試行錯誤3
「まあ、あれこれ考えず、とりあえず試してみたらどうだ?」
「それならお前が試してみろよ、チェーリオ」
「大地に干渉する土魔法はお前のほうが得意だろう? 心配するな。治癒魔法は私のほうが得意なんだから」
なるほど。
土魔法でもお兄様が緑魔法(仮)を得意なのは知っていたけれど、フェスタ先生は穴掘りのほうが得意なのね。
もし誤って人を殺してしまったときには、フェスタ先生に穴を掘ってもらって、チェリーブラッサムの苗でも植えてお兄様にお世話を頼めば完璧だわ。
もちろん冗談だけど。
とはいえ、私が得意なのは炎魔法で、悪夢の中では一度だけ嫌がらせにムカつく子のスカートの裾に火をつけて驚かせたこともあったわね。
我ながら最低最悪だわ。
いえ、一度だけじゃない。あの結婚式だって……。
「――ファラーラ? 大丈夫?」
「え?」
「顔色が悪いし、座ったほうがいいよ」
「……殿下?」
「うん?」
「ファラーラ! どうしたんだ? どこが悪い? すぐに治癒してやるからな!」
「い、いえ。大丈夫です。ちょっと考え事をしていただけで……」
最悪な記憶を思い出していたせいで、一瞬現状がわからなくなって混乱しただけ。
気分が悪いわけではないけれど、殿下は心配してくださってソファへと座らされてしまった。
お兄様が治癒してくださるとおっしゃっても、本当に大丈夫なのよ。
ただ何かが引っかかって……。
でもいいわ。そんなことよりフェスタ先生がこれから空を飛ぶんだから。
そう思ってフェスタ先生を見たら、心配しつつも訝しそうなお顔で私を見ていた。
急に私がおとなしくなったことを不思議に思ったのかも。
でもこの表情は以前も見たことがあるような……。
「――って、ああ!」
「どうした、ファラーラ!?」
「ファラーラ!?」
「ファラーラ嬢?」
「フェスタ先生が……」
「私? 私がどうかしたのか? ファッジン君、本当に大丈夫なのか?」
「は、はい……」
思わず大声を出してしまって、さらにみんなに心配をかけてしまったわ。
だけどここで本当のことは言えない。
だからここはやっぱり……。
「フェスタ先生はまだ飛んでいないんですね」
「――それが大声を出すほどのことか? そもそも飛べるかどうかわからないからな」
「先生、それではまず私がやってみます」
「リベリオ様?」
「プローディ君が?」
話題逸らしにまさかリベリオ様が乗ってくるなんて。
さすが中二病。やっぱり空を飛んでみたいのね。
「リベリオ、それなら僕のほうが体重も軽いしやるよ」
「いや、エヴェラルドは大切な体なんだから、何かあっても困るだろ?」
「そんなことないよ。いきなり怪我をするほど浮くこともないだろう? それにチェーリオ殿も先生だっているんだから」
「だが土魔法なら私のほうが断然得意なんだから任せてくれ」
「そんな――」
「わかった、わかった! 私がやるから、君たちはひとまず落ち着いてくれ」
「はい、わかりました」
何かしら、このやり取り。
どこかで見たような気がするけれど、まあいいわ。
とにかく予定通りフェスタ先生が試してくださるのね。
「では先生、頑張ってください。イメージが大切ですからね」
「ファッジン君は黙っていてくれないか」
箒を手に持った先生を応援したのに、その言い方はないと思うわ。
わくわくしながら見ていたら先生は箒に跨ることなく、体の前で縦にして両手で持っただけ。
そんな、箒に誓って忠誠を捧げます的なのはいらないんですけど。
「先生、跨らないのですか?」
「別にその必要はないだろう。杖が大きくなっただけだと思えば、これで十分だ」
「ええ……」
そう言われればそんな気もするけれど、まったくもってつまらないわ。
だけどこれ以上は黙っておきましょう。
イメージするには集中が大事。
そのことは私以上にみんなわかっているみたいで、ただ黙って先生を見守っている。
それはとても間抜けな――不思議な光景で、やっぱり箒に跨っていてほしかったわ。
いえ、やっぱりこれでよかったのよ。
だって、先生が箒に跨ったままの姿でいたら、私は笑いを堪えられなかったと思うのよね。
それで、この時間はいつまで続くのかしら。
この無言の時間でまた嫌なことを思い出してしまいそう。
だって、あの嫌がらせはさすがにやりすぎたってことで、私はフェスタ先生の力によって炎魔法を封じられてしまったんだもの。
今まですっかり忘れていたけれど。
あれは学院を卒業するまでの処置だった? それともその後も?
わからない。思い出せないわ。
ただ確かなことは炎魔法を封じられるときのフェスタ先生は私のことを蔑んだ目で見ていたこと。
それでは、あの心配そうな表情はいつのことだったの?
本日5月29日は『悪役令嬢、時々本気、のち聖女。』のコミックス1巻の発売日です。
特典情報など詳しくは活動報告にて。
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