候補者3
あー、これ。何かのドラマで見たわ。
教授の総回診の場面ね。
大名行列のような。
って、それは蝶子が観ていたドラマだったわ。
そして私が見ているのはこの学園の女子最大派閥。
ミリアム・ポレッティ先輩の総回診だわ。
要するに移動教室らしいけれど、初日の出会いのときに珍しく二人だけだったのは命拾いしたわね。
ミリアム・ポレッティがね!
もっと大人数に囲まれていたら私、きっと我慢できなかったと思うから。
ふふふ。
顔が広くて情報通のミーラ様情報によると、三年生のポレッティ先輩の派閥には、この学園の三割の女子が属しているらしいわ。
私が入学するまでは五割を誇っていたサラ・トルヴィーニ派も今は内部崩壊寸前とか。
おほほほほ!
当然の結果ね。
もちろん私がその気になれば五割なんて簡単に超えてみせるけれど。
後々の遺恨を生まないためにも、ここは穏便に、ミリアム・ポレッティ派を取り込むのよ。
なぜサラ・トルヴィーニ派だった者たちを取り込まないかは簡単。
敗走兵に用はないからよ!
というより、手のひらくるくるは信用ならないわ。
いつまた裏切られるかわからないものね。
ジェネジオ情報ではポレッティ侯爵は中立派。
サルトリオ公爵派からお父様を守るためにも、娘を懐柔しておきましょうっと。
そのためにも、あのとき下手にやり返さなくてよかったわ。
ただ問題は殿下なのよね。
殿下にはうまくサラ・トルヴィーニ以外の女性と恋に落ちてもらいたいわ。
よく言えば殿下は純粋で真面目な方なんだけど、今ひとつ摑めないのよ。
リベリオ様は性悪。
私のお兄様たちはとっても優秀(悪夢の中では私が足を引っ張りすぎたけど)。
殿下のことはしばらく観察していて、男子からの人望も厚いことはわかったわ。
今のところ私の生活設計は問題なし。
あとは円満に婚約解消するだけ。
それをどうやるのかは……。
さて、面倒なことはまたにして、これから三日間のお休みで何をしましょうか。
お友達を我が家に呼ぶのもいいかもしれないわね。
なんて考えていたら、訪問伺いの使者がきたわ。
もしかして以心伝心? いったい誰かしら?
わくわくしながら誰なのかの知らせを聞いたのに。
「――このお茶、すごく香りがよくて美味しいね」
「それは当然ですわ。その茶葉はテノン商会を通して海を渡った異国より取り寄せたとても貴重な……ものですので、殿下にお褒めいただき光栄です。ありがとうございます」
褒められてつい調子に乗って以前の傲慢な私が出てきてしまったわ。
気付いてよかった。
もう少しで王族の方々も簡単には手に入れられないでしょう、って自慢するところだったわ。
そもそもどうして殿下がここに――我が家にいるの?
以前は一度も訪ねてきてくれたことなんてなかったのに。
しかも今日はお一人で、婚約者のご機嫌伺いって何なの?
ご機嫌はすこぶるよかったわよ、殿下がいらっしゃるまではね。
「テノン商会といえば、ジェネジオ・テノンと何か楽しそうなことをしているんだって?」
「へい!?」
「以前よりも頻繁に呼びつけているらしいね。しかも採寸係などを部屋に入れることもなく、二人きりでこそこそと何かをしているとか?」
「ふ、二人きりではございません! シアラが――侍女が常に傍におりますもの!」
「ファラーラ嬢に忠実な侍女らしいね?」
はあああ!?
焦って変な返事をしてしまったけれど、そもそもなぜ知っているの?
要するに裏切り者が――スパイがこの屋敷にいるってことよね?
嫌だ、怖い。
しかも今の言い方って、私とジェネジオの間に何かがあるような言い方に聞こえない?
ジェネジオは二十歳なのよ?
十二歳の私と何歳離れていると思っているの?
嫌だ、気持ち悪い。
この世界は確かに年の差婚なんて当たり前で、親より年上の相手と結婚することもあるけれど、でも無理。
殿下の発想が無理。
ほら、シアラもどうしたらいいか困っているじゃない。
いっそのことシアラに潔白を証明してもらう?
いえ、それよりもまずは冷静になりましょう。
スーハースーハーヒッヒッフー! よし!




