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悪夢2

 

「お父様! 聞いてください! 先ほど殿下が――」

「ファラーラ、部屋に入るときはノックをしなさいといつも言っているだろう」

「あら、お父様と私の仲なのに? 必要ありませんわ」

「どんなに親しい仲でも礼儀は必要だ。まったく、私が甘やかしすぎたせいだな」



 お父様に慰めてもらおうと書斎に入ったとたんにお説教ってどういうこと?

 今日はまったくついていないわ。

 お父様は一人ぶつぶつ何かおっしゃっているから、私が気を利かせてメイドを呼びましょう。

 ベルを鳴らしてからソファに座ったのに、メイドはまだ来ない。



「もう、遅いわね。まだメイドが来ないなんて、最近使用人の態度が緩んでいると思うの。もっと厳しくするよう、お母様にお伝えしておかないと」

「……ファラーラ、お前はしばらく大叔母様を訪ねてはどうだい? あの方は厳しいが愛情深い方だ。きっとお前のためになるだろう」

「いやだわ、お父様。大叔母様って、あの一度もご結婚されたことがない時代遅れの方でしょう? あんな田舎に行くなんてあり得ないわ」

「大叔母様は若くして婚約者を亡くされてね。その方のことが忘れられずにいらっしゃるのだよ。お前とは立場が少し違うかもしれないが、慰めになるかもしれないだろう? それにこれから少しお前の周囲は騒がしくなるだろうから、のんびりしたところでゆっくりすれば、気持ちも落ち着くだろう」



 お父様は何を言っているのかしら。

 今日はみんな変だわ。

 まるで夢でも見ているみたい。



「何をおっしゃっているの、お父様? あ、そうそう。先ほど殿下がいらっしゃって、信じられないことをおっしゃったのよ。私と婚約を解消したいだなんて。そんなこと無理に決まって――」

「事実だよ」

「はい?」

「エヴェラルド殿下とお前との婚約は解消になった。陛下からも謝意を示された書状が届いている。殿下も謝罪されていらっしゃったが、それも仕方ないことだと思う」



 やっぱりこれは夢だわ。

 だって、こんなことあり得るはずがないもの。

 私はブラマーニ王国王太子・エヴェラルド殿下の婚約者なのよ?

 近い将来、王太子妃になり、王妃になって国母になるのよ?



「お父様までご冗談はよしてください。だって、私と殿下は五年も婚約していて、来年には結婚式を予定しているのですよ? それを今さら解消だなんて、私がどんな笑い者になるかわかっていらっしゃるの?」

「婚約を解消されたお前の心配は笑い者になるかどうかなのか? もっと悲しんだりはしないのか?」

「悲しいも何も、これは冗談でしょう? 私以外に王妃様になれる女性なんていないわ。それなのに――」

「次の婚約者にはサラ・トルヴィーニ嬢が候補に挙がっている」

「あんな女! ただの伯爵家じゃない!」

「トルヴィーニ伯爵家は由緒ある家柄だよ。それよりもファラーラ、お前はいつからそんなに冷たい女性になってしまったんだろうな? 私たちが仕事や社交にかまけてばかりいたからか……。とにかく、これからは私たちもお前の傍にできるだけいてやるからな。陛下も休暇をくださったんだ。大叔母様のところへは一緒に行こう」



 馬鹿馬鹿しい。

 何が大叔母様のところよ。あんな田舎に行くはずがないでしょう?

 そもそもサラって、ただ笑っているだけしか能のない女じゃない。


 男ってほんと馬鹿だから、みんな騙されているのね。

 陛下まで騙すなんてとんだ女狐だわ。

 これは私が化けの皮をはいであげないとダメね。

 そう思っていたところで、ようやくメイドがお茶を持ってやってきた。



「遅いじゃない! いったい何をしていたの!? それにそのお茶請け、さっき殿下にお出ししたときと同じものよ! なんて気が利かないの!?」

「ファラーラ! やめなさい! ――君はかまわないから、もう下がっていい」

「お父様、使用人を甘やかしてはつけあがるだけですわ」

「……そうじゃない、ファラーラ。お前は……本当に……」

「お父様? どうなさったの? お父様!?」



 優しいお父様は使用人にまで優しいから、私が厳しくしていたのに。

 そのことをきちんと伝えようとして、お父様を見ればお顔の色がすごく悪かった。


 お言葉も不明瞭になっていって、大丈夫かしらと心配していると、お父様はその場に倒れられてしまった。

 急いで使用人を呼んだけど、やっぱりやってくるのが遅い。

 そうよ。全部みんなが悪いのよ。


 殿下が婚約解消なんて言うからお父様はお疲れになって、使用人が駆けつけるのが遅いから酷くなって、医師がやってくるのが遅いから手遅れになってしまったんだわ。

 お母様は嘆くばかりで、お兄様もお忙しそうで、私のことは放ったらかし。

 そうよ。全部あの女が悪いんだわ。


 あのサラ・トルヴィーニが私からすべてを奪ったのよ。


 それなのになぜ私が罰を受けなければならないの?

 泥棒猫にちょっとお仕置きをしてあげようとしただけじゃない。

 だって結婚式に花婿の――殿下の隣に立つのは私だったのよ?

 あの花嫁衣裳を着るのも私だったのだから、脱ぐのを手伝ってあげようとしたのに。

 炎魔法で燃やしてしまえば簡単でしょう?


 心神喪失状態だったからって何のこと?

 本来なら死罪なのに幽閉で許されるとか、意味がわからないわ。

 みんな面白くもない冗談ばっかり。

 ほんと、つまらないわ。




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