駆け引き2
これでよし!
殿下への面会の申し込みとミーラ様へのお手紙を執事に託して、あとは返事を待つだけ。
やっぱり謝罪はお手紙ではなくて、直接お会いしてするべきだと思うのよね。
決して謝罪文を証拠として残すのが嫌なわけではないのよ。
だから殿下には『びっくりして動揺してしまっただけ』ということを強調して、改めてお会いしてお話したいと伝えたわ。
ミーラ様には殿下に直接謝罪したいけれど心細いからついてきてほしいとお願いしたのよね。
このことはエルダにもレジーナ様にも内緒にしてほしいとも。
だってエルダには呆れられてしまうかもしれないもの。
それにエルダはもちろん、レジーナ様も残念ながら王宮に立ち入るには特別な許可が必要なのよ。
とにかく、今回の謝罪はミーラ様の力が必要だから。
ミーラ様からはすぐにいつでもかまわないとの返事が届いたわ。
どんな予定があろうとも私を優先させてくれるなんて。
友情半分、好奇心半分ってところかしら。
それがミーラ様の魅力なのよね。
殿下からのお返事は翌朝になってからだった。
だけど別に気になって眠れなかったとかないもの。
ふあああ。
あら、大きなあくびをしてしまったわ。
私、知ってるんだから。
これは蝶子がよく使っていた戦法(といっても、二人にだけだけど)。
いわゆる、恋の駆け引き!
返信をすぐにしてはダメなのよ。
だから既読にならないように、内容が気になってもちょっとだけ表示される文面でしばらく我慢しなければならないの。
幸いお手紙はすぐに開封しても相手にはわからないから気にする必要はないのがいいわよね。
「あらまあ、ファラーラ。食事中だというのに、今開封するなんて。そんなに読むのが待ちきれないのね」
「た、確かにお行儀は悪いですけど、急ぎの内容でしたらすぐにお返事を書かないといけないでしょう?」
「……ええ、そうね」
殿下からのお手紙だから、失礼のないようにって執事だって気を利かせて今持ってきたのでしょう?
ひょっとして今すぐ――今日、これから会いたいって内容だったら、学院はお休みしないといけないし、ミーラ様にも連絡しないといけないんだから。
「ファラーラ、何かよくないことでも書いてあったの? まさか一昨日のお茶会での悪意ある噂を殿下は信じていらっしゃるわけではないのでしょう?」
「……ええ、お母様。大丈夫です。三日後の午後、殿下とお会いすることになっただけですわ」
そうよね。
真面目な殿下が学院を休ませてまで会いたいなんておっしゃるわけがなかったのよ。
それでわざわざお休みの日に設定されたのね。
放課後でもかまわなかったのに、きっと課題の心配までしてくださったんだわ。
「そう。それならよかったわ。ファラーラ、一昨日のことはちゃんと説明しておくのよ。世間の噂はどうでもいいけれど、殿下にだけは誤解がないようにお伝えしておかないと、あなたの今後に関わってくるかもしれませんからね」
「もちろんです、お母様。どうぞお任せください!」
「……不安だわ」
いったい私の何が不安だというのかしら。
これ以上ないほど完璧なシナリオを用意したんだから。
名女優ファラーラ・ファッジンの腕の見せ所よ。
待っていなさい、サラ・トルヴィーニ!
この私を罠にはめようとしたこと、後悔するがいいわ!
王妃様の入れ知恵でも何でも、私だけでなくお母様にまで――ファッジン公爵家にまで恥をかかせたこと許さないんだから。
いつか古代魔法を(フェスタ先生が)復活させて、恐ろしい呪いをかけてあげるわ。
でも呪詛返しが怖いから、アルバーノお兄様に上手く言って実行してもらいましょう。
そうね。サラ・トルヴィーニにとって最も苦しい呪い――殿下を見るとしゃっくりが止まらなくなる呪いよ!
あるかどうかはわからないけれど。
また一つ、じっくりことこと煮込む復讐の材料ができたわね。
そしてエヴィ王太子殿下!
私からの返事をお昼寝もせずにやきもきしながら待てばいいのよ。
殿下へのお返事は放課後に書くつもりなんだから。
もちろん、ミーラ様のご都合も伺わないといけないしね。
ふふふ。
この駆け引き、決して負けたりなんてしないわ!




