チェーリオ6
「今度は何でファラーラを怒らせたのです?」
「私は何もしていない。あれはブルーノが悪いんだ」
「またケンカしたんですか? 学院で?」
「ケンカなどしていないぞ。ただブルーノに防げる程度の攻撃魔法を仕掛けただけだ」
「……で、ファラーラに怒られたんですか?」
「いや、それは……学院には行かないと約束していたのに、私が現れたことに怒ったんだ。だが、私はブルーノに会いに行っただけで、ファラーラの邪魔をするつもりはなかったんだよ。邪魔をしたかったのは殿下との仲だけだからな。ただちょっとばかりファラーラの学ぶ姿を見たかったというのもある」
「ダメダメじゃないですか」
ベル兄さんは私からの連絡を受け、急ぎ休暇を取って王都に帰ってきたというのに、ファラーラにすぐ赴任地に戻るようにと言われたらしい。
だがファラーラが何もなくそんな理不尽なことを言うわけもないので理由を聞けば、全てがベル兄さんの自業自得だった。
そもそもファラーラとの約束を破るなんてもってのほかだ。
私はこんなに近くにいても約束を守るために会うことを我慢しているというのに。――覗きはしたが。
「とにかく、お前が伝えてくれた通り、殿下はファラーラに本気らしいな。朝の鍛錬に参加して私が『妹との結婚は私を倒してからでないと認められません!』と言うと、殿下は『望むところです!』とおっしゃって挑まれてきたぞ」
「それで、どうされたんですか?」
「世の中の厳しさを教えてさしあげた」
「本気で返り討ちにされたんですね」
まあ、殿下も手を抜かれることは望んでおられないだろうが、それにしてもベル兄さんは大人げがない。
だが殿下がお怪我をされても王宮の治癒師なら心配はいらないだろう。
ということで、ベル兄さん、よくやってくれました。
今までのファラーラに対しての態度の報いですよ、殿下。
「それで、ブルーノとのケンカの理由は何なんですか?」
「ケンカではない。あれは正当な抗議だ」
「はいはい」
「お前の友人を悪くは言いたくないが……」
「常におっしゃっているので気になさらないでください」
「あいつはファラーラに私のことを、まるで多くの女性と付き合っているような浮ついた男のように言ったんだぞ?」
「事実じゃないですか」
最終的に別れの原因がファラーラだったとしても(その時点で別れて正解だが)、次から次へと来るもの拒まずなベル兄さんが悪い。
結局、何だかんだとブルーノの文句を言って、兄さんは赴任地へと戻っていった。
本当に二人は仲が良いよな。
その後も万能解毒薬についての研究は続けていると、当然ながらすべての毒に対する解毒薬を作るのは不可能だという結論が出た。
しかし、これは失敗でも挫折でもない。
成功への一歩だ。
研究の結果、何種類かの解毒薬を作れば、私が認知している毒に対しては効果があるようなのだ。
あとは飲み合わせによる副作用が起こらないように研究を進めていけばいい。
ファラーラが手紙で伝えてきたことによると、もし万能解毒薬が開発できてもそれはファッジン家の秘薬としてほしいとあった。
さすがファラーラ、天才だな。
人類というのは常に進化をしているもので、新しい解毒薬が開発されても、また新たな毒が開発される可能性が高い。
ふむ。〝ファッジン家の秘薬〟か。
最高の響きだな。
トルヴィーニ家に解雇された庭師も後ろ暗いところはないようで、助手としてかなり役立っている。
重要な書類などは見られないように罠を仕掛けているが引っかかった様子もないので、研究内容を盗むつもりも今のところはないのだろう。
もちろん油断はできない。
それは彼に限らず、研究者として常に注意していないといけないことだ。
このまま一年とは言わず、解毒薬が上手く開発できれば半年後にはファラーラと再会できるかと浮かれていたとき。
アル兄さんが帰還したという話を聞いた。
基本的に私は噂の類は耳に入れないが、これはさすがに知らせたほうがいいと侍従が判断したのだろう。
ファラーラと殿下との婚約について知らせたからか、アル兄さんは予定より驚くほど早く戻ってきたらしい。
それにしても、私がファラーラと会うことを我慢しているというのに、兄さんたちはずるい。
しかもアル兄さんはファラーラに会った後、私にも会いにやってきた。
その内容については長いので割愛するが、要するにファラーラは最高に可愛いということだ。
やはりこの研究を急ぎ進め、さらには同時進行している寒冷地の薬草栽培についての研究開発も結果を出さなければいけないな。
そして大手を振ってファラーラに会いにいこう。
だがなんと、神からのご褒美なのか、ファラーラがまた会いにきてくれるというではないか。
私が無理をしていないか心配してくれるなど、間違いなく天使だ。
ブルーノからの知らせに心躍らせていたら、殿下もご一緒だと知らされた。
このまま仕方ないで片づけず、ファラーラが一人でいつでも会いに来ることができるように研究場所を変えるべきだろうな。




