制服1
「――って、お腹の子の父親は誰ー!?」
再び生々しい嫌な夢を見て目覚めた私は、あたりを見回した。
ここは私の部屋で、私はファラーラ・ファッジン。
大丈夫。今度はしっかり自覚があるわ。
自分の手のひらを見て、その大きさからまだ子供だってこともわかる。
今のが夢なのか現実なのかわからないけれど、神様は意地悪だわ。
だって、続きが見たかったんだもの。
あれからどうなったの?
もう一度寝たら続きが見られるかしら。
「ファラーラ様、お目覚めでしょうか?」
「……うん。おはよう、シアラ」
「お、おはようございます、ファラーラ様」
二度寝は諦めよう。
今日も学園だし、もう一度寝るには時間が足りない。
二日目からサボるわけにもいかないし、そもそもすっきり目が覚めちゃったわ。
シアラは未だに私が朝の挨拶をすると驚くのよね。
色々なことに覚醒してからもうひと月にはなるのに、それほど私は酷かったってことかしら。
だけど私はファラーラ・ファッジンだもの。
王太子殿下の婚約者なのよ?
今はちょっとそれがプレッシャーというか、不安でしかないけれど。
「ファラーラ様、本日も制服をお召しになるのでしょうか?」
「ええ、当然よ」
「かしこまりました」
シアラったらおかしなことを訊くのね。
制服なんだから毎日着用するのが当たり前じゃない。
いえ、そうよね。
今までの私は一度袖を通したドレスは二度と着なかったから、そう思うのも仕方ないのかも。
もちろんここひと月は違うわ。
あの水色のドレスなんてお気に入りだから、五日に一度は着ているもの。
そのことにシアラだけでなくお母様も驚いていたわね。
まあ、正直に言えば面倒くさいのよ。
毎日どのドレスを着るのか考えるのが。
シアラに任せると言えば、青ざめて恐る恐る選んでくるから申し訳ないしね。
いつかもう、ドレスが気に入らないくらいで物を投げつけたりしないってわかってくれればいいんだけれど。
いやだわ、私。そうよ、気に入らないことがあれば物を投げ散らかしたりしていたわ。
癇癪ってやつね。
それでお父様に王太子殿下との婚約をねだったんだもの。
殿下との婚約については、またそのうち考えるとして。
とりあえず顔を洗ってから朝食。
昨日のように授業中にお腹が鳴ることだけは避けたいもの。
あとは休憩時間に摘まめるように焼き菓子を用意してもらいましょう。
エルダにお礼もしないとね。
朝食を食べ終えると、制服に着替えて髪の毛を整えてもらう。
うん。やっぱり通学には制服が一番よ。
制服の何がいいって、毎日何を着ていくか悩まなくていいもの。
たとえ『制服組』って言われようが、馬鹿にされようが、これは譲れないわ。
そう思って蝶子憧れの御者付きの馬車(ちょっと違うけど)に乗って、シアラや執事に見送られて登校する。
咲良の性格も実は悪かったようで、おそらくサラ・トルヴィーニも性格が悪そうってことで、二人の共通点がわかったわ。
おそらく殿下は奪われるわね。
今のところ、そのことに問題はないわ。
だってさすがに私、子供に興味ないもの(私も子供だけれど)。
問題はその奪われ方よ。
私があの悪夢のように傲慢お嬢様で殿下に見捨てられ、いい子ぶったサラ・トルヴィーニに奪われるのは許せないわ。
むしろサラには奪われたくない。
いえ、本当はサラはいい子なのかもしれない。
ただ私が勝手に咲良と重ね合わせているだけで……って、昨日の態度からはそうは思えないわね。
だって殿下を奪われるってことは、サラが将来の王妃様になるわけでしょう?
嫌な子に頭を下げないといけないなんて、絶対に無理。
それならいっそ亡命するわ。
うん? 亡命?
それはまあ冗談としても、将来的に殿下との婚約を解消して外国に住むのもありかもね。




