お爺ちゃん3
換気のための窓を開けるのは殿下とリベリオ様も手伝ってくださった。
そのときにお二人が「ありがとう」とおっしゃったのだけど、何のお礼?
よくわからないけれど、とにかく重い空気はなくなったわよね?
「――要するに、持たざる者の中にはどんな卑怯な手段を使ってでも、望みのものを手に入れようとする者がおるということだ」
「それは……わかっております」
「ふむ。二人とも多くを持っておるからな。実感することもあるだろう」
お爺ちゃんは自慢のおひげ(じゃないと、あんなに伸ばさないわよね)をゆっくり撫でながら、先生っぽいことをおっしゃった。
殿下とリベリオ様は深く頷いていらっしゃるけれど、まだお若いのに大変なのね。
それに先ほどよりお元気がないように見えるのは、サルトリオ公爵のことがショックだったとか?
サルトリオ公爵のお名前はよく聞くのに、お顔がさっぱり思い出せない。
それで、まだ面倒くさ――重い話題は続くのかしら。
「ところで、ファラちゃんはテノン商会の若造と楽しそうなことをしておるようだな?」
「へい!?」
な、なな何のことかしら?
思い当たることが多すぎて、変な声が出てしまったわ。
サルトリオ公爵のことに気を取られていて油断していたのよ。
ひょっとして学院はアルバイト禁止だった?
でも不労所得だからセーフ?
キラキラうちわは慈善事業でほんのちょっとだけしかマージンは取ってないもの。
それにお化粧品についてはまだ開発途中だから投資であって、実質負債を抱えている状態。
空飛ぶ箒については……特許の概念がないから、ちっとも利益にはならないのよね。
まあ、楽しそうだからいいけど。
「そこにおる兄のチェーリオにも、なかなか役立ちそうな提案をしておるな。今、研究しておる新薬についても興味深い」
「お、お兄様は天才ですから!」
嫌だ、怖い。
全てお見通しですか。そうですか。
お爺ちゃんあるあるだけど、エスパーなのかしら。
「本当の天才はファラーラだよ。私はファラーラが提案してくれたことを忠実に再現するだけだからな」
「それがすごいのです。〝言うは易し、行うは難し〟ですもの」
「何を言うんだ。もしファラ――」
「いい加減にしろ、バカップル。学院長も話を逸らさないでください。先ほどからまったく本題に入っていないではないですか」
そうだったわ。
今は褒め褒め委員会を開催している場合ではなかったのよ。
それにお爺ちゃんあるあるなら、「ふぉっふぉっふぉ」って笑うとか「のじゃ」とかって語尾につけてほしいところよね。
それで、ええっと。本題って何だったかしら。
「お前は相変わらずせっかちだな。そんなに急がずとも時間の流れは皆平等であるぞ」
「だからこそ、ではないですか。彼らはまだ学生なのですから、帰りが遅くなっては気の毒です。課題も多く出ているようですから」
「ご心配には及びませんわ。私はチェーリオお兄様がご一緒にいてくださいますし、課題の大半はフェスタ先生からのものですもの」
「期限が明日までのな」
「あら?」
「『あら』じゃない。私の課題は十日ほど前から出しているのだが?」
「あら……」
おかしいわね。
私の記憶が確かなら、提出期限はもう少し先だったような気が……数日前にしていたわ。
「時の流れは無情ですね」
「今気付けてよかったな」
「心配するな、ファラーラ。今日は私も屋敷に帰るから、手伝ってやるぞ」
「ありがとうございます、お兄様」
「お前たちはちゃんと〝手伝う〟の定義を理解しているんだろうな? チェーリオのことは癖でも何でもわかっているからな?」
「先生、酷いです! まだやってもいないうちから疑うなんて! 予防線を張られては、できないではないですか!」
「ファラーラ、後半は本音が漏れているよ」
「え……」
まさか殿下に指摘されるなんてびっくり。
今のってツッコミ? 殿下がツッコミ?
いえ、親切に教えてくださっただけよね。
「ファラちゃんは素直で可愛いな」
「はい、よく言われます」
「それに比べてわしの孫息子は可愛くなくてな。どうすればよいと思う?」
「もう手遅れだと思います」
「おい」
「え? 先生は可愛いと思われたいのですか?」
「まったくもってない」
「でしたら問題ないではないですか。先生は可愛くなくても、他にいいところは……あるんですから」
「その間は何だ? 一つでいいから、私の長所をあげてみなさい、ファッジン君」
「ええっと……や、優しいところとか? ですから、課題の提出期限を延ばしてくださいますよね?」
「却下」
おのれ、ブルーノ・フェスタ!
殿下の前で恥をかかせるなんて酷いわ!
お兄様もお爺ちゃんもリベリオ様も、殿下までも笑っていらっしゃるんだもの。
それなのに先生だけ笑っていない、大真面目。
もう適当でいいわ。
「フェスタ先生の長所は頑固一徹変哲なところではないですか?」
「投げやりなうえに、さり気なく余計な一言を混ぜるな」
「まあまあ、お前のいいところは私がわかっているから。とにかく、問題はお前の長所ではなく、ファラーラの才能だよ」
「ふむ。では、そろそろ本題に入るか。皆もすでにわかっておるだろうが、こたび集まってもらったのは昨日の大発見についてだ」
やっぱり空を飛ぶことについての集まりだったのね。
だけどお兄様の言う私の才能についてって、私が宙に浮けなかったこと?
私には空を飛ぶ才能がないの?
いいわ。それなら私、〝魔法ラブ〟のスーパーマネージャーになってみせるから!
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