杖2
「殿下、私たちがこの場にいる必要があるのでしょうか……」
「発案者なんだから、見届けるべきだよ」
「そう、なんですかね……」
私と殿下は講堂にある貴賓席から、杖を選んでいる生徒たちをこっそり見ているんだけど、ちょっと居心地が悪いわ。
確かに私たちがあの場に下りて様子を見ることにすれば、みんなが遠慮してちゃんと杖を選べないでしょうから仕方ないのかもしれない。
それならそもそも見守る必要もないと思うのに、殿下はご納得してくださらない。
結局、私の提案した杖即売会的なものは殿下から生徒会に伝わり、生徒会の余剰金で賄われることになったのよね。
余剰金って、生徒会がそんなものを持っていていいのかは別として、私の資産が減らなかったことは良しとしましょう。
「みんなの嬉しそうな顔を見ると、嬉しくならない?」
「それは……嬉しいですけど」
「ファラーラ嬢のこの案を聞くまで、特待生の杖のことになんて考えも及ばなかったよ。僕は――僕たちは表面上のことばかりに気を取られて、内面のことにまで気がつかなかった。だから今、こうして彼らの喜ぶ顔を見ると嬉しいと同時に恥ずかしくもあるよ」
それは将来国王になられる方として、素晴らしいことだと思いますわ。
でしたら、そろそろサラ・トルヴィーニの内面にも気付いてくださいね。
あの方を将来の王妃とされるのだけは避けていただきたいです。
「――本当に、殿下のおっしゃる通りだよ。ありがとう、ファッジン君。新たなことに気付かせてくれて」
「スペトリーノ会長?」
「特待生は教材費や寮費、全て学園が支援しているから生活面では何も問題ないと思っていた。だがまさか一部教材を自費で賄わなければならないとは気付いていなかったよ。こうして見ると、一年だけでなく、二、三年も杖を選んでいる。それだけ馴染んでいない杖を使っていたということだろうな」
そう言って会長は杖を選んでいる生徒たちを見下ろしたけれど、王者の風格がすごいわ。
殿下、負けてますよ。
風格は別として両手に花ならぬ両脇に美少年二人を侍らしている私ってすごくないかしら?
さすがファラーラ・ファッジンよ。
とくと見るがいいわ!
おほほほほ!
って、誰も見ていないけれど。
みんな杖を選ぶのに必死ね。
そう思っていたら、エルダが私に気付いて手を振ってくれた。
さすが、私の友達。
嬉しいから振り返しましょうって、ちょっと手を振ったら、エルダにつられてみんながこちらを見た。
途端にわっと歓声が上がる。
べ、別にあなたたちに手を振っていたわけじゃないのよ!
あなたたちは殿下と会長がいらっしゃるから喜んでいるってわかっているわ。
勘違いなんてしていないから!
「さすがすごい人気だね、ファラーラ嬢は」
「へ?」
「それは当然でしょう。彼らはファッジン君のおかげでぴったりの杖を手に入れられるのですから」
「い、いえ。これは生徒会からの出資で、主催も生徒会の皆様方が――」
「今はね。だけど発案者はファッジン君で、当初は出資もしてくれる予定だったことはみんなが知っているよ」
「ほぁい!?」
驚きすぎて噛んだわ。
だけど本当に〝Why〟よ。どういうこと?
「ほらほら、ファラーラ嬢。みんなまだこちらを見ているよ。おさまりがつきそうにないから、もう一度手を振ったら出ようか?」
にこにこしながら殿下が答えてくださったけれど、それでわかったわ。
犯人は殿下ね。
私はただエルダのためにしたかっただけ。
でもそれだとエルダは遠慮してしまうでしょうから、みんなをダシに使っただけなのに。
みんな騙されてはダメよ。
私はそんな善人ではありませんからね。
あら? ちょっと待って。
これは〝ファラーラ・ファッジンいい人作戦〟大成功と言えるのではないかしら?
だとしたら、ここは堂々と手を振るわ。
このファラーラ・ファッジンに感謝して、ひれ伏し崇め奉りなさい。
おほほほほ!
それではそろそろ作戦終了。
これがフィナーレよ。
にっこり微笑んで手を振りながら、殿下とともに貴賓席から去っていく。
これからはファラーラ・ファッジンに〝いい人〟を求めないでね。
それでは皆様、ごきげんよう。




