派閥3
「あ、あの……ファッジン様!」
「何かしら?」
「私、隣のクラスのフミ・ビーテです。突然申し訳ございません! で、ですが、あのお礼を言いたくて……ありがとうございました! それからこれ、よ、よかったら受け取ってください!」
「……ありがとう、ビーテさん」
「こ、これからも応援してます! 頑張ってください!」
いえ、何も頑張る気はないわ。
頑張らないのがファラーラ・ファッジンよ。
なんてことはよくわからない子に言うつもりもないけれど。
隣のクラスのフミ・ビーテ……聞いたこともないわね。
しかもよくわからないものをつい受け取ってしまったわ。
とりあえず私の横に出てきて警戒していた騎士に預けておきましょう。
強面の騎士にめげず、私に話しかけてきた彼女の勇気は賞賛するわ。
「フミってば、昨日の夜中に寮のキッチンを使って何を作っているのかと思えば、ファラに贈る焼き菓子を作っていたんだね」
「え? 焼き菓子?」
「うん。すごくいい匂いをさせてて、寮の子たちが食べたいって騒いでた。だけど絶対ダメだって。あ、でも失敗したやつは少しだけみんなで食べたよ」
ちょっと何を言っているかわからないです。
エルダがにこにこしながら説明してくれるんだけど、理解できないわ。
そんな気はしたけれど、やっぱりあれは焼き菓子だったのね。
「さっきの子は菓子職人なの? 学園の制服を着ていたけれど」
「違うよ。私と一緒の特待生だよ。でも確かお家は食堂を営んでいるんだったかな? とにかく、フミはファラにお礼をしたかったんだよ」
「お礼?」
あの子の顔を初めて見る気がするんだけれど、隣のクラスなら当然よね。興味ないもの。
それにしても何かお礼をされるようなことをしたかしら?
罠に引っかかっていたところを助けた覚えもないけれど。
「ポレッティ先輩たちに制服を勧めてくれたことだよ。それが今すごく噂になってて、昨日、寮では大騒ぎだったんだから。私は誇らしかったなあ」
「……どうして騒ぎになるの?」
「それはもちろん殿下やリベリオ様が私たちのことを考えてくれているってわかったことと、ファラが賛同してくれているからじゃない。前からそうじゃないかとは思っていたけれど、はっきり言ってくれたのはこれが初めてだから」
「……そうだったかしら?」
ポレッティ先輩と仲良くなる作戦の一環でしかなかったんだけど、まあいいわ。
あのお礼とやらが焼き菓子なら、帰ったらシアラにあげましょう。
きっと喜ぶわ。
エルダも少し食べたなら、毒も入っていないでしょう。
私はやっぱり専門職人が作ったものじゃないとダメなのよね。
入学初日にエルダからもらったキャデは特例。
あれのおかげでエルダともお友達になれたんだもの。
もう二度と食べたいとは思わないけれど。
「ファラーラ様、おはようございます!」
「おはよう、ミーラ様。そんなに急いでどうされたの?」
「早くファラーラ様にお知らせしたくて! 先ほど登校されたポレッティ先輩とベネガス先輩が制服をお召しだったんです」
教室で騎士が離れ、机に鞄を置いたところでミーラ様が駆け込んできた。
何かと思えば、素敵な知らせだわ。
そこにレジーナ様が駆け込んできて悔しそうに嘆く。
「あー、私がお伝えしたかったのに……」
「……レジーナ様、おはよう」
「おはようございます、ファラーラ様。あの、制服なのはポレッティ先輩とベネガス先輩だけじゃないんです。三年生の女子は全員と言ってもいいくらいなんです!」
「そうなの? それは私の……いえ、殿下たちのお心が伝わったようで嬉しいわ。これでもっと生徒たちが交流できればいいわね」
思わず本音が漏れそうになったわ。危ない、危ない。
これでポレッティ派は少なくともファッジン派と同盟を結んだと思われるでしょう。
あら? まだファッジン派はなかったわね。
まあ、ポレッティ派以外の制服を着た貴族令嬢はファッジン派と言ってもいいのではないかしら?
ポレッティ先輩たちとの親交はこれからもっと深めるとして。
実際のところは別としても、きっとみんな勘違いするわ。
これでファラーラ・ファッジン派は過半数を超えたわね。
サラ・トルヴィーニも制服を着てもよろしくてよ?
おほほほほ!




