エルダ3
「ファラって、やっぱりしっかりしているんだね~」
「え? そうかしら?」
「うん、そうだよ。フェスタ先生のこと『まだ若い』とか、『頼りがいがある』とか」
「そ、それは家庭教師の先生がご高齢だったから……」
「家庭教師の先生もいるの? やっぱりすごいなあ」
そうだよね。将来の王妃様だもの。
きっと私の知らない苦労や努力をいっぱいしているんだろうなあ。
そんなファラを選んだ王太子殿下のことも国民として誇らしくなってくるね。
そう考えていたら、王太子殿下がこっちをご覧になっていた。
殿下のお顔は先輩がすごく遠くから見て騒いでいたから覚えているんだよね。
遠目でもわかるくらいの麗しいお顔だなあ。
そうか! ファラのことを気にしていらっしゃるんだわ!
ファラもじっと見ているし、想い合っているのね。
「ファラ、今の王太子殿下よね? 見つめ合うなんて、こっちが恥ずかしくなっちゃう」
「あ、ああ……!」
「殿下はもう食事を終えられたみたいね。ご挨拶はしないの?」
「……必要ないわ。あ、ほら、順番よ。何を食べようかしら……」
照れているのかな?
いつも学園の外ではお会いしているから大丈夫とか?
お二人はどんな会話をされるのかな。
私とは別世界なんだろうなあ。
なんてぼんやりしているうちに、ファラは窓際の席を選んでしまった。
ファラはいいけど、私は――制服組の私は許されないって先輩から聞いているんだけどどうしたら……。
「ちょっと! あなた、何様のつもり!?」
しまった!
ファラも制服を着ているから、間違えられてしまったんだわ。
どうしよう……。
そういえば、どうしてファラは制服を着ているのかな?
なんて、今はどうでもよくてどうしよう。
「どうかされましたか?」
「どうかしたじゃないわよ。そこは制服組が座っていい場所ではないのよ!」
「制服組?」
ファラは『制服組』って言葉を知らないんだ。
当然だよね。
「あなたたちのような制服しか着ることができない庶民のことよ!」
「ああ、それでは先輩方はドレス組ですね?」
「何ですって!?」
「ファラ、それはまずいって」
あああああ!
知ってたの!? 知ってて『ドレス組』って言っちゃったの!?
それにお貴族様方、ファラは――この方は私のような一般人とは違うんです!
王太子殿下の婚約者様なんですよ!
あわあわおろおろしていたら、ファラのお友達――先ほどのお貴族様たちがいらっしゃった。
ミーラ様とレジーナ様とおっしゃるお二人のおかげで、皆様は引いてくださった。
何よりもファラのあの神々しい笑顔には言葉を失うもんね。
ファラほどになるとその存在だけで他のお貴族様を圧倒してしまうみたい。
それから放課後、寮に帰ってからが大変だった。
今日の出来事は寮生のみんなに伝わっていて、心配と興奮した先輩方に質問攻めにされてしまったんだよね。
「ファラは――ファラーラ様は私を『制服組』と差別することなく、普通に接してくださったんです。最初は制服をお召しになっていたから私がお貴族様だって、それも王太子殿下の婚約者様だって気付かなくて気安く話しかけてしまったのに、怒ることもなくにっこり微笑んでくださって……。キャデのこともご存じなかったのに、食べてくださったんです」
「あんな庶民のお菓子を!? ファラーラ・ファッジン様が!?」
「はい」
私の説明に先輩たちが驚きの声を上げる。
それから口々にみんな賞賛の言葉を口にしているけれど、当然だよね。
だって、ファラは天使なんだもの。
「なんて素敵な方なの……」
「やっぱり王太子殿下の婚約者様に選ばれるほどの方はお心も違うのねえ」
「誰よ、我儘で傲慢だって言ってたの」
「あれじゃない? ファッジン公爵令嬢のことを妬んだお貴族様じゃない?」
「ああ、絶対それだわ」
「でもさ、ファッジン公爵令嬢が制服をお召しになったことで、これからはあんまり『制服組』って馬鹿にされなくなるんじゃない?」
「……確かに」
先輩の中の誰かの発言にみんな一瞬黙って、大きく頷いた。
この学園で今現在一番身分の高い女性であるファラが制服を着ているんだもの。
そうなる可能性大だよね。
みんながこれからの学園生活に期待した翌朝。
驚くことに、上流階級の人たちの中でも制服を着ている人たちがちらほらいたんだからびっくり。
しかもミーラ様とレジーナ様まで!
ファラの真似だっておっしゃるお二人に、ファラは優しく微笑んで諭すように言っていた。
「ミーラ様、レジーナ様、この制服が着用できるのはたったの三年間よ。ドレスは卒業してからいくらでも着ることができるのだから、きっとみんなもそのことに気付いたのよ。この三年間、学生であることを楽しもうって」
「さすがファラーラ様だわ。なんて素敵なお考えかしら」
「そうよね。学生時代なんてたった三年だもの。一般の子たちだけでなく、私たちも制服を楽しめばいいんだわ」
本当になんて素敵で崇高な考えなんだろう。
隣の席にこんなに素晴らしい方がいるなんて信じられないくらい。
「……ありがとう、ファラ」
「何のこと?」
「ファラが制服を着てきてくれて、それが広まって今日は貴族の方たちの多くも制服を着ているわ。それにさっきの言葉。きっともっと制服を着る方が増えると思うの」
「そう、なのかしらね……」
「もう、ファラってば。自分がどれだけ影響力があるかわかっているの? ファラのおかげで昨日のようにもう『制服組』って馬鹿にされなくなるわ。ありがとう」
「……どういたしまして」
少し恥ずかしそうに笑うファラもまた可愛くて。
美しくて優しくて、時々可愛らしくて。
私たちの将来の王妃様って最高じゃない?
ついていくだけじゃない、私は絶対にファラを守って支えられる人間になるわ!




