意地2
「――それでね、ここが重要なポイントになると思うんだけど……ファラ、聞いてる?」
「え? あ、ええ。大丈夫よ。ここが要チェックなのよね?」
「うん……。まあ、そういうことかな」
いけない、いけない。
せっかくのエルダたちとの勉強会なのにぼんやりしていたら意味がないわ。
家庭教師も断ったんだから、ここで課題を終わらせておかないと後で泣くのは私よ。
しかも課題をまだしていなかったのは私とミーラ様だけだったなんて。
エルダはもちろんレジーナ様や……フクさんたち寮生もみんな課題を終わらせているなんて真面目なの?
学生の本分は遊ぶことじゃないの?
提出期限ぎりぎりになって徹夜で頑張ることが学生の苦労であって、余裕を持って課題を終わらせるなんて優等生くらいだと思っていたのに。
あ、そうか。特待生は成績によって授業料免除だから、真面目なのは当たり前よね。
大変だと思うけれど、輝かしい将来のためにせいぜい頑張ってほしいわ。
そして私の悠々自適生活を陰ながら支えてちょうだい。
「そろそろ休憩にしませんか? 皆様がお持ちくださったものばかりですが、私たちだけでいただくのは畏れ多くて……」
「そうだね。フミ、ありがとう。ファラ、お茶にしよう? ミーラ様もレジーナ様もひと休憩しませんか?」
「ええ、そうね。休憩は大事だものね」
「ありがとう、フミさん……だったかしら? ファラーラ様のお茶は私が淹れるわ」
「あ、はい」
私はとりあえず寮生が何人いるのかはわからなかったから、手土産とは別に王都で人気があるというナントカってお店から焼き菓子を届けるように手配したのよ。
ほら、人気を維持するにはある程度の投資は必要だと思うのよね。
ええ、もちろんみんなに喜ばれたわ。
先輩方もわざわざ挨拶にきて対応が大変だったくらい。
まあ、当然と言えば当然よね。
だって私はファラーラ・ファッジンだもの。
これでうちわの売り上げもアップ、マージンも増えるわね。むふふ。
ミーラ様は美味しそうな茶葉で、レジーナ様はまさかの文具を手土産にされていてびっくり。
以前から思っていたんだけれど、レジーナ様はちょっとずれているっていうか、変わっているわよね。
それが一緒にいて楽しいんだけど。
これも今だから知ることができたわけで、悪夢の中ではミーラ様とレジーナ様のこともよく知らないままだったんだわ。
私の引き立て役くらいにしか思っていなかったものね。
そういう意味ではあの悪夢には感謝しているけれど、今でもあれが何だったのかわからないまま。
時々夢に見る蝶子のこともよくわからないし、お爺ちゃんに相談してみたほうがいいのかも。
だって、やっぱりどう思い出しても夢の中で殿下が他国へ遊学に行くことはなかったわ。
それに、あの夢を見なかったら今の私はいなくて――ううん、今の私には友達なんていなくて、こうしてみんなで仲良く勉強会なんて絶対できなかったもの。
そもそも勉強をしなかったんだけど。
「そういえば、従姉のマリーお姉様から聞いたのですが、今日はトルヴィーニ先輩がお茶会を主催されているそうです。しかも場所は王宮でなんですって!」
「あ、ああ、それね」
なんて嘘。知らなかったわ。
どういうこと?
サラ・トルヴィーニが王宮でお茶会を主催するなんて、まるで王宮の女主人みたいじゃない。
王妃様が後見なさっているのは間違いないけれど、それにしても大胆すぎよ。
どうして情報が入ってこなかったのかしら。
少なくともお母様なら知っていて私に教えてくださったはずなのに。
「やっぱりファラーラ様はご存じだったんですね? サプライズで開催場所は当日まで内緒だったそうですのに」
「……私は一昨日に殿下から王宮に招かれたばかりで、課題も残っていたので、勉強を優先させたのよ」
「まあ、さすがファラーラ様。王宮でのお茶会なんて憧れですけど、勉学を優先させられるなんて」
優先させたのではなく招待されていなかったからなんどけどね。
でもそんなことは言えないから、さも招待を断りましたって感じで上手く答えられたわ。
確かにミーラ様はともかく、レジーナ様のご身分では王宮での催しに招待されることは難しいから憧れるのは当然でしょうね。
寮生たちも夢見る顔になっているわ。
「私はファラのお茶会がとても楽しくて夢を見ているような気分だったなあ。ありがとう、ファラ」
「うんうん。私も。すごく素敵なお茶会を体験させていただいて、ファラーラ様には感謝しているんです」
「女子限定、制服着用のイチゴパーティーはとてもわくわくしましたもの」
王宮のお茶会の話だったはずなのに、エルダがあのイチゴパーティーのことを楽しそうに語ってお礼なんていうから、みんなまで思い出したみたい。
それであのときどんなに楽しかったかなんて盛り上がっているわ。
エルダがイチゴパーティーの話題に変えてくれたおかげね。
ふふん。サラ・トルヴィーニのお茶会なんてどうせ大したことないわよ。
開催場所をサプライズなのはなかなかやるけれど、結局は王宮で王妃様が後見するってだけだわ。
「ポレッティ先輩やベネガス先輩もご招待を受けていらっしゃるそうですが、きっとファラーラ様のイチゴパーティーのほうが楽しかったと思われるに違いありませんわ」
「……ミーラ様、お褒めいただいて嬉しいですわ。ですがきっとトルヴィーニ先輩のお茶会も素晴らしいものではないかしら。だって王宮で開催されるのですもの」
「そ、そうですね。比べるのは少々品性に欠けておりました」
本当はもっと褒めたたえてもいいのよ。
でもほら、私は謙虚なファラーラ・ファッジンだから。
もちろんサラ・トルヴィーニがポレッティ派を取り込みに動いているなんて焦ったりなんてしていないわ。
想定内よ、想定内。
「ただ、やはり王宮で開催されるだけあって、王太子殿下やプローディ先輩、さらには生徒会の皆様もご招待されていると伺ったものですから……」
「え、ええ。とても楽しそうよね」
べ、別に驚いたりなんてしないわ。
生徒会の方たちまで招待されているなんて。
それに殿下はイチゴパーティーに出席されたがっていらっしゃったのだから、きっとお茶会がお好きなのよ。
気にしてなんていないわ。
私は怒っているんだから。
ふん! 殿下なんてお茶会でも遊学でも好きにすればいいのよ!




