし、社交界に出る前――在学中の円満な婚約解消を目指しましょう。
そして悠々自適な生活を送るのよ。
とはいえ、円満な婚約解消ってどうやるのかしら。
悪夢の中では殿下にとって一応は円満な婚約解消だったと思っていらっしゃったのよね。
私が納得しなかっただけで。
それならやっぱり別の女性――サラ・トルヴィーニ以外の女性を殿下が好きになってくださればいいんだけれど。
ポレッティ先輩かベネガス先輩に限らず、誰かいい人はいないのかしら。
恋に落ちるのは一瞬だとかって聞いたことがあるけれど、そんな不確かなものに頼るより、しっかり信頼関係を築いて愛を育むのがいいと思うのよね。
それが以前はサラ・トルヴィーニだったわけで……。
あ、思い出したら腹が立ってきたわ。
そもそもどうして私が殿下の恋愛あれそれを考えなければならないのかしら。
そうよ。別に円満でなくてもいいのよ。
私は国外逃亡――国外生活するんだから、いっそのことサラ・トルヴィーニと殿下が結婚してもいいんじゃないかしら。
いえ、やっぱり嫌だわ。
絶対にサラ・トルヴィーニには負けたくないのよね。
ということは、私から殿下を振った形にしないと。
だけど私から言い出した婚約で振るなんて、ファッジン公爵家の立場も危うくなってしまうかもしれないわ。
うーん。
そうだわ!
殿下ともっと仲良くなって友情を築くのよ!
そして、お互い異性ではなく友達としてしか見ることができなくなって、話し合いの結果に円満解消。
よし、これでいきましょう。
それではまず殿下と男友達のようになればいいのね。
ところで男友達って何をするのかしら。
キャッチボール?
殴り合いのケンカからの土手に寝転がる?
どれも無理だわ。
そもそも私には女友達でさえまだ三人しかいないのよ?
エルダはもちろん、ミーラ様とレジーナ様もお友達よね?
だとすれば、男友達なんかよりも女友達と何をするかのほうが今の私には大切だわ。
エルダたちともっと仲良くなるには何をすればいいのかしら。
うーん。
そうだわ!
フェスタ先生に訊きましょう。
迷える子羊な可愛い生徒が友情に悩んでいるんだもの。
教師として導いてくれるはずだわ。




