探偵
まったくもってそんなつもりはなかったのだけれど、殿下とリベリオ様は勘違いしたまま帰っていった。
お母様はとっても満足そう。
制服で通うことには反対していたのに、そのことはもう忘れているのね。
そんなことよりも、これは意図せず〝ファラーラ・ファッジンいい人作戦〟がうまくいっているんじゃない?
ただ問題はあるのよね。
それはやっぱり殿下が子どもにしか思えないこと。
私はもっと子どもなんだけどね。
十二歳だったら男の子に恋する年よね?
以前は殿下の身分に恋していただけだし、蝶子のときはずっと女子校だったからよくわからない。
いくら子どもらしくない会話をしていようと、殿下とリベリオ様が美少年だろうと、恋愛対象には見えないのよね。
むしろ観賞用。ずっと見ていたい。
このまま子どもにしか思えないで結婚できるのかしら。
できなくても、しないとだめよね?
それとも悪夢のようにサラに奪われるまま?
いえ、それだけは絶対に嫌だわ。
咲良と重ね合わせるべきではないかもしれないけれど、これは理屈じゃないのよ。
負けられない戦いがそこにある。
休日一日目は予想外の来客があったけれど、あとの二日は英気を養って、いざ出陣!
登校するだけだけれど。
「ファラーラ様、おはようございます!」
「おはよう、ミーラ様」
「おはようございます、ファラーラ様! 伺いましたわ!」
「……おはよう、レジーナ様。いったい何をお聞きになったの?」
「殿下とリベリオ様がファラーラ様をご訪問されたことです!」
あら、よくご存じで。
って、待って。ちょっと怖い。
どうして知っているの?
ストーカー? レジーナ様はストーカーなの?
その場合、殿下? リベリオ様?
リベリオ様もプローディ公爵家の御嫡男だものね。
はっ! それともまさかの私!?
「私も伺いましたわ! プローディ公爵家の家紋が入った馬車がファッジン公爵邸に入っていったと。それでどなたが乗っていらしたのか調べたら、エヴェラルド殿下とリベリオ様だったのだと!」
誰が乗車しているかなんて、どうやって調べるの?
レジーナ様も顔を輝かせて追い打ちをかけてきた。
そうよね。
誰がどうしたなんて、社交界ではすべて筒抜け。
確か浮浪児とかにお金を握らせて各屋敷を見張らせたりしていたんだわ。
そうそう、思い出した。
ストーカーじゃなくて、にわか探偵なのよ。
怖すぎる、社交界。
だから我が家にも家紋の入っていない馬車が一台ある。
それとは別に上級使用人用の馬車もあって、お兄様はよくそれを使っていらっしゃるのよね。
あら?
お兄様はいったいどちらにいらっしゃっているのかしら。
次にお会いしたら聞いてみようっと。
「……ただの婚約者への儀礼的な訪問をしてくださったのですわ」
「まあ! やはり殿下はファラーラ様を訪ねていらっしゃったのですね! ご親友のリベリオ様もご一緒に!」
「え? あ、う、ええ。そうね」
しまった。
別に私への訪問じゃなかったって言えばよかったんだわ。
だけどお父様もお兄様たちもお留守だったし、探偵はそこを見抜いてもいたでしょうから、やっぱり無理だったかしら。
あの訪問内容を思い出して、先週以上に制服姿の女子が増えていることに気付いた。
ミーラ様とレジーナ様は自分のことのようにきゃっきゃと喜んでいて、何だか私も嬉しくなってきたからまあいいわよね。
恋バナって楽しいもの。
……今まで誰ともしたことなかったから。
蝶子は少女漫画で補給していたのだけれど。
「おはよう、エルダ」
「ファラ、おはよう」
席に着いて隣のエルダに挨拶すれば、ほんわり笑顔が返ってきた。
何だか癒されるわ~。
ほんと、以前の私はもったいないことをしていた。
エルダもミーラ様もレジーナ様も、一緒にいると楽しいもの。
友達って最高だわ。
 




