友情2
「ファラーラは私がブルーノにぞんざいにされていないか心配してくれているのか。本当に優しいな。だが安心しろ。ブルーノはちゃんと私のことを大事にしてくれているぞ」
「誤解を招く言い方はやめろ、チェーリオ。それから、今はその話はまったく関係ないだろう」
「関係なくても友情はとても尊いものなんですよ? ですから殿下とリベリオ様も、どうか末永く仲睦まじくお過ごしくださいね?」
「え……あ、う、うん?」
「ファラーラ嬢、言いたいことはわかるが、それは人に強制されるものじゃないだろう? だが私は一度大切な友を自ら失いかけたからな。もちろん大切にするよ」
うんうん。よかったわ。
みんな友情の大切さをわかってくださって。
フェスタ先生はどこかご不満そうだけど、照れていらっしゃるのね。
女友達も素敵だけれど、男同士の友情も素敵だわ。
そう満足していたら、激しく噴き出す音が聞こえた。
そちらに視線を向けると、お爺ちゃんが大きな声で笑いだした。
まあ、涙まで流されているわ。
「学院長、笑い事ではないでしょう?」
「いやいや、これほど面白いこともないだろう? これ、これか……」
これって、どれ?
視線だけで周囲をチラチラ見たけれど、これといって面白そうなものはないわ。
すると、フェスタ先生が大きなため息を吐きながら説明してくださった。
「学院長のおっしゃっているのは君のことだよ、ファッジン君」
「私ですか?」
何か面白いことを言ったかしら?
友情の大切さを語っただけなのに?
「ファラちゃんがいったいどんな理論で新たな発見を――発想をしているのか知りたかったのだが、何となくわかったぞ。ありがとう」
「どういたしまして?」
そういえばお爺ちゃんからはそんな質問をされていたんだわ。
いつの間にか友情について考えていたけれど、どうしてそうなったのかしら。
私にもわからないことがお爺ちゃんにはわかったの?
嫌だ、怖い。
やっぱりお爺ちゃんはエスパーなのね。
「先ほどファラちゃんが申しておったように、〝言うは易く、行うは難し〟とはまったくその通りだ。常人は――世の中の大半の人間は思いついても、それだけで無理だの何だのと諦めてしまう。時間がないとか才能がないとか資金がないとか言い訳をしてな」
「それは仕方ありませんわ。人間の成分の七十パーセントが〝言い訳〟で出来ておりますもの」
「ファッジン君、君は『成分』の意味を調べ直しなさい」
あら? そう言われれば、確かに違う気がするわ。
七十パーセント云々は水分のことだったかしら?
「ブルーノ、細かいことを言うなよ。ファラーラの言いたいことはわかるだろう? かなり真理をついているぞ」
「細かろうが、何だろうが、教師として間違っていることは指摘しなければいけないだろう?」
「ふむ。やはりファラちゃんの申すことは正しいな。ブルーノは頑固一徹変哲で面白みがない」
「私が頑固だろうが何だろうがどうでもいいんです。学院長もしっかり指導してください」
本当にお爺ちゃんとフェスタ先生は血が繋がっているのかしら。
お顔は目元が似ている気がするわね。
だけど性格は正反対みたい。
とはいえ、お爺ちゃんも若い頃は頑固一徹奇人変人だったのかもしれないわ。
それで先生のお母様は相談ができなかったのかも。
人間、年を取ると丸くなるって言うものね。
「ファラーラ」
「はい、殿下?」
大人たち三人組の子供っぽいやり取りを見ていると、殿下がそっと話しかけてきた。
殿下も〝魔法ラブ〟に期待してきたら、話が違ってがっかりしているのかしら。
「その、残りの三十パーセントは何で出来ているのか訊いてもいいかな?」
「――ええ、もちろんです。十パーセントは義務で十パーセントは善意で、最後の十パーセントは悪意です。人によっては多少の誤差は発生するかと思いますけど」
「それは少し違うんじゃないか? 言い訳と善意や悪意はそもそも根本的に違うだろう? しかも善意と悪意が同じ比率っていうのは……」
「確かに、言い訳というのはおかしいかもしれませんね。欲望というのが正しいかもしれません」
てっきり〝魔法ラブ〟のことかと思ったのに、違ったのね。
殿下は通常の人より善意と義務が多いかも、なんて思いながら答えていたら、悪意が多そうなリベリオ様が口を挟んできたわ。
しかもまだまだ頭が固いわね。
そんなの適当でいいのよ。私だって適当なんだから。
それに言い訳なんて、突き詰めれば「面倒くさいから楽をしたい」っていう欲望じゃない。
努力も面倒くさいもの。
だから私は人に振るのよ。お金と権力があれば思うまま。
頑張らないのが、私。ファラーラ・ファッジンよ。
「しかし、善悪については――」
「いやいや、プローディ君。ファラちゃんの説はあながち間違っていないぞ。まあ、それも大人になればわかるであろう」
ほらほら。お爺ちゃんも賛同してくれているわ。
まあ、私は八十パーセントが欲望で十パーセントが悪意であとは半分ずつ義務と善意だと断言できるわね。
だけどそれを人に悟られないようにするのが大切なのよ。
私はあの悪夢でそれを学んだんだから。
なんて考えていたら、お爺ちゃんがじいっと私を見ていた。
目が合った途端、にっこり笑ってくれたけれど、胡散臭いわ。
それにフェスタ先生も何か言いたげで、お兄様は困ったように微笑んでいらっしゃる。
何? 何なの?
心の声が漏れていたかしら。
「……学院長、もう本当にいい加減に本題に入りましょう」
「ふむ。異論はないぞ、ブルーノ」
「あってたまるか」
ようやく? ようやく〝魔法ラブ〟の話になるのね。
フェスタ先生がぼそっと呟いていらっしゃったけれど、お爺ちゃんはもう反応せずに、私を見てにっこり笑った。
これは本物の笑顔ね。だから私もにっこり笑顔。
「それでは、第1回ファラちゃんを守る会を開催する!」
「……はい?」
部活動はどうなったの?
ちょっと意味がわからないんですけど。




