肝試し2
「ああ、ごめんね。サラも招待したことを言ってなかったね」
「え、リベリオったら、ひどーい」
ひどいのはお前の演技だよ。
って、嫌だわ。
最近、心の内の言葉遣いが悪くなっているわ。
リベリオ様は唖然とする私たちに気付いて謝罪してくれたけれど、わかっているわよ。
これは確信的犯行ね。
私とサラ・トルヴィーニを競わせてどうするつもりなの?
はい、決定。
私の中でリベリオ・プローディは敵認定されました。
今から警戒態勢に入ります。
場合によっては攻撃もやむなし。
それとサラ・トルヴィーニ。
あなたのことはよく知っているわ。
ええ。〝笑うしか能のない〟サラ・トルヴィーニね。
ああ、よかった。
これで迷うことなくサラを嫌うことができる。
間違いなく咲良と同類よ。
私の勘に狂いはなかったんだわ。
とにかく、この固まっている私のお友達のためにも、私は戦わなければ。
誰かのために何かをしたことなんてないけれど、やってみせるわ。
頑張れ、ファラーラ・ファッジン。
「――殿下、よろしければそちらの女性を紹介してくださいませんか? 以前、お名前を伺った気はするのですが、失礼ながら覚えていなくて……」
「ああ、彼女はサラ・トルヴィーニ。トルヴィーニ伯爵の令嬢で、彼女の母親と僕の母親が遠縁に当たるんだ。それで幼い頃から一緒にいることも多かったから、妹のようなものだよ」
「ええ? エヴェラルド様ってばひどいですわ。同じ年なのに妹だなんて」
「サラは頼りないところがあるからな。同じ年だってことを忘れてしまうよ」
「もう、本当にひどいです~」
え? 戦う前から負けてた感じ?
何なのこの茶番。
石田三成もびっくりの思わぬところから裏切り者が出たわ。
あなたの名前なんて覚えていませんよ、っていう意地悪なアピールもまったくきいていない。
むしろ殿下にまで攻撃されるなんて。
いいえ。これはやはり成るべくしてなったのよ。
「今回だって、無理に一緒に行きたいって言ったんだろ? 伯爵夫人が心配するのも当然だろうに」
「ええ……だって、リベリオから聞いてすっごく楽しそうだったからぁ」
ひょっとしなくても、私は殿下と無理やり婚約したことによって、この二人の仲を引き裂いていたってこと?
蝶子は咲良に彼を奪われていたけれど、私はサラ・トルヴィーニから殿下を奪ってしまったの?
それって、完全に私が悪役だわ。
だけど私はまだ諦めない。
このまま敗走するなんて、蝶子に冥土で合わせる顔がないわ。
「こらこら、そこだけで盛り上がらない。こちらのお嬢様方も紹介させてくれないか、サラ?」
「え? あ、ああ。そうね! ファラーラ様、お願いできるかしら?」
「――ええ、もちろん」
一瞬サラ・トルヴィーニの声のトーンが落ちたのを私は聞き逃さなかったわよ。
そしてそれはリベリオ様も同じらしいわ。
はっは~ん。
リベリオ様は私たち女の戦いを楽しみたいってわけね。
いいわ。そっちがその気なら、やーめた。
どうして私が好きでもない相手を嫌いな相手と取り合いしなければならないわけ?
それもリベリオ様を楽しませるために。
一気にこの戦いもつまらなくなってしまったわ。
というわけで今回はこれで引くけれど、このまま負けているとは思わないでね。
夏までに体制を整え直して、夏の陣を立派に乗り越えてみせるわ!
あら? それって本丸が燃え落ちてしまうわね。
いいえ。これがやり直しならこの戦も勝てるはず。
サラ・トルヴィーニ、あなたにだけは絶対に殿下を譲ったりしないんだから。
今のうちにせいぜい殿下の恋人気分を楽しんでいなさい。




