肝試し4
「いいのか? 婚約者を別の女性と一緒にして」
「ただのお遊びにそう目くじらを立てることもありませんでしょう? 護衛騎士たちもいるのですから安心ですわ」
ええ。リベリオ様のお遊びだものね。
今回は見逃してさしあげるけれど、次はないわよ。
「先生こそよろしいのですか?」
「うん?」
「お目付役ならご一緒されたほうがよかったのでは?」
「面倒くさいからいいよ。一番若手の私が学園長から命じられただけだしな。何かあれば自己責任だろ」
「ずいぶん適当ですね」
「適当でいいんだよ。私たちのときも七不思議話で盛り上がったことはあるが、今は内容も変わっている。そんなものだよ」
「そうですか」
内容が変わっているってことは、やっぱり作り話なのね。
おかしいと思ったのよ。
そもそも肖像画がお弁当なんて食べられるわけがないもの。
そんなことができたら、屏風の中の虎だって捕まえられるわ。
でも実際、虎ってどうやって捕まえるの?
室町時代には麻酔銃もないのに?
縄一本で捕まえようとするなんて、馬鹿なのかしら。
まあ、無謀なことには間違いないわね。
私はそんな馬鹿なことはしないわ。
じっくり計画を練って、勝てる戦いしかしないのよ。
そして私が殿下の愛を勝ち取る――なんてことは無謀だとわかっているから、サラ・トルヴィーニと殿下の仲を裂くための作戦だってじっくり考えるわ。
一番手っ取り早いのは、やっぱり私が完璧令嬢になって、周囲の圧力に殿下が屈して結婚すること。
だけど、それは私がいや。
私はノブレスナントカなんて放棄して、新しい化粧品からの不労所得で悠々自適の生活をするの。
そのためには、ジェネジオに頑張ってもらわないとね。
まずはシアラという人参をぶら下げておけばいいでしょう。
だからサラ・トルヴィーニの邪魔をするのは私ではなく第三者。
将来の王妃として周囲から反対されず、殿下の心を摑む人でないとね。
ええっと……。
ダメだわ。今まで他人に興味がなかったから、適齢の貴族令嬢が思い浮かばない。
これは宿題ね。
「ファラ、本当に大丈夫?」
「え?」
「モンタルド君は君がずっと校舎を怖い顔で睨んでいるから心配しているんだよ」
「に、睨んでいるだなんて、そんな……。考え事をしていただけですわ」
いやだわ。エルダに心配をかけてしまったのね。
それにしてもフェスタ先生、「怖い顔」は余計ではないかしら。
気にしているのに。
以前から感じているけれど、フェスタ先生は私のことを軽くみていない?
私はファラーラ・ファッジンよ?
ちょっと学園長に抗議するべき……って、ダメダメ。
悪霊退散! 傲慢なファラーラとはお別れなのよ。
ひょっとして、フェスタ先生は私にとってウェルギリウスなのかもしれないわ。
だって私は迷える子羊だもの。メエメエ。
「どうかしたか?」
「いえ、きっと先生は愚かな私を導いてくださる方なのかと思いまして」
「……本当に、君は変わったな」
「どういうことでしょうか?」
「君は覚えていないようだが、私たちは以前一度会ったことがあるんだ」
「まあ! そうでしたか。それは大変失礼いたしました」
あらあら、これは運命の出会いかしら。
なんて思うほどおめでたくはないのよ。
「どちらでお会いしたのでしょうか? もしかして昔、我が家で働いていらしたとか?」
「いや、君の兄君と同級生でね。一度ファッジン邸にお邪魔したことがあるんだ」
「まあ、そうでしたの。その頃でしたら私はまだ幼く、物事をよく理解していなかったのですわ」
「……だろうね。おかげで私はよく理解することができたよ」
にっこり笑う先生が怖いわ。
なるほどね。
初日に私とエルダさんの仲を心配していたのもこれで納得。
先生のことはまったく覚えていないけれど、お兄様が学生の頃の私なら間違いなく一般出身の先生のことを蔑んだでしょうからね。
ええ、まだ小さいのにそれはもう酷かったと思うわ。
だって私、物心ついたころから傲慢だったもの。
それがファラーラ・ファッジンよ。
おほほほほ!
……これからは気をつけます。
殿下のためではないけれど、心は入れ替えようと努力中です。
ですからフェスタ先生、どうか私をお導きください。




