エルダ1
初めは、とても綺麗な人だと思った。
背筋をぴんと伸ばして座る彼女からは特別なオーラが見えるような気がするくらいだったから。
だけど彼女も『制服組』。
それなら友達になれるかな? なんて思ってドキドキしながら声をかけようとして、『ドレス組』の人たちが近づいてきたので慌てて前を向いた。
大丈夫かな?
あまりに綺麗すぎてドレス組の人に目をつけられたのかもしれない。
庇ってあげられなくてごめんなさい!
自分の弱さに辟易していると、先生が教室に入ってきてほっとした。
これで彼女も解放されるよね。
地方から出てきて緊張しながら寮に入ったら、多くの先輩方から学園でのつらい立場を教えられた。
入寮しているのは国から支援を受けている特待生の一般生徒ばかり。
魔法学園ではほとんどが上流階級出身者ばかりで、一般の私たちはとても肩身が狭いっていうこと。
彼女たちは気位が高く、目を合わせてはダメ、廊下も端っこを歩く、とにかく彼女たちが何でも優先。
見分けるのは簡単。
私たちは『制服組』で、彼女たちは『ドレス組』だからすぐにわかるって。
決して『ドレス組』なんて口にしてはいけないけれど、上流階級の女生徒は必ずドレスを着ているらしい。
その中でも爵位を有しているお家の出身者は別格。
たいていはドレスを着た取り巻きがいるからわかるらしいけれど、間違って何か粗相をしたりしたら大変。
あの方たちに目をつけられたら退学させられたりするから絶対に関わってはいけないらしい。
あとで庇えなかったことを謝ろう。
それから仲良くなれたらいいな。
そう思っていた私は彼女の名前を知るのを楽しみに待っていた。
だから次には、とても可愛らしい人だと思った。
自己紹介で緊張して噛んでいたんだもの。
名前は『ファラ』。
家名は聞き取れなかったけれど、いきなりファラって呼んでもいいよね?
ファラのお陰で私は緊張がほぐれてちゃんと自己紹介できたよ。
さっそく始まった授業でも、ファラのことをついつい見てしまう。
難しい顔をしていたり、ぼうっとしていたり、あくびを手で隠していたり。
あれほど楽しみにしていた授業も放ったらかしてしまってる自分に反省。
私たち一般生徒はどれだけ肩身が狭くても、つらい思いをしても、家族だけでなく隣近所や領主様の期待まで背負っているから頑張らなくてはいけないのに。
よし、真面目に授業を受けよう!
そう決めて前を向いた瞬間、キュルルって音が聞こえてきた。
これはひょっとして……と思ってみたら、ファラが真っ赤になってた。
今のはやっぱりファラのお腹の音なんだ。
お腹の音まで可愛いって何それ。
先輩方からお昼前の授業中はお腹が絶対すくからって聞いて持ってきていたお菓子。
キャデをファラにそっと差し入れたら、驚いていた。
こっそり食べるんだよって、つもりで先に食べて見せたら、ファラはちょっとびっくりして、それから恐る恐るキャデを口に入れた。
なんだか餌付けしている気分。
にっこり笑うと、眩いばかりの美しい笑顔が返ってきた。
すごい。
あんなに綺麗な子なのに、驕っていなくて、素直な子なんだ。
普通、魔法の才能があれば地方ではかなりちやほやされて驕っちゃうんだけどな。
それで学園に入って、みんな鼻を折られるって言ってた。
地方ではめったにお目にかかれないお貴族様に踏みつけられるからって。
私も本当はちょっと調子に乗ってたもん。
先輩から学園の実情を聞くまでは。
ひょっとしてファラは元々王都の出身なのかも。
それで垢抜けているし、お貴族様を常に見ているから驕ることもなかったのかもね。
王都に出てきたときは、すごいお屋敷を見てびっくりしたもんね。
あれでもまだ下級貴族様のお屋敷だって、先輩が言ってたけど。
上級貴族様のお屋敷は王宮の側の広大な敷地の中にあるからお屋敷自体見えないって。
王宮は少し高い場所にあったから遠目に見えたけど、本当にすごかったなあ。
あのお城に住んでいらっしゃる王太子殿下がこの学園にいらっしゃるなんて信じられないくらい。
先輩方も畏れ多くてお側に近寄れないって言ってた。
しかもそんな殿下の婚約者様である公爵令嬢が、私の同級生なんて本当に夢物語みたい。
噂ではすっごい我が儘で傲慢らしくて、かかわらないほうがいいって聞いたから気をつけようっと。
そんなことも含めて、早くファラと話してみたいなあ。




