成長3
あ、そうだわ。
色々とシナリオが使えず予定が狂ってしまったから、うっかり忘れるところだったわね。
殿下への誕生日プレゼントを持ってきたのよ。
「殿下、少し早いですが、お誕生日のプレゼントです」
「誕生日?」
「はい。殿下のお誕生日は来月だとは(最近になって)存じておりますが、当日にはお渡しできそうにないので……」
意気揚々とプレゼントを差し出したら、殿下が怪訝なお顔をされたので意気消沈。
ひょっとして盛大に間違えた?
それならどうして誰も教えてくれなかったの?
あ、サプライズを計画していたから、誰も知らなかったんだわ。
「ファラーラからプレゼントをもらえるなんて思ってもいなかったから驚いたけれど、嬉しいよ。ありがとう、ファラーラ」
「どういたしまして、です」
今、さらっと酷いことおっしゃっていません?
ただ自業自得すぎて何も言えない。
貰うのは大好きだけれど、贈るのは嫌い……というより、そんな考えすらなかったもの。
殿下のお誕生日すら覚えていなかったなんて、悪夢の中での私はいったい何をしていたのかしら。……何もしていなかったのでしょうね。
「開けてもいいかな?」
「はい。もちろんです。本当はサプライズのパーティーも計画していたのですが……とにかくプレゼントが間に合ってよかったです。特注品なので早めに(優先して作るようにと)注文していたのが功を奏しました」
「パーティーを? そうか……。本当にありがとう、ファラーラ」
パーティーまで計画していたことに殿下はかなり驚いたみたい。
包装を開く手が止まったわ。
ということで、サプライズは成功ね。
さあ、殿下。
早く開けてくださいな。
やっぱり誰かに何かを贈るって、わくわくするわ。
喜んでくださるか、驚かれるかなんて色々考えてしまう。
それなのに以前の私はお礼も言わず、気に入らないものは文句を言っていただけだったのよ。
「――これは……扇子?」
「はい。男性用に少し渋めの色にいたしました。要はもちろん金で扇面はシルクです。それに骨の部分はヒタニレの木でできているんですよ! ですから、この扇子で魔法補助ができるんです!」
扇子をひらりと出して魔法発動とか、すごくかっこいいと思うのよね。
もちろん杖と形状が違うから練習は必要だけれど、扇子を煽いで突風を起こせたりするなんて素敵すぎるでしょ。
決して私まで中二病に罹ってしまったわけではないの。
私の目標は魔法ステッキだから。
「扇子で魔法補助を……それはまた画期的だね……」
「そう思われます? あ、ここには本当は殿下の御印をお入れしたかったのですが、許可をいただかずに勝手に使用させていただくわけにはいきませんから。やっぱり殿下には驚いてほしかったので。あ、こちらの印はご存じかもしれませんが、テノン商会のものなんです。もしどなたかにこの扇子のことについて質問されましたら、ぜひテノン商会の名前を出してくださいませ」
そうすればテノン商会に注文が入って、また私にマージンが入る仕組みなのよね。
本当は特許みたいな制度があればいいのだけれど、それは難しいみたいだから諦めるしかないわね。
だからこそ秘伝とされる商品が多いらしいわ。
「……殿下?」
嘘でも殿下なら喜んでくださると思ったのに、予想外にほとんど反応がないわ。
これはひょっとして外してしまった?
ここは無難にキラキラうちわ新バージョンにするべきだった?
「やっぱり……」
「……やっぱり?」
「ファラーラは面白いね」
「ええ!?」
〝賢い〟でも〝可愛い〟でもなくて、面白い?
どこにお笑い要素があったの?
私が目指しているのはお笑いではないのに。
「ところでこれ、不思議な模様だね?」
「ええ、それは……おまじないのようなものです」
「おまじない?」
「遊学される殿下の応援になるように私が書かせていただきました」
本当は筆があればよかったんだけど、へっぴり文字でインクが滲んでいるからそれっぽくみえるのよね。
簡単な文字だから、知っている人が見たらちゃんと読めると思うわ。
「……どんなおまじない?」
「えっと……〝ファイト〟と書いておりまして、殿下が遊学先でもお力を存分に発揮されるようにとの願いを込めております」
「〝ふぁいと〟か……。本当にファラーラには敵わないな。応援してくれてありがとう。頑張ってくるよ」
「はい! ですが、何よりもご無事でお戻りくださいね?」
「……うん。ありがとう」
蝶子の世界の文字で書いたけれど、変な呪詛だと思われなくてよかったわ。
こっちの回りくどい言い方より、蝶子の世界の言葉のほうが簡潔なのよね。
〝カタカナ〟なら私も書けるし、どうせ誰にもわからないもの。たぶん。
それにしても殿下ってば「敵わない」だなんて。
やっぱり私はライバル認定されているということね。
それなら嫉妬も納得できるわ。
そして殿下は私に負けを認められた、と。
ふふふ。
どうぞ異国の地で己を鍛え直していらっしゃってください。
二年後にナントカ島で待ってはいないけれど、お戻りになった頃には私だって(知力も身長も)さらに成長していますから。
挑戦なら何度だって受けて立ちますわ!




