食堂2
「エルダ、あそこが空いているから、あそこにしましょう」
「え? でも――」
二人ともトレイにいくつかの小皿を載せて、空いている席を物色。
いい感じの窓際の空席を見つけたので、私はそちらに向かった。
エルダは何か言いかけたけれど、すぐについてくる。
この席、気に入らなかった?
日焼けが気になる?
でもちょうど木陰になっているから大丈夫よね。
そう思ってトレイを置くと、エルダは私の向かいに置いた。
「ちょっと! あなた、何様のつもり!?」
はあ? ファラーラ様ですけど?
とは声に出さず、振り向いた。
謙虚が大事。私は優しい女の子。
「どうかされましたか?」
「どうかしたじゃないわよ。そこは制服組が座っていい場所ではないのよ!」
「制服組?」
イライラした様子で私たちを睨みつける女子生徒はとても背が高い。
いえ、私が低いのね。
そういえば成長しても背だけは低くて私のコンプレックスだったのよね。
それで私ってば、女子にヒール禁止令を出したのよ。
え? それって本当に何様?
「あなたたちのような制服しか着ることができない庶民のことよ!」
「ああ、それでは先輩方はドレス組ですね?」
「何ですって!?」
「ファラ、それはまずいって」
よく陰で言われていた言葉をそのまま口にすると、先輩は怒りに顔を歪ませた。
『制服組』って庶民に対する蔑称みたいなもので、それに対抗して一般の子たちは私たちのことを『ドレス組』って陰で言ってたのよ。
陰でっていうのは、私たちに聞かれたら怒られるってわかってたからみたい。
だけど、ちゃんと私たちは知ってたのよね。
怒られる、なんて言い方は生易しいかも。
きっと悪夢の中の私が直接耳にしていたら、その子を学園から追い出したでしょうから。
いえ、これはただの予想で記憶にはないから、実際にはしていないはず。たぶん。
「あなた、今日入学したばかりなのに残念ね」
「なぜですか?」
「さっそく退学することになるからよ」
「ですからなぜですか?」
わかっているけど、ここはあえて訊くわ。
以前の私はこんな陰湿なことを貴族の当然の権利だと思ってしていたのね。
ノブレスナントカの精神はどこにあったのかしら?
……ないわね。
私がまっすぐに見つめて問いただせば、先輩たちはちょっと怯んだ。
そうなのよ。
こうしてまっすぐに見つめられると、予想外の反応に混乱するのよね。
庶民は高貴な私たちの前ではおどおどするものって思っているから。
あら? そういえばこちらの方、どこかで見たことがあるわ。
ひょっとして誕生パーティーにいらしてくださっていたのかも。
三人のうちの一人を目にして、何か思い出せそうでモヤモヤ。
蝶子のことはよく覚えているのに、私の悪夢に関しては今一つなのよね。
そのせいか、誕生パーティーより以前のことがぼんやりした感じ。
「あ、ファラーラ様! やっぱりこちらにいらっしゃったんですね!」
「私たち、教室で待っていたんですよ?」
「……ミーラ様、レジーナ様、ごめんなさい。待っていてくださるとは知らなかったから」
「ファラーラ……?」
私たちが未だに立ったまま、先輩たちにつかまっていると、ミーラ様とレジーナ様がやってきた。
淑女としてちょっと声が大きいけれど、まあまだ十二歳だし、仕方ないわよね。
いえ、もう十三歳かしら?
私は誕生日が遅いから、だから成長も遅いと思っていたんだったわ。
と、余計なことを思い出している場合じゃなくて、先輩方は私の名前を聞いて驚いているみたい。
それもそうよね。
だって私は王太子殿下の婚約者、ファラーラ・ファッジンだもの。
おほほほほ!
名前だけは有名よね。
一般出身のエルダも知っていたくらいだから。
さて、先輩方はどう出るかしら?




