蝶子1
「どうしよう……もし、このまま蝶子さんの目が覚めなかったら……」
「大丈夫だよ、咲良。きっと大丈夫だ」
「でも……私があなたと一緒に行かなかったら、あんなに蝶子さんも怒ることなかったと思うと……」
「咲良は悪くない。悪いのは俺なんだ。俺がはっきりさせなかったから……」
「そんな! あなたは悪くないわ。私がいけないのよ」
「咲良……」
はい。おしまい。
撤収、撤収!
何なの、この茶番。
蝶子が寝ている枕元でくっさい芝居を続けないでほしいわ。
どっちが悪いかじゃないの。
二人とも悪いのよ!
特にお前だよ、この二股野郎!
ジッパー上げるときに×××を挟んで痛みにのたうち回れ!
あら、嫌だわ。
すっかり口が悪くなってしまっているわ。
だけど悪態もつきたくなるわよね。
頭の打ちどころが悪くて意識不明のままの蝶子の枕元でイチャイチャされたら。
って、ちょっと待って。
これは夢?
私はどうして病室のベッドで寝ている蝶子とバカップルを俯瞰して見ているの?
「やっぱり私……このままじゃ、あなたと結婚できない!」
「何を言っているんだ!? それじゃ、お腹の子はどうするんだ!?」
「ごめんなさい! ごめんなさい! 本当は……本当は私、あなたの子なんて妊娠していなかったの!」
な、なんだってー!?
いやいや、ますます茶番に拍車がかかってきましたね。
さすがに彼も驚いているわ。
いい気味。咲良にはめられたのね。
あら、それでは蝶子も?
今さらどうでもいいけれど。
ってよくない! 蝶子は死にかけているじゃない!
どういうことか、きっちり説明してもらいましょうかね。
「ど、どういうことだ……? 君は妊娠したと言って、あの超音波写真を見せてくれたじゃないか……」
「この子は……あなたの子供じゃないの」
な、なんだってー!?
そっちか! そっちの展開にもってきたか!
「嘘をついたのか!? 俺を他の男と二股にかけていたのか!?」
お前もな。
さあ、どうなるのかしら。
わくわくしながら見ていると、咲良はすっと彼から――ベッドから離れて出口に向かった。
「あなたから食事に誘われたとき、あなたが蝶子と付き合っているってSNSで見て知っていたの。だから学生時代の仕返しに奪ってやろうって思ったんだけど……」
まさかの計画的犯行!
いえ、そもそも誘ったのは彼のほうだわ。
それにしてもセレブに憧れて始めたSNSでこんなことになるなんてね。
本当に馬鹿だわ、蝶子。
「それじゃあ、俺のことを好きだって、愛してるって言ったのは嘘だったのか?」
「……はじめは嘘だった。でもだんだんあなたに惹かれていって……後に引けなくなったの」
いや、引けよ。
相手にも自分にもそれぞれ恋人がいたんでしょうが。
何をこの期に及んで悲劇のヒロインぶっているの?
そもそもお腹の子供の父親とはどうなったの?
「こんなことになった今、私は罪悪感に押しつぶされそう。それに、この子の父親を一生偽って生きていくなんて間違ってるって気付いたから……。ごめんなさい。さようなら」
「咲良!」
 




