呼び出し1
「ファラーラ・ファッジン様。あなた最近、私たちがドレスを着ているからって馬鹿にしていらっしゃるんですって? それで、制服を着ればいいのになんておっしゃったそうね!」
「それは誤解ですわ」
「誤魔化そうとしたって無駄ですわよ。私はちゃんとこの耳で聞いたんですからね!」
中心に立つ名前も知らない先輩の言葉を否定すれば、サラ・トルヴィーニのお友達のココ・ナントカ様が詰め寄ってきた。
あのとき近くにいたのには気付かなかったわ。
影が薄いのかしら。
しかもそのお耳は飾りのようですね。
なんてことは言わない。
だって私、ファラーラ・ファッジンは空気が読める子ですから。
「私は先輩たちがドレスを着ているから馬鹿にしたのではなく、着ているドレスが似合っていないので『センスがない』と申したのです。その点、制服ならみんな同じなのでセンスを問われることはないでしょう? ですから『制服をお召しになればよろしいのに』とも申しました」
事実を述べただけなのに、最初に発言したナントカ・ナントカ先輩は怒りに顔を歪ませて手を振り上げた。
この場合、ぷるぷる震えてみせるべきかしら?
だけどプライドがどうしても許さないので驚くふりだけにしておくわ。
こんなことぐらい想定内。
手紙で放課後に二年のクラスに来るように呼び出されて、これ以外に何を予想するというの?
婚約祝いのサプライズパーティーでも?
心配する騎士を残して教室に入れば、ナントカ・ナントカ先輩を中心に二十人くらいの女子がいたわ。
まあ、思いのほかサラ・トルヴィーニ派が残っていたことには驚いたけれど。
誤算だったのは、サラ・トルヴィーニがいないことよ。
これは痛恨のミスね。
ちょっとサラ・トルヴィーニを甘く見ていたわ。
なんて、私がどうしてこんなに呑気なことを考えていられるかの答えは簡単。
ミーラ様の従姉であるナントカ・ストラキオ先輩が止めに入ったから。
賢い選択だわ。
もっと賢いのは私ですけどね!
「――君たち、何をしているんだ!?」
「ひっ! スペトリーノ様!」
「か、会長……」
突如乱入してきたのは生徒会の面々。
もちろん、私が呼び出された時点で生徒会に報告するようにミーラ様とレジーナ様にお願いしたのよ。
困惑した演技でね。
使えるものは使わないと。
それが私、ファラーラ・ファッジンよ!
おほほほほ!
ミーラ様には従姉を売るような形になってしまって申し訳ないけれど、先ほどもナントカ先輩から庇ってくださったので、お情けをかけてあげるから任せて。
だからほら、ドアから心配そうに顔を覗かせてはダメよ。
あなたたちが伝えたってばれてしまうじゃない。
エルダは早く帰りなさい! あなたは特に危ないわ!
今はまだ背の高い生徒会メンバーのおかげで陰に隠れているけれど、このままではいつナントカ先輩たちの視線が向くかわからない。
別に彼女たちがどうなってもかまわないけれど、今回は私のために動いてくれたのだもの。
巻き込むわけにはいかないわ。
「スペトリーノ会長! それに生徒会の皆様……」
ちょっと大げさに呼びかけて、みんなの注目を私へ向けて、それからゆっくり歩いてドアから視線を遠ざける。
ほら、早くお逃げなさいな。
魔王があなたたちを見つける前に。
「私……先輩たちに呼び出されて、怖くて思わず皆様に助けを求めてしまいましたが……私の誤解でした!」
「え?」
「は?」
「何だって?」
「うそぉ!?」
嘘じゃない。いえ、嘘だけど。
ミーラ様、声を出さないで。私の囮作戦が無駄になるわ。
だけどもう手遅れになりそうな予感。
仕方ないわね。
ここは私が泥をかぶって先輩方に恩を売る作戦に変更だわ。




