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休日2

 

「ようこそおいでくださいました、殿下。お待たせしたのでなければよいのですけれど」

「いや、つい先ほど来たところだ。突然の訪問で申し訳ない」

「お気になさらないでください。今日は特に予定もございませんでしたから」



 だから一日中ベッドでごろごろを楽しみたかったのに。

 そんな気持ちをいっさい顔には出さず、にっこり笑う。

 だけど、これが十二歳と十三歳の会話って怖くない?

 改めて意識すると、すごいなと思うわ。

 たった十二年でここまで躾けられたんですもの。


 まあ、以前の私はそれ以上に傲慢さがにじみ出ていて、この挨拶ももっと上から答えていたと思う。

 いえ、殿下が訪問してくださったとなれば、舞い上がって自分でも予測がつかないわ。

 そんなことを考えながら、もう一人のお客様に挨拶をする。



「ごきげんよう、プローディ伯爵。ようこそおいでくださいました」

「ありがとう、ファラーラ嬢。僕までお邪魔して悪かったね。ところで僕のことはリベリオと呼んでくれるかな?」

「かしこまりました、リベリオ様」



 見られてる。すっごく見られてる。

 誰にって殿下に。それから目の前のプローディ伯爵――リベリオ様に。


 リベリオ様は殿下の従兄弟に当たられる方で、私のことを毛嫌いしていたのよね。

 ええ、殿下にも毛嫌いされていましたけれどね。

 あ、泣きそう。



「学園でのファラーラはどうですか? まさか何か失敗でも? それでわざわざいらっしゃってくださったのでしょうか?」

「え……」



 一通りの挨拶を終わらせると、先に殿下を出迎えてくださっていたお母様が口を開いた。

 けれどその質問は酷いわ、お母様。

 私のことを信用していないのね。

 このひと月、あれほど私のことを褒めてくださっていたのに。



「ほら、あなたは殿下に夢中だから。殿下のお傍にいたいとあれほどに入学を切望していたのですもの。舞い上がって何かしてしまったのではないかと思ったのよ」



 あーあーあー!

 やめてお母様!

 ショックを受ける私に気付いて、お母様はフォローしてくださったけれど、それは追い打ちでしかないわ。


 確かに以前の私はお父様とお母様に殿下との婚約や学園入学をねだって我が儘を言って、癇癪を起していたけれど。

 それは遠い過去の話(私の中で)。

 そう黒歴史なのよ。


 本気で泣きそう。

 そんな私から殿下とリベリオ様はようやく視線を外してお互い顔を見合わせた。

 何なのよ、もう。



「公爵夫人、本日訪問させていただいたのは、ファラーラ嬢にお礼を言いたかったからです」

「お礼を? ファラーラに?」



 お母様、そこまで驚くことはないと思うの。

 もちろん私もびっくりだけれど。

 いったい何のこと?



「はい。実は僕たちは学園に入学してからのこの一年、ずっと懸念していたことがあったのです」

「まあ、殿下と伯爵が懸念されるなど、よほどのことなのでしょうね?」

「そうですね。よほどのこと、というよりは僕たちには手出しのできない問題とでも申しましょうか……。女子生徒たちの問題です」

「女子生徒? それは確かに殿方には難しい問題ですわね」

「はい。公爵夫人はすでにご存じかもしれませんが、学院に在籍する一般生徒のことを――特に女子生徒のことを『制服組』と呼び、差別する傾向があったのです。僕たちには特権階級に属する者としての義務がある。それは一般に暮らす人々を守り幸せにすることです。それをはき違えている者たちにどうやって理解させ導いていくか、相手が女子生徒であるために僕たちは気軽に口を出せない。そのためにずっと悩んでおりました」



 そういえば殿下もリベリオ様も学園では制服だったわ。

 男子はほとんど制服だから気にしたことはなかったけれど。

 殿下たちなりのアピールだったのかも。


 それにしても殿下はまだ十三歳よね。

 リベリオ様も同級生だし、今年十四歳になるにしても、この会話ってどうなの?

 さすが王子様と言うべきなのかしら。


 蝶子の弟も英才教育を受けてかなり厳しく育てられていたけれど、もっと子供らしかったわよね。

 一緒にゲームして遊んだりしていたもの。

 いつも負けていたけれど。


 それに蝶子はホラーが苦手なのに、わざわざ蝶子の部屋に来てホラーゲームをする意地の悪さ。

 だけど……あれからどうしているのかしら。

 蝶子が意識不明になって、すごく心配しているのかしら。

 そんなことをぼんやり考えていたら、殿下とリベリオ様の鋭い視線が私に向いた。



「ファラーラ嬢」

「は、はい?」



 鋭い視線は記憶というより体が覚えているようで、びくりとして変な声が出てしまったわ。

 だけど殿下もリベリオ様も優しく微笑んだ。

 こんな微笑みを向けてくれたのは初めてなんですけど!



「あなたが率先して制服を着用することで、たったこの四日で多くの女子生徒が制服を着用するようになった。そのおかげで今までのように『制服組』と揶揄することもできなくなり、学園内の空気が変わったように思う。そのお礼を述べたく、本日急ではあったが訪問させていただいた。ありがとう」

「僕も、生徒会の一員として感謝しているよ。ありがとう、ファラーラ嬢」

「い、いえ……」



 殿下とリベリオ様が私に頭を下げるなんて!

 あ、でも婚約解消のときに殿下は頭を下げていたわね。

 嫌なことを思い出してしまったわ。




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― 新着の感想 ―
[一言] ホラーが苦手な女の子の部屋でわざわざホラーやるって意地悪というよりラッキーすけべ的なものを期待する下心が透けて見える気がしないでもないw
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