秘密2
ちょっと失敗してしまったけれど、私にしてはなかなかいい感じに言えたと思うわ。
うん。
だけどお父様は未だに咳き込んでいらっしゃるし、お母様は驚いて近づいてきた執事とメイドに手を振って下がらせた。
それからすぐに浄化魔法で零れてしまったお茶を綺麗にする。
「お父様、お母様、大丈夫ですか?」
「ええ、私は大丈夫よ。幸いカップは無事だし、中身もほとんど入っていなかったから。それよりもファラーラ、今何て言ったのかしら? どうやら聞き間違えてしまったみたいなの」
いつもの優雅で優しい微笑みを浮かべるお母様のお顔が怖く見えるのはなぜかしら。
お父様のことを気遣いもしないなんて。
やっぱり今の言い方でもまずかったみたい。
助けを求めるように見ると、お父様は咳を落ち着けるためにお水を飲んでいらっしゃった。
ここは私一人でお母様の笑顔に立ち向かわなければならないのね。
これが好奇心を持つ者の宿命。
それならば『ありのままを話す』戦法よ!
「その、フェスタ先生はチェーリオお兄様のお友達だと思っていたのですが、ベルトロお兄様ともずいぶん親しくされているように見えました。そうそう、あれだけ学園には来ないでってお兄様にお願いしたのにいらっしゃったんですよ。約束を破るなんて、ベルトロお兄様は酷いですよね?」
「そうね。それはいけないことね。それでファラーラはベルトロに怒ったのね? ベルトロはひどく落ち込んだ様子で赴任地に戻っていったけれど、自業自得だわ」
お母様が同意してくださってひと安心。
休暇で帰ってきたばかりなのに、すぐに赴任地に戻っていただくのはやり過ぎだったかなって思ったのよね。たった今だけど。
フェスタ先生との関係に気を取られて、本体のことはすっかり忘れていたわ。
「それで、何がどうなってベルトロとブルーノ君が……その、何だったかな?」
「はい。ですから、お二人はとても親しいように見えたんです。それなのにフェスタ先生はベルトロお兄様とは親しくないときっぱりおっしゃって、それで……」
あら? 別にフェスタ先生はお兄様との関係について特に何もおっしゃっていなかったような?
咳が治まったお父様に説明するうちに、記憶が整理されて何かが間違っていたような気がしてきたわ。
ええっと。フェスタ先生がおっしゃっていたのは、単に私が秘密を守れるから教えてもいいだろう的な感じ?
それから邪魔が入って、結局はお父様に訊ねればいいとなったのよ。
ということは、お二人の関係に秘密があると思ったのは私の勘違い?
それではフェスタ先生はいったい何の秘密を私に教えてくれようとしたのかしら。
やっぱりお父様にお訊ねするしかないわね。
「ベルトロお兄様はフェスタ先生に会うために来たんだとおっしゃっていて、フェスタ先生とはちょっとしたケンカのようになったんです」
「まあ、痴話ゲンカかしら? ベルトロは恋人から、あなたと――ファラーラと自分のどちらが大切かなんてよく訊ねられるそうなのよね。それで結局振られてしまうのだけど、いつの間にかベルトロは軽薄な遊び人のように噂されるようになって……。もちろん新しい恋人を次々と作るのも問題だとは思うのだけれど。今回もまたケンカの原因は同じなのかしら……」
「それは……」
お母様、先ほどはショックを受けていらっしゃったような気がしたのですけど、もう受け入れられたのですか?
しかもフェスタ先生とのケンカの理由が私だと思っていませんか?
その通りではあった気がしますが、内容がちょっと違います。
あと結局女性に振られてしまうということは、お兄様は私を優先されたわけですよね。
重いです。お兄様の愛が重いです。
「こらこら、話が逸れてしまったじゃないか。ファラーラが困惑しているよ」
「あら、ごめんなさいね。それで二人はケンカしてどうなったの?」
お母様、わくわくされていますね。
噂話にはあまりご興味がないのかと思っていましたが、身内のことになると違うのでしょうか。
それともこれは噂ではなく事実だから?
「それから、ええっと……ベルトロお兄様がフェスタ先生に、おそらくですが一点集中型の攻撃魔法を放ったようです」
「まあ……」
「私怨での攻撃魔法を放つなど――しかも学園でなど、許されざる行為だな」
「で、ですが、護衛が言うにはお兄様はフェスタ先生がしっかり防がれることをわかったうえで、その程度の攻撃しか放っていないと……」
しまったわ。
これではまるで告げ口したみたい。
でも悪いのはお兄様なのだから、私が気にする必要はないわよね。
「その、とにかく、お二人がご友人でないのならどのようなご関係なのかと訊ねたところ、フェスタ先生は私なら秘密をぺらぺらと話すようなことはしないだろうからと……お父様にお訊ねしなさいと言われました」
先生のおっしゃったことを整理してみれば、やっぱりどこにもベルトロお兄様との秘密の関係など出てこないわね。
ということは、私の大きな勘違いだったみたい。
ここは誤解しているらしいお母様に訂正しておくべきかしら。
うーん。
だけどまあいいわ。
また話が逸れてしまいそうだし、早く秘密が知りたいもの。
「確かに今のファラーラならブルーノ君の秘密を知らせておいても問題はないだろう」
「あなた、まだファラーラには早くありませんか?」
「いや、将来のことを考えても知っておくべきだと思うよ。何より、ブルーノ君自身がそう判断したようだからね」
お父様、わかってはいますが、以前の私なら知らせなかったということですね。
そういえばそうだわ。
だって、悪夢の中の私はフェスタ先生のことを馬鹿にしていたというか、気にも留めていなかったものね。
それにしてもいったいどんな秘密があるのかしら。
わくわくが止まらないわ!
でも顔に出してはダメ。
私は女優。神妙な面持ちで聞くのよ。
「お父様。私、秘密はきちんと守りますわ」
「うむ。そうだな……。ブルーノ君の家はかなり複雑なんだが、結論から言えば、ブルーノ君は幻惑魔法の使い手なんだ」
「幻惑魔法!?」
って、何ですか、それ。




