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後始末1

 

「――さいっってぇ!」



 何なのあれ? あの使用人もどき男は何なの!?

 浮気男よりたちが悪いじゃない!



「ファラーラ様! いかがなされましたか!?」



 私の叫び声に驚いて、シアラがノックもなしに寝室に飛び込んできたわ。

 だけど、怒りのあまり言葉も出ない。

 ああ、腹が立つ。

 どうすれば蝶子にこのことを伝えられるの?

 ああ、もう!



「ファラーラ様、やはりご気分が優れないのではありませんか? 本日は学園をお休みされたほうがよろしいのではないでしょうか?」

「……行くわ」



 私が今日休むとエルダたちにすごく心配をかけるもの。

 昨日だって会場に戻ってから大変だったのよ。

 みんなから心配され、同情され、私の代わりに怒ってくれる人もいて。

 なんて言えばいいのか、びっくりよ。


 以前の私に自覚はなかったけど嫌われていて、私のことを心配してくれる人なんて家族以外にいなかったはず。

 見せかけでなく、みんなから心配されたのはくすぐったくて変な感じだったわ。

 この私が同情までされるなんて。


 そしてサラ・トルヴィーニを責める声をたくさん聞いたわ。

 まるで咲良を虐めたときの蝶子のようで古傷が痛むから、「それ以上言わないで」と止めれば「なんてお優しい」とかってまた感動されてしまった。


 夜にはサラ・トルヴィーニがご両親と――伯爵夫妻と謝罪にいらしたのよ。

 私のお父様もお母様も「事故だったのだから」とか「大事にはならなかったから」とお許しになっていたわ。

 私もにっこり笑って許してあげた。

 これでお父様はトルヴィーニ伯爵に大きな恩を売れたわよね?

 この出来事は社交界でも噂になるはずだもの。


 サラ・トルヴィーニはちょっとした嫌がらせのつもりだったみたい。

 それがどれだけ大事になるか考えていなかったらしくて、顔色は悪く謝罪以外何も言葉にしなかったわね。

 まあ、まだ十三歳。子供だから仕方ないわ。私も子供だけど。



「ファラーラ様、どうかご無理をなさらないでくださいませ」

「ええ、シアラ。大丈夫よ」



 心配するシアラに見送られて登校する。

 ふふふ。

 私が今日欠席しないのはもう一つ理由があるのよ。

 それはサラ・トルヴィーニの凋落を見るため!


 昨日は学園の女生徒がほとんど全員参加していたんだから、学園でも噂になるなんてレベルではないわ。

 目撃者は多数。

 さあ、どんなお顔で登校するのかしらね。



「――ファラーラ! 怪我をしたって聞いたけど、大丈夫なのか!?」

「……おはようございます、エヴィ殿下。ご心配には及びませんわ。ほんの少し棘で指を刺してしまっただけですから、もう傷もありませんの」

「よかった……。あ、おはよう、ファラーラ」



 馬車から降りた途端、殿下に声をかけられてびっくり。

 待ち伏せですか。怖いです、殿下。

 だけど心配をしてくださったのだから文句は言いません。

 

 もう傷もわからないくらいになっている指を見せると、殿下は納得されたみたいでほっと息を吐かれた。

 それからようやく思い出したように挨拶。

 シアラが大げさに包帯を巻こうとしたのを断ってよかったわ。

 これみよがしなアピールはかえって嫌みにしかならないものね。



「本当なら僕も参加して一緒にいたかったけど、女生徒限定だったからね。まさかこんなことになるなんて……。サラは謝罪したかい?」

「……ええ、夜に伯爵ご夫妻とご一緒にいらっしゃいました」

「そうか……」



 なぜか殿下が女装された姿を想像してしまって、ちょっとつらいわ。

 笑えるどころか、似合うと思えるんだもの。


 そんな私の内心とは違って、重々しく頷かれた殿下はさり気なく腕を差し出してくださった。

 私はついつられて手を添えてしまったけれど、これから向かうのは舞踏会ではなく教室です。

 朝からこんな、フェスタ先生曰くバカップルのような行動をしていていいのかしら。


 いえ、よくないわよ。

 これではまるで公認の恋人同士みたいじゃない。

 まあ、公認の婚約者だけど。

 距離を取るって決めたのに。

 このままぼやぼやしていたら、私の悠々自適生活の計画がダメになるわ。


 昨日のことでよくわかったもの。

 権力なんて持ったっていいことないのよ。

 この先、命を狙われるとか怖すぎるわ。

 

 だけど殿下はどうなのかしら。

 今のところご兄弟はいらっしゃらないけれど、もし殿下に何かあれば一応はプローディ公爵が継承者となるわけで。

 その次代といえばリベリオ様なのよね。



「……エヴィ殿下、私の怪我のことは誰にお聞きになったのですか?」

「今日、学園に登校したら耳にして、近くにいた女生徒に詳しく聞いたから……名前はわからないな。せっかくのパーティーだったのに、サラのせいで台無しになってしまったね」

「……いえ、棘の処理忘れはよくあることですから」



 そういえば、今回のことで庭師が罰せられたりしていないかしら。

 調べさせてもしクビになっていたら、こちらで雇ってあげて恩を売りましょう。

 それからチェーリオお兄様の助手として働いてもらうのよ。

 ふふふ。


 それにしてもやっぱり内宮までは噂が届かなかったのね。

 ええ、本当によくあることだわ。

 誰かが噂を制御すればいいんだもの。



「……殿下、どうかお体にお気をつけてくださいね。お怪我とか、ご病気とか」

「え? それはもちろん、気をつけるよ。ありがとう、ファラーラ」



 にこっ。ではありません、殿下。

 以前の殿下はおそらく王妃様の――サルトリオ公爵の思うようにお育ちになったのかもしれませんが、今の殿下は危険です。

 それもこれもたぶん私のせい。

 というわけで、責任は取れませんが応援はいたします。



「エヴィ殿下、今日の授業も頑張ってくださいね。特に魔法技や薬草学は御身を守るために大切なことですものね」

「――うん。わかった。頑張るよ」



 よし、これでひとまず応援は完了。

 次はやっぱり婚約解消のためにどうするか本気で考えないとね。




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― 新着の感想 ―
[一言] とても面白く一気に読ませて頂きました。ファラの性格や時々文末に入る擬音が可愛いです。 怖い目にあった後に自分を心配してくれる婚約者…可愛いと思わずにいられようか。ここの殿下視点読んでみたいで…
[一言] 面白いです。続きをお願いします。
[一言] >責任は取れませんが応援はいたします。 いやいやいや。もう殿下は絶対に放してくれないでしょう。すでに溺愛モードじゃないですか。全然逃げ切れる気がしません (^^)。
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