チェーリオ12
「空を飛ぶ? どうやって?」
プローディ殿の質問には私が答えることになった。
ファラーラから任せられたのだからしっかりしなければな。
プローディ殿ははじめ、なかなか理解されず半信半疑のようだった。
自分では理解していても他人に説明するのは難しいものだな。
ファラーラのようにもっと簡潔にイメージできるように説明できればいいのだが。
どうにかプローディ殿が疑いよりも興味を向けられたところで、ファラーラの箒をお見せすることにした。
「チェーリオ殿、これはいったい……」
プローディ殿に見せたかったのは箒だが、隣に置いてあったキラキラしいうちわへと視線が向かってしまったようだ。
ブルーノとよりもファラーラと並んだ肖像画ならよかったのにな。
後でジェネジオ・テノンに手配させよう。
「これは、ファラーラ嬢がフェスタ先生に贈られたのか?」
「はい。先生にはいつもお世話になっておりますので、感謝の気持ちをお伝えしたくて。ええ、本当にただそれだけです。別に課題を少なくしてほしいとか、テストを簡単にしてほしいなんて思ってはおりません。単位さえくださればそれでいいのです」
「……ファッジン君、私は賄賂は受け取らないぞ」
「え!?」
相変わらずブルーノは失礼なやつだな。
ファラーラが賄賂など回りくどいことをするわけがないだろう。
嫌なことはしない。それがファラーラだ。
「先生、課題が少ないほうがいいとか、テストが簡単なほうがいいなどは、学生なら誰でも思うことでしょう? それより、本題に戻りましょう」
「……そうだな」
抗議しようかとも思ったが、殿下が異を唱えてくださった。
それは頭から否定するのではなく、同意、共感を得る方法でさり気なく自分の考えを主張し、話題を切り替えることで話を終わらせられたのだ。
なかなかの手法です、殿下。
今後、その技術に磨きをかけてください。
王宮では絶対に必要になりますから。
「それでは話を戻しましょう。プローディ殿、これがファラーラが特別に作らせた箒です。素材はヒタニレの木を使用しているので、魔力を高めてくれるには十分でしょう」
「ヒタニレで……なぜ箒なのですか?」
「え?」
「ん?」
「確かに」
「まあ、普通にそう思うよな」
そういえばなぜ箒なのだろう。
ヒタニレを大量に使用するのなら、幼い子供用の木馬もどきの……いや、あれは箒よりもやめたほうがいいな。
「その、箒に跨って飛ぶそうだよ」
「跨る? 馬でも初めはなかなか制御できないのに? 万が一、宙に浮くことができるとしても小船などのほうがよくないか? そのほうがヒタニレの使用量も多いだろう?」
そうか。
さすが生意気ではあるが優秀だと評判のプローディ殿。
跨ることにこだわらなければ、他に案はいくらでもあるな。
「だ、だけどほら、小船なんて持ち歩きできないよね? 箒なら軽いし簡単だよ」
「だとして王太子のお前が箒を持ち歩くのか?」
「それは……」
「それならもっと安定感があって持ち運びしやすいものを考えればいいかもしれませんね。小船ではなく……風の抵抗なども考えて、こう、こんな感じのヒタニレ素材の板などどうでしょう?」
それからは殿下とプローディ殿と効率的な形状を考えていく。
そこにいつものごとくブルーノが水を差せば、ファラーラが可愛らしく抗議する。
「先生は『魔法ラブ』の顧問として、もっと自覚を持たれるべきです」
「まず顧問ではないからな。よって自覚は必要ないな」
「フェスタ先生、引き受けられないのですか? 魔法は理論と実践の繰り返しだと教えてくださったのは先生ではないですか」
「そうだぞ、ブルーノ。可能性がゼロでない限り諦める必要はないとよく言っていたじゃないか。試行錯誤に無駄なんて一つもないともな」
「チェーリオ、お前……」
昔はよく魔法技の授業の後に熱く語っていたというのに。
ファラーラの言う通り、ブルーノも私も若者を導いてやるべきだろう。
そのことを思い出したのか、ブルーノはファラーラの提案を試すために箒を手に取った。
本来ならば私が試したいところだが、万が一を考えるとこの面々の中では治癒魔法が一番長けている私は控えるべきなのだ。
悔しいがここはブルーノに譲ってやる。
さあ。飛べ、ブルーノ!
 




