化粧品3
植物図鑑を見ても何もわからなかったけれど、考えてみれば薬草図鑑を見ればよかったのよね。
同じようで微妙に違ったわ。
そしてわかったことは、素人にはわからないってこと。
はい、おしまい。
蝶子のときに化粧品はとっても高級なものを当然のように使っていたけれど、当然のように成分なんて気にしなかったもの。
特に敏感肌ってわけでもないから、アレルギー反応もなかったのよね。
スクワランの話もたまたま何かで知って、ボタニカルだのオーガニックだのに一時期はまっていたことを思い出しただけ。
でも結局、ボタニカルって植物由来ってだけで100%植物性ってわけじゃないとか、オーガニックは有機栽培がどうとかって、だんだんどうでもよくなって飽きたのよ。
まあ、いいわ。
専門的なことは今日の放課後、屋敷に呼んだ商会の者から訊けばいいんだもの。
開発者がいるなら、その人を囲って――いえ、資金援助して新たに研究開発させてロイヤリティをいただくのよ。
ふふふ。
国外逃亡――じゃなかった、国外生活のためにもお金はあったほうがいいものね。
もちろん、もうすでに私にはお祖母様の遺産とか十分な財産はあるけれど、今より生活レベルは落としたくないもの。
ここで蝶子の商社勤めが役に立つなんてね。
というのは嘘。
蝶子は役員秘書だったからよくわかってないのよね。
しかも仕事の記憶があまりないわ。
専務に同行したとある会議で彼に初めて会ったときのことはしっかり覚えているのに。
使えない。本当に使えない。
とにかく、まずは自分のための化粧品開発(をさせる)。
それからブランド展開していくっていうのはどうかしら。
そのためにはファッジン公爵家の名前を使ってもいいし(お父様に許可はいただかないと)、ブランド名は〝ファラーラ〟……は知らない人に私の名前を呼ばれるのが嫌ね。
そうだわ。〝蝶子〟はどうかしら?
いえ、でも語感が悪いわ。
もし蝶子だったら何て名付けるかしら?
うーん……。そうだわ!
アゲハ蝶から名前を取って〝ル・マカオン〟にしましょう!
ここでは何のことかわからないでしょうけれど、それがまた神秘的でいいのよ。
「――ファラ……ファラ? ファラ!」
「え? ああ、何かしら?」
エルダの呼ぶ声で我に返って隣を見る。
するとエルダはすごく困った顔をしていて、どうしたのかと問いかけた。
ミーラ様とレジーナ様は心配そうに見ているわ。
「『何かしら?』じゃないぞ、ファラーラ・ファッジン。私は先ほどから君を呼んでいるんだけどね」
「あ……」
しまった。
今は授業中だったわ。
フェスタ先生は笑顔だったけれど、それがまた怖い。
「……ファラーラ・ファッジン。授業が終わったら職員室に来なさい」
「ええ……」
「『ええ……』じゃない。それは私のセリフだよ。授業中にぼうっとされているんだからな」
だって、今日は商会の者が屋敷で待っているのよ?
できるだけ早く帰りたかったのに。
もちろん待たせても大丈夫でしょうけれど、私が早くこのアイデアを話したいのよ。
だけど自業自得だから、お説教くらいは受けましょうか。
面倒くさいけれどね。




